六回目

「えー、テス、テス。只今マイクのテスト中」

 俺が舞台上にあるマイクに向かってそう言った途端、

「駄目、もう一回!」

 と、舞台下で足を組み、椅子にふんぞり返ったグラマラスな女が言った。

「えー、テス、テス。只今マイクのテスト中」

「勢いが足りない、もう一回!」

「えー、テス、テス。只いみゃ――」

「噛んだから、もう一回!」

「えー、テス、テス。只今マイクのテスト中」

「二つ前よりましだけど、最後の『中』の切れが弱い。もっと魂込める!」

「えー、テス、テス。只今マイクのテスト中」

「またテンション下がった、もう一回!」

「えー、テス、テス。只今マイクのテスト……」

「男なら泣かない!」

「ふわぁい、テス、テス……」

「もういい、今日はここまで!」


 女は立ち上がると、つかつかと舞台の上まで上がってきた。


 俺は脇にどける。

 周囲にいた練習生全員の目が舞台に釘付けになった。

 始まるのだ。

「君達の『只今マイクのテスト中』はまだまだ弱い! 中学では大分しごかれてきたようだが、そんなものじゃ高校では通用しないよ。更にプロの『只今マイクのテスト中』を目指すんだったら、基礎を舐めるんじゃない。これの出来次第で、以降の舞台の出来が左右されるんだから、気合い入れてやりなさい!!」

「はい!」

 全員が声を合わせる。


「お手本を見せるから、よく聞きなさいよ」


 彼女のその声に、俺達は生唾を飲み込んだ。

 ――超絶セクシー系『只今マイクのテスト中』が出る!

 今夜は眠れそうにない。

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