第13話 嫉妬したからって、私があなたを好きって訳じゃないんだから!
有栖川亜梨沙は大富豪である有栖川龍之介の一人娘で、高校二年生です。
ちなみに亜梨沙はそれなりに美少女です。でも胸が小さいのを気にしています。
小さいどころか、
男子達の多くは亜梨沙と付き合いたいと密かに願っています。
そんな亜梨沙の邸に新しく執事が来ました。
その人の名はトーマス・バトラー。執事の本場である英国の出身です。
金髪で碧眼。その上イケメンで、亜梨沙は完全に一目惚れしてしまいました。
でも誰にも言えずにいます。
ところが、親友の桜小路蘭には見抜かれてしまいました。
でも、亜梨沙はそれに気づいていません。
蘭は、里見美玲先生の誘いに危険を感じながらも、何が待ち受けているのか興味が湧いたので、ついて行く事にしました。
結構冒険家気質の蘭です。
「貴女、モテるのね、桜小路さん。私、日に何度も恋愛相談を受けるんだけど、男子の思い人のほとんどが貴女よ」
前を歩く里見先生がチラッと振り返って言いました。
「そうですか」
蘭は作り笑顔で応じます。
(何を企んでいるのよ、この魔女は?)
蘭は里見先生の真意を探ろうといろいろと考えを巡らせました。
(美術室の情事の黒幕はこの人だという噂を聞いたわ。だとすると、ますます何があるのか知りたくなる)
蘭は、まさか美術室に自分を襲おうと待ち構えている三年生男子がいるとは思っていません。
その二人をジッと見ている者が二人います。
一人は美津瑠木新之助先生。
そしてもう一人は高司譲児。
二人は互いの存在に気づく事なく別の方向から里見先生と蘭を見ていました。
第三者が見れば、ストーカーです。特に新之助先生は。
(里見先生、何をするつもりだ?)
「あ!」
二人は、里見先生と蘭が美術室に消えたのを見ました。そして、互いにもう一人の尾行者に気づきました。
「美津瑠木先生?」
「高司?」
二人共、どうして相手がそこにいるのかは知りません。
(何だ?)
互いに相手を見る二人です。
(先生はどうでもいい。蘭さんがまさか、美術室に行くなんて……)
譲児は、美術室が別名「ラブホ」と呼ばれている事を知っています。
(蘭さんは知らないのか、それを?)
譲児の中の蘭は、あくまで純情可憐です。ですから、魔女同士の対決だとは思っていません。
(取り敢えず、坂野上先生は関係ないようだな)
新之助先生はホッとしました。そして、もう一人の尾行者を見ます。
「高司、こんな時間まで何してるんだ? 早く帰れ」
譲児は新之助先生を見て、
(面倒臭い事になったな……)
と思います。本当なら、すぐにでも美術室に駆け込みたいところですが、目の前の邪魔者がそれを許さないでしょう。
「わかりました。さようなら」
譲児は新之助先生に頭を下げて、廊下を戻ります。
「気をつけてな」
新之助先生は譲児が廊下の角を曲がったのを確認してから、職員室へと戻りました。
こんな時でも間が悪い新之助先生です。
美術室では、大変な事が起ころうとしていたのですから。
廊下の角を曲がった譲児も、
「高司君、一緒に帰りましょ!」
同じクラスの女子達が同盟を結んで待ち構えていました。
(まずい……)
譲児は新之助先生がいなくなるのを見計らって、美術室に行こうと思っていたのです。
「いや、あの……」
基本的に女子に強い事を言えない譲児は、困ってしまいました。
完全に包囲されています。
(桜小路さんに譲児君を独占させないんだから!)
彼女達は「反桜小路同盟」の同志達なのです。
亜梨沙がいきなり帰ってしまったので、桃之木彩乃はショックを受けていました。
「亜梨沙ちゃん、ジョニデがそんなに嫌いなのかしら?」
涙ぐむ彩乃です。ちょっとショックの方向性がおかしいです。
「失礼ですが、亜梨沙お嬢様のお友達の方ですか?」
彩乃は後ろから声をかけられました。
「はい?」
両手にレンタルショップのビニール袋を持ち、彩乃は無防備に振り返りました。
そこには、ジョニデも逃げ出すような笑顔のトーマスが立っていました。
必殺技(あくまで亜梨沙視点)の白い歯をキラッとさせて。
「ああ……」
ジョニデ命を返上しそうなくらい、彩乃はトーマスの笑顔にやられてしまいました。
「先程、お嬢様もいらしたと思ったのですが?」
トーマスは亜梨沙が彩乃と一緒にいたのに気づいていました。
「はい、いました……」
彩乃は顔を真っ赤にして答えました。
(亜梨沙ちゃんに悪い事言っちゃった……)
彩乃は、ジョニデの方がかっこいいと亜梨沙に言った事を後悔しました。
(ジョニー様のようなワイルドさはないけど、素敵……)
彩乃はジョニデ教からトーマス教への
でもさすが天然爆弾娘です。トーマスの笑顔の直撃を受けても失神しません。
亜梨沙が見たら、コシの強い手打ちうどんができるくらい足を踏み鳴らして悔しがるでしょう。
「用事を思い出したから、帰るって言ってました」
彩乃はウットリして答えました。
(ああ、許してください、ジョニー様)
それでもジョニデに謝る余裕を見せる彩乃です。
「そうでしたか。ありがとうございました」
トーマスは優雅にお辞儀をして立ち去りました。
「やっぱり素敵……」
彩乃はドサッとジョニデのDVDが入っているビニール袋を落として呟きました。
また一人、トーマス信者が増えるのでしょうか?
「ふぐ!」
美術室に入った蘭は、いきなり後ろから目出し帽を被って顔を隠した三年男子に襲いかかられ、右手で口を塞がれました。
「……!」
蘭は射るような目で里見先生を睨みますが、里見先生はニヤリとして、
「この間のお返しよ、桜小路さん。私を利用して、あの執事さんのところに行こうとした麻莉乃先生を引き止めさせたでしょ? 貴女も随分なワルね」
蘭はギョッとしました。
(気づかれてたの?)
「じゃあね。ゆっくり楽しんで」
里見先生はドアを開いて出て行き、外から鍵をかけてしまいました。
蘭の身体中から嫌な汗が噴き出します。
(油断した……)
力が抜けそうになりますが、何とか抵抗を試みます。
「暴れるなよ、蘭ちゃん。すぐに気持ちよくしてやるからさ」
三年男子はフッと笑い、左手で蘭の豊満な胸を撫で回します。
蘭は大声を上げようとしましたが、口に粘着テープを張られてしまいました。
「騒ぐなって!」
男子の声が怒気を帯びます。
「大人しくしてれば、痛い目を見ずにすむんだよ!」
もはや野獣のような目になっている男子は、蘭のブレザーのボタンを外し、脱がせてしまいました。
「ふぐ、ふぐ!」
蘭はイヤイヤをして抵抗しますが、力の差は歴然としており、両手を男子の右手で押さえつけられ、シルバーホワイトのブラウスのボタンも左手で
蘭のふくよかな乳房を支えるピンクのブラが見えました。
「おお、噂以上に巨乳じゃん、蘭ちゃん!」
男子は狂喜して蘭の乳房を直接撫で回し、ブラをずらしました。
「ふぐー!」
蘭の目に涙が浮かびます。
(トム、助けに来て!)
こんな緊急時にもトーマスの事を思い出してしまうほど、蘭は彼に本気です。
亜梨沙が知ったら、失血死するくらい血の涙を流しそうです。
「いくら騒いだって、もうこの近くに来る奴はいないよ。観念して一緒に気持ちよくなろうぜ、蘭ちゃん」
男子はそう言うと蘭の耳たぶを舐め、剥き出しになった乳首を指で
「ふぐう……」
蘭はとうとう力が抜けてしまいます。男子はそれに気づいて、彼女を長机の上に押し倒しました。
「さてと。俺の方ももう準備万端でさ。前フリなしで入れるぜ」
抵抗する気力もなくなった蘭のスカートを脱がせ、パンティも剥ぎ取り、男子は自分のスラックスとトランクスも脱ぎ捨てました。傍目で見るとかなり間抜けな姿です。
「さあ、気持ちよくなろうね、蘭ちゃん」
男子は涙の痕が残る蘭の顔を撫で回してから、ゆっくりと腰を近づけました。
その時、ドンとドアに何かがぶつかる音が聞こえました。
「何だ?」
男子はギョッとして振り返ります。
蘭も涙で霞む目をそちらに向けました。
「どりゃあ!」
叫び声と共にドアを蹴破り、譲児が飛び込んで来ました。
「な!」
男子は唖然としました。蘭も驚いています。
「貴様、何してるんだ!」
譲児は蘭が一度も見た事がないような凄まじい形相で男子に詰め寄ると、右ストレートを見舞いました。
「ぐべえ!」
男子は美術室の端まで吹っ飛び、壁にぶつかってずり落ちました。
白目を剥いているので、気絶したようです。
譲児は蘭の姿を見て赤面して顔を背け、床に落ちているブレザーとスカートを蘭にかけました。
「大丈夫、蘭さん?」
譲児は顔の火照りを気にしながらも、蘭に声をかけました。
蘭はようやく自分が助かった事を理解しました。
「あ、ありがとう、譲児君……」
彼女は涙を流しました。怖かったのと嬉しいのと、いろいろと混ざった涙です。
譲児は蘭に背を向けて、
「あの、服、着ちゃって、蘭さん」
「うん」
蘭は譲児がパンティを拾えないのに気づいて苦笑します。
「どうして私がここにいるって知ってたの?」
蘭はパンティを履きながら尋ねます。
「蘭さんが里見先生と歩いているのを見かけたから」
譲児はまた顔が火照るのを感じて俯きます。
「そうなんだ。でもどうして助けてくれたの? 私、貴方に冷たくしているのに……」
蘭はブラウスのボタンを留めながら更に尋ねます。
「それでも僕は貴女の事が好きだから。貴女を守りたいから……」
譲児は顔が爆発しそうになっていました。蘭はスカートを履き終えると、
「こんな状況を利用して、私を口説くつもり?」
「いや、決してそんなつもりでは……」
蘭の指摘に譲児は慌てました。そう思われても仕方がないと感じたからです。
「もういいわよ、こっちを向いても」
蘭に言われ、譲児はゆっくりと振り返りました。すると、
「これ、お礼ね」
蘭の顔が近づいて来て、譲児の首に彼女の腕が回ります。
「え?」
呆然としているうちに蘭に身体を引き寄せられて、キスをされました。
もちろん、唇にです。
「ありがとう、譲児君。今度二人で映画でも観に行かない?」
蘭は照れ臭そうにそう言いました。譲児は夢を見ていると思ってしまいました。
「嫌なの、私と映画を観に行くの?」
蘭が少しムッとした顔で言ったので、
「わああ、そんな事ないです! もの凄く光栄です!」
譲児が直立不動で言ったので、蘭はクスクス笑いました。
トーマスと謎の金髪美女との「密会」(あくまでも亜梨沙視点)を目撃してしまった亜梨沙は、邸の自分の部屋に駆け込むと、夕食の時間になっても出て来ませんでした。
メイド達が途方に暮れていると、父の龍之介が帰宅しました。
「亜梨沙が部屋から出て来ない?」
龍之介はまた亜梨沙の我が儘が始まったと思い、大股で彼女の部屋へと向かいました。
「亜梨沙、どうしたんだ? 今夜はお前の大好物のピザだぞ」
龍之介は猫も逃げ出す猫撫で声で言います。
「いらない!」
しかし、亜梨沙の返事は
龍之介は肩を竦め、メイドに命じてマスターキーを持って来させました。
(こんな事をすれば亜梨沙に嫌われるかも知れない……)
一抹の不安を覚えながら、龍之介はマスターキーでドアのロックをガチャッと外しました。
「入るぞ、亜梨沙」
龍之介はドアを押しましたが、何故か開きません。
亜梨沙が椅子をつっかえ棒にしていたのです。
「亜梨沙、パパはお前の事が心配なんだよ。何があったのか、教えてくれないか?」
龍之介は困り果てた顔で言いました。
「教えない!」
またしても亜梨沙の返事は氷点下並みの冷たさです。
龍之介は心が折れそうになりましたが、可愛い娘の事を思い、何とか持ち直します。
「それとな、今日から一人、新しいメイドが入ってくれる事になったんだよ。亜梨沙専属のメイドなんだ。もうすぐこちらに来るから、顔を合わせてくれないか?」
「合わせたくない!」
亜梨沙はどこをどう探しても取りつく島のない返事をしました。
「そんな事を言わずに会ってくれないか? トーマスの妹さんなんだよ」
龍之介のその言葉に亜梨沙はビクンとしました。
(トムの妹さん?)
コーヒーショップの前で見かけた金髪美女を思い出す亜梨沙です。
(もしかして、私ってば、何か勘違いした?)
戦隊シリーズのリーダーも謝るくらい見事に赤くなる亜梨沙です。
バッとドアに駆け寄り、つっかえ棒にしていた椅子を取り払うと、勢いよくドアを開きます。
「会うわ、パパ!」
亜梨沙は涙でグチャグチャになっていた顔を慌てて拭って言いました。
「そ、そうか……」
亜梨沙が泣いていたらしいのを知り、その理由を訊きたいと思った龍之介ですが、また亜梨沙が機嫌を損ねると困るので、何も訊きませんでした。
夕食後、亜梨沙と龍之介は、応接間のソファでトーマスとその妹の到着を待ちました。
もう時刻は午後九時です。
「どうしたんだろう? 何かあったのかな?」
龍之介はスイス製の高級腕時計を見て呟きます。その時、ドアがノックされました。
「はい」
亜梨沙が返事をします。
「遅れて申し訳ありません、トーマスです。妹を連れて参りました」
ドアの向こうでトーマスの声が言いました。
途端に胸が高鳴る亜梨沙です。
(どうしてこんなにドキドキしてしまうの?)
亜梨沙は自分の心臓の動きが理解できません。
「入りたまえ」
龍之介がスーツの襟を正して言いました。亜梨沙もスカートの裾を延ばし、姿勢を正しました。
「失礼致します」
トーマスがドアを開いて中に入って来ました。その後ろからあの時の金髪美人が恥ずかしそうな顔で入って来ます。
「ようこそ、有栖川家へ。さあ、こちらへ」
龍之介が立ち上がって言ったので、亜梨沙も慌てて立ち上がりました。
「ありがとうございます」
トーマスの妹も兄と変わらない流暢な日本語で返事をすると、兄に促されて前を歩き、亜梨沙の向かいに立ちました。その隣にトーマスが立ちます。
「亜梨沙、この人がお前の専属のメイドになるキャサリン・バトラーさんだ。キャサリン、この子が私の娘の亜梨沙です」
龍之介が紹介をすませると、キャサリンはようやく顔を上げて亜梨沙に微笑み、
「よろしくお願い致します、お嬢様」
と挨拶をし、お辞儀をしました。亜梨沙はドキドキを抑えながら、
「こちらこそよろしくお願いします、キャサリンさん。奇麗な人で、びっくりしました」
と返しました。するとキャサリンは目を見開き、
「奇麗だなんて、とんでもないです。私なんて、お嬢様に比べれば、全然……」
俯いてしまうキャサリンです。
「そんな事ないわ、キャサリンさん。だって私、貴女があまり奇麗だから、トムの彼女かと思って……」
そこまで言いかけて、ハッとする亜梨沙です。
「キャサリンが私の彼女だと思われたのですか、お嬢様?」
トーマスがこれでもかというくらいの笑顔で言いました。
亜梨沙は口から蒸気を噴き出しそうなくらい真っ赤になりました。
「嫉妬したからって、私があなたを好きって訳じゃないんだから!」
亜梨沙は苦し紛れにそう言うと、唖然とする龍之介を尻目に応接間を飛び出してしまいました。
「ありがとうございます、お嬢様」
トーマスは
その言葉が微妙に変化しているのを聞き逃した亜梨沙です。
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