第11話

 朝起きると頭が割れるように痛かった。

 まるで思考が働かず、ぼんやりとおぼろげな夢の影をいつまでも引きずっていた。夢の中でも僕は何かの答えを探していたが、何を求めていたのかすら、僕は思い出せずにいた。

 上半身を起こして、自分の裸体とおはようの挨拶を交わした。


「ようやくお目覚めね。早く洋服ぐらい着たらどう?」


 青いワンピースの女の子が部屋の扉を開けて中に入ってきた。とは言っても青いワンピースはもう着ておらず、妹とお揃いの紫色のボーダーの部屋着を着ていた。窓の外、ベランダの先に視線を向けると、太陽はもう随分と高いところで地上を照らしていた。どうやら大分寝てしまったらしい。


「妹と仲良くしてくれて嬉しいわ。あの子少し変わっているから心配していたの」

「だから、わざわざ用事を作って出て行ったのか?」


 問い詰めるように言うと、彼女はクスクスと笑った。


「あら、気がついていた? 妹がビールなんて飲んでいたから驚いちゃったの。でも、私も一言言わせてもらいますけど、名前も分からない女の子の家にのこのこ来ちゃダメ、それは優しさじゃなくて単なる同情よ」


 彼女は責めるように言った。


「気がついていたんだ。今度はもっと上手く演技するよ」

「あら、演技は上手かったわよ。でもね、女の子ってあなたが考えている以上に注意深いのよ。それにこれからは芝居するんじゃ無くて、素直に尋ねなさいな。そうすれば少なくとも送って欲しいなんて言わないから」


 僕は手を広げて降参のポーズを取った。左腕が妙に重く、その重みが何かが足りないことを僕に思い出させてくれた。彼女がいなかった。僕が部屋の中を見回すと、青いワンピースの女の子は意地悪そうな笑顔を浮かべて僕を見た。


「あなたが乱暴にするから出て言っちゃったわよ」


 その時僕はどんな表情を浮かべたのか、検討もつかなかったし見当もしたくなかった。目の前から大きな笑い声が聞こえた。


「冗談よ。多分あなたと顔を合わすのが恥ずかしかったのね、早くに出て行ったわ」

「どこへ?」

「さぁ、図書館じゃないかしら。これ妹の電話番号。電話してあげてね」


 彼女はベッドで上半身をもたげている僕に近づいて、電話番号の書いてあるメモ用紙を渡した。僕がメモ用紙を受け取ると、彼女は切なそうな、身を切り裂かれるような表情を浮かべて僕を見た。


「あなたの気を重くするわけじゃないし、変な責任感とか同情とか持たれると嫌なんだけど、大切にして欲しいの、妹のこと。別に恋人同士になれとか言ってるんじゃないのよ、ただ仲良くしてくれたら嬉しいなってこと」


 そこには心配性でお節介な姉の表情があった。僕は何も言葉が思い浮かばない代わりに、彼女の震える瞳を見て頷いてから立ち上がった。


「一つ提案があるの、そろそろ下着を着たらどうかしら?」

「すまない」

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