研究部を探せ 2
増田教頭先生は、背の高い、50代前半くらいの先生だった。かなりがっしりした体格なので、若いころにはスポーツマンだったのかもしれない。
「蓬莱君、学校には慣れてきましたか?」
「はい。まあ……」
道を教えてくれた彼には学校には慣れていないように見えたのだし、無事に職員室に辿り着くと仮谷先生にも「やっと来たな。迷ったか」とも言われたのだから嘘と言われればそうであろう。ちょっとまずいかとも思ったけれど、向こうは「そうですか」と言ってこちらを向いた。
「単刀直入に聞きます。君は、3年前のあの日以来、蓬莱先生に会ったことはありますか?」
俺は「ありません」と答えた。
「では、連絡があったことは?」
「ありません。噂すら聞いたことはありません」
増田教頭先生は「そうですか」と言った。全く味気のない会話だ。わかったことがあれば久葉中に連絡することになっている。そう約束したのだから何も知らないことくらいわかっているだろう。むしろこっちが知りたいくらいだ。俺たちは家庭のことを根掘り葉掘り聞かれたが、中学校での父さんの様子は一言も教えてはくれなかった。
「もう、いいですか」
俺は立ち去ろうとした。
「質問自体はこれで終わりです」と増田教頭先生は答えた。「ただ――」と続けた。俺は再び増田教頭先生を見た。
「蓬莱君はもう入る部活を決めていますか?」
唐突な質問だったため思わず顔に出てしまったが、少し考えて「まだ決めていません」と答えた。
「そうですか。まあ仕方ないでしょう。運動部なら9つ、文化部も2つありますからね。まあバレーボール部は女子しか部員を募集していないようですが。しかしこれはあくまで公式の部ということです。
ただ、久葉中にはもう一つ部活が存在する、ということを知っていますか?」
「そうなんですか!」
俺がそういうと、職員室にいた先生のほとんどがこちらを見た。俺は周りを見回すと、「すみません」と小さく頭を下げた。増田教頭先生はコホンと咳ばらいをした。
「どんな部活なんですか?」
俺は声を小さくして聞いてみた。
「どうやら研究部と呼ばれる部活のようです。実は私にも分かりません。一応まだ部員がいるとの話ですが。いつどこで何をしているのかすら不明な部活です。顧問も今はいるようないないようなもので、私もよくは知りません。
ただ、蓬莱先生が顧問をしていらしたそうです」
研究部。思えば父さんがあまり部活について話すことはなかった。むしろ避けていた話題かもしれない。
「気になりますか」
「もちろん」
俺ははっきりと答えた。
「なら蓬莱君、君が探してみたらいかがですか? 意外と生徒の方がよく知っているかもしれません」
研究部を自分で探す。父さんのことを知るなら一番の方法ではないだろうか。
「やってみます」
俺は答えた。見つけて見せる。研究部。実態すら分からないその部を見つけることから始めるんだ。
増田教頭先生は「そうですか」と微笑みながらうなずいた。
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