研究部を探せ 4
放課後、俺たちは多目的室の前で待ち合わせた。
「ここは何の教室なの?」と澄香は聞く。
「多目的室だって言われたけれど……よくわからないや。研究部の部室かどうかも分からないし」
実際ここを指定したのは、方向音痴の俺でもわかりやすく、人気の少ない場所を考えたからだ。今日も読めない看板がかかっている。
「『Radio』かな?」と澄香がつぶやいた。確かにそう読めなくはない。
「でも、ラジオ部もなかった気がするんだけれど……」
澄香の言うとおり、ラジオ部という部活はないはずだ。俺は一通り久葉中の部活について調べてきた。
久葉中学校には公式の部が11団体存在する。そのうち運動系の部がサッカー部、陸上部、野球部、テニス部、バスケ部、バレー部、卓球部、剣道部、柔道部、文化系の部が吹奏楽部、美術部である。このうち、サッカー部と野球部は男子のみ、バレー部は女子のみ募集をしている。考えても分かる通り運動系が多い。
「研究部ってどこで活動しているんだろうね。ちょっと広いスペースは吹奏楽部や卓球部、美術部、柔道部とかが使っているのを見たし」
「そうなの?」
澄香に言われて初めて知った。俺は運動系の部活ばかり参加をしたから、活動場所はだいたいグラウンドまたは体育館だった。そのような場所はだいたいどの部活も必死で陣取りしている。当たり前だが研究部の活動場所は校舎内だろうと言うことくらいしか考えていなかった。だとすると、研究部はそういうスペースにもいないということだ。
澄香は向かって左側の引き戸の取っ手に手をかけた。ドアはびくともしない。
「開かないよ」
「鍵がかかっているんだ」
何の教室なのかはさっぱり分からないが、やたらと人に入られても困るのだろう。誰も使わない教室に鍵をかけるのは当然と言えば当然のことだ。この教室のもう片方のドアも開かない。中を覗こうととしても、ドアについている窓には紙が貼ってあって中の様子を見ることはできない。俺たちは結局『Radio』の看板の前へと戻ってしまった。
「でも、これなんだろうね」と澄香が看板をめくってみると、パッと手を離して一歩後ずさりした。
「どうした、澄香」
「元気、この裏――」
澄香が『Radio』の看板をめくって見せると、そこには『研究部』の文字があった。
「これ、研究部の看板ってことか?」
「もしかしたら……そうだよね?」
今までほとんど手がかりのなかった研究部。それがここにきて研究部の看板を見つけたとなると。
「すごい! すごいよ、澄香! 部室が見つかったのならもうすぐ見つかるんじゃないか?」
「そうだね。でも——」
澄香の言わんとしていることは分かる。この教室に入れないのでその先はどうしようもない。
「何してるんだ?」
後ろからいきなり声がしたので、俺は思わず振り返ってみてしまった。声の主であるジャージ姿の男子生徒が駆け寄ってきた。
「お、
「『お、篤志! 久しぶりだな』じゃないよ、全く、人騒がせな」
彼の名は
「どうした?」
「どうしたって……こんなところにいるから何してるんだろうと思って……」
篤志は俺の後ろにいる澄香のことを見た。
「ああ、小倉澄香。小さいころ、よく一緒に遊んでたんだ」
俺が紹介すると、澄香は前に出て「初めまして」とお辞儀をした。篤志の方も「1年C組の城崎篤志です」と軽く頭を下げた。そんな風に接する篤志は珍しいな、と思った。
「要するに幼馴染か。そんで、何してたの?」
俺と澄香は顔を見合わせると、事の発端から話を始めた。篤志はうんうんと聞いていた。
「つまりここが研究部の部室ってことか。あれ、でも確か多目的室に鍵はかかっていないはずだぞ」
「え?」
俺と澄香は顔を傾げた。
「僕が係の仕事でワークブックを取りに行くときに、この教室の前で呼び出されたことがあった。けれどこの教室に入る前に普通にドアを開けて入ったんだ。つまり、普段はこの教室に鍵はかかっていないってことだよな? それに、いちいち鍵をかけると教具を取りに行くのにかなり不便じゃないか?」
それもそうである。今朝田村先生は多目的室から出てくるのを見たが、鍵は閉めていなかった。もともとこの教室の鍵は閉めないのかもしれない。
「でも本当に開かないのか?」と篤志は聞く。俺は「何なら自分でやってみてよ」とドアの正面を開けた。
篤志は半信半疑といった様子で、右側のドアを引こうとした。ドアはびくともしない。
「開かないな」
「だから鍵がかかっているんだって」
中の様子は分からないが、おそらく他の教室と同じ種類の鍵なので想像がつく。外からは鍵が必要だが、中からはレバーを上げ下げすれば鍵の開け閉めができるものだ。
「向こうのドアも開かないんだよ」と澄香が答えた。篤志は腕組みをしながらこう言った。
「そこまで分かっているのなら、職員室に行こう。鍵を借りれば開けられるだろう」
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