#20:街を荒らす三銃士 - 1

 外の無骨な外壁とは違い、ここは白を基調としたきらびやかな宮殿である。

 まだ早朝だからなのか、通路を歩く者は僅かな兵士と小間使いぐらいしか見かけない。


「こちらでお待ちください」


 と、兵士に通された客室は、女の子なら誰でも羨むほどの美しい部屋だった。

 輝くシャンデリア、金糸や絹を使ったベッドにソファー、それにカーテン。

 窓辺には飾りテーブルに高級そうな花瓶と薔薇が活けてあり、手入れが行き届いているのが分かる。


「中は思った通りのお城かなっ」


 シュテラは腰に手を当てて満足そうに部屋を見渡した。


「でも、どうして外と中でこんなに見た目が違うんだろう?」


 エーラはそうですね、と呟いてから窓の外に視線を移した。

 ここからだと城の外観が分からない。ごくごく普通の、整備された庭園があるだけだ。


「城の外側があのような姿になったのはつい最近のことで、敵からの攻撃に耐えうる造りにしたからです」

「大きな大砲でも撃ってくるの?」

「……そのようなモノです」


 エーラは言葉を濁した。


「もしかしたら大砲のがマシかもしれませんがね」


 しばらくして、コンコンと戸を叩く音がした。

 返事を待たずに部屋に入ってきたのは、この王宮に似合わず見すぼらしいローブを纏った、小柄で初老の男だった。


「エーラ!」

「ケイネス殿! 貴方にお会い出来て良かった!」


 ケイネスは上着のポケットに突っ込んでいたしわくちゃの手を取り出して、エーラの手を両手で包み込んだ。


「……このお嬢さんは?」


 ケイネスが尋ねると、シュテラは一歩前に出てスカート替わりのマントを持ち上げ、恭しく礼をした。


「初めまして、ケイネスさん。シュテラ・エスツァリカと申します」

「サイラス殿の義理の娘ですよ」


 エーラがすかさず付け加えた。

 ケイネスは一瞬固まったような表情を見せたが、直ぐに、ああ、と人指し指を立てて何度も頷いた。


「分かったぞ! 半年前の──」

「ケイネス殿!」

「おっと、失礼」


 慌ててエーラが遮ると、ケイネスはおほん、とわざとらしい咳をした。

 シュテラは何のことだろう、と首を傾げる。


「それどころではないんだったな。サイラスがグリュプスにやられたと?」

「ええ。解毒剤を試しましたが、効かないようでした」

「また新種か!」


 ケイネスは頭を掻きむしった。


「ヤツらは毎年このわしを悩ませる!」


 ──毎年?

 シュテラはその言葉にただならぬ不安と疑問を感じた。


「お義父様は、毎年あのような怪物と戦わなければならないのですか?」


 ケイネスは躊躇なく頷いた。


「だが、数年前まではこんなに新種がやって来ることはなかったのだ。どういうわけか、三年ほど前から現れ、その度に薬の配分を換えねばならん」


 シュテラは下唇を噛んだ。


「教えて下さい! どうしたらいいんですか!?」

「毒を分析すれば解毒剤は作れる。しかし、それには薬草が要るんじゃ」


 ケイネスはテーブルの上にある書簡用の羊皮紙とペンを取り、手早く何かを書いてエーラに渡した。


「お前なら分かるだろう。必要な薬草のリストだ。直ぐに採ってきてくれ。その間にわしは旅の支度をしよう」


 渡された羊皮紙に目を通したエーラは「なるほど」と頷いた。心当たりがあるようだ。


「では、直ぐに行ってきます」

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