新入生への挑戦状 7
もう1冊のワークを持って俺は小高理子と金田真知の壁新聞の前に立つ。悪いとは思いつつもワークを開いて中身を凝視する。授業が始まってあまり日数が経っていないので贅沢だとは思いつつもできるだけ手書きの日本語の文字が多く書かれたページを探した。
「ワークの中身の筆跡を見分けようっていうの?」
後から来た牧羽美緒が俺の手元を覗き込む。俺はこくりと頷いた。
ワークの筆跡と新入生の目標の文字を見比べれば持ち主が特定できる。何人もいたら似たような字もあって見分けるのは難しいだろうけれど、2人の文字のうちどちらに似ているかくらいなら俺でも見分けることができるだろう。
ワークの文字はいわゆる丸文字の傾向がある。小高理子の字はワークの文字にかなり似た丸文字、金田真知の字は薄いが教科書によくあるような字だった。
つまりこのワークは小高理子のものである可能性が高い。念のため澄香、篤志、高瀬先輩にも文字を見てもらった。3人とも小高理子の文字に似ていると言った。
「まあ、そのワークが小高さんのものであるっていうのはまあいいわ。でも、何で彼女の机の中に私のワークが入っていたわけ?」
牧羽美緒に聞かれたが、「俺もそれは分からない」と答えた。
「小高さんが配り忘れたんじゃないかな? どうやら英語係のようだし」と高瀬先輩が言う。
教室に戻って係・委員会の表を確認すると、確かに小高理子は英語係だった。
「じゃあ、森永先生が宿題チェックをした後、名前が書いていないワークが2冊あったにも関わらず係の人に返却を丸投げしたってことですか?」
牧羽美緒が高瀬先輩に問い詰めるがごとく近寄った。「あ、でも森永先生って結構人遣いが荒いところあるよね」と澄香がフォローを入れる。
「大丈夫か、森永先生」と篤志は呆れている。
「でも2人とも宿題出していないことになっているんだよな」と俺はつぶやいた。
「……仕方ないわね」
牧羽美緒が手を差し出した。
「小高さんに言っておかなくちゃ。人から預かったものはすぐに持ち主に返しなさいと。ついでに全部渡しておくわよ。あなたたちが渡しに行っても怪しまれるだけでしょ。その足で森永先生のところに行ってくるわ」
牧羽美緒は俺たちが持っていたメガネケースと手紙を受け取ると、スクールバックを肩に引っかけて「後はよろしく」と教室を出て行ってしまった。
「……みんなも時間だから今日はもう下校しよう」
高瀬先輩が見ている方を見ると、4時半を示す時計があった。背面黒板をちらっと見ると、もうすべての名前が消されている。いつの間にこんなに時間が流れたんだろう。
俺たちはまだ明るい西日の差す教室を後にした。
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