――機会仕掛けの人形は夢を見る 二――
レティーシアが遥かな宇宙の中、遠き銀河系よりデミウルゴスへと帰還した頃。
母なる青き星にてとある計画が進んでいた。
デミウルゴスよりおよそ距離と言う概念が磨耗するほどに遠い星。
もしかしたらそこは別の法則が働く外宇宙の一つ。
それは数多に存在する
今はまだ名称不明の命輝きし星は、デミウルゴス等の星々とは違い、科学的な技術を発展させていった。
有史から数千年。その星は今、とある危機的状況に陥っており、それを打開すべく一大プロジェクトが進行していた……
「ヒューマノイドの数は揃ったかね?」
「ハッ、現在廃棄予定であった二千体及び、火急速やかに調整された生産ラインからの一次生産機体千五百体の計三千五百体が七割程稼動試験をパス、配備されています」
「ふむ。予定の数が揃うまでどれ程掛かる? それから現在最先端の第五世代から、第六世代へのシフト計画はどうなっている」
「はい、このままのペースで進めば数自体は一月も掛からずに揃うかと。ヒューマノイドの次世代シフト計画に関してですが、予想以上に資金が掛かっているのと、配備に特殊な条件が必要な事から今しばらくは掛かると第八セプターより報告があがっております!」
「あまり時間は掛けられないぞ。既にこの星は滅びへと向かっているのだ……第六世代シフト計画を進めつつ、数が揃い次第目標への侵攻を開始する。軍部及び研究機関には資金の糸目はつけない、今必要なのは戦力だ、わかっているだろう?」
「ええ、存じておりますとも。私達の住むこの青き星が枯れ初めて幾年月、最早私達に時間は残されてはいない。そして選択肢も……」
長高層建築物。地上より千メートルもの高さを誇る地点。
国家と言う枠組みが解体されて数十年。
世界統一国家第一代目総統“インメルマン・セナ・エドモン”の質問に、百五十年程の寿命である事を考慮すれば若々しい三十代と言う年齢で、軍部統括司令官の肩書きを持つ男が敬礼と共に的確に返答を返していく。
しかし、その鋭く整った容姿を見せる顔も、最後の言葉には思うところがあるのか、諦観と狂気が宿っている。
無理もない、こたびの計画が上手くいかない場合、この星は早くて五年も掛からずに資源枯渇による破滅を迎えるのだ。
現在行っている生産ラインの強化だって、少ない資源をまるで湯水の如く使い潰して実現しているに過ぎない。
それは容易に速度計を振り切るが如く破滅への時を加速させていく。
そしてそれらの情報は一般市民へとは未だに伝わっていない。
軍備の強化も“宇宙からの侵略者”に備えたものとなっているし、そもそもが破滅に向かっていると言う事実すら公開されていなかった。
公開なんてすれば容易にパニックに陥り、テロリズムは勿論、未曾有の人的災害が発生するのは想像に難くない。
そもそもの資源枯渇の原因が、世界平和を樹立するための国家解体戦争だと言うのだから笑えない話しであった。
エネルギーに関しては高出力半永久機関こそ開発途上ではあるが、対消滅機関の作成に成功しており、不足になる事は無い。
それら一連の経緯を知るだけに、有能でありながらもまだ若い男は人一倍、今回のプロジェクトの意味を理解していると言える。
国家解体戦争前であれば、宇宙へと旅立つことも視野に入れる事が出来ただろう。
しかし、現在この星に住む人民の総人数は百六億にも上る。
それだけの人数を宇宙に運び出す宇宙船を作り出すだけの資源は、この星には最早残されていない。
例えあったとしても、人が住める星を見つけ出すのは容易ではないし、テラフォーミング技術も完璧ではなかった。
残された選択肢は少ない資源でより戦闘能力の高いヒューマノイドを生産し、高い科学技術を極めていった末に辿り着いた“次元間相転移”技術による、直接的な他世界への侵略だけである。
交渉を進めるだけの時間すらギリギリであるのだ、それなら武力で脅し優位な立場から切り出す方が早い。
最悪言語が完全に翻訳不能であった場合、交渉と言うカードすら切らない事も考慮されている。
インメルマンとて見ず知らずに他世界を蹂躙するのは心苦しい。
もし見つけた世界が運良く知的生命体のいない世界であれば良し。
だが、もしこの世界と同じように知的生命体が跋扈するのであれば……
次元間を繋ぐゲートは莫大なエネルギーを消費する、そう何度も繰り返し繋ぎなおす事は出来ない。
座標を算出するのだって一苦労なのだ、それが資源溢れ緑豊かな世界であれば尚更だ。
インメルマン達の選択肢は未来を掴み取るための苦渋の選択と言えた。
軍を統括する若き男が一礼し去っていくのを見送ると、インメルマンは人知れず溜息を吐き出し一面強化ガラスに守られた窓から世界を見下ろす。
この建物程高い建築物は周囲には無いが、それでも数百メートルは当たり前の時代。
科学技術は非常に発達し、存分な資源さえあれば直ぐにでも宇宙進出が可能だ。
一人用の空中浮遊車は現代では当たり前の乗り物。
月への旅行だって今ではちょっと海外にいくような気楽さである。
ヴァーチャル技術の発展により娯楽は増え、仮想の犯罪は増えたものの、現実世界の犯罪率は非常に少ない。
森は殆ど無くなってしまったが、美しい人工林がある。
海も大部分が汚染されてしまったが、浄化技術で一部の海はリゾートとして保たれていた。
まるで魔法のような世界。いや、事実科学の遅れた世界の住人からすればまさしく魔法。
発展した科学は魔法となんら変わらない。それはとある世界の偉人が口にした言葉だ。
そんな世界が人知れず滅びへと向かっている。
この世界の最高責任者として、インメルマンはどのような汚い手段を用いたとしてもそれを阻止しなければいけない。
それは世界を背負う者としての意思であるのと同時、“一人の夫”としての思いでもあった。
彼の一人娘は未だ十二を迎えたばかり。そんな少女の未来を守れず何が父であろうか。
(そうだ……後戻りは出来ない。例え他を犠牲にしようとも、私はこの世界を救わねばならないのだ)
その言葉はまるで自身に言い聞かせるかのように、彼の心中で重く響いた……
「それにしてもデッケェ代物だぜ。カタログスペックが事実ならこれ一機で容易に国が消滅するんだろ?」
「ええ、それどころか世界だって落とせるかもしれないですよ」
そう言って二人の“技術者”が製作途上の機体、コードネーム“デウスエクス・マキナ”に視線を向ける。
ドックの中で直立するように二本の足で直立する巨大人型決戦兵器。
人を模したフォルムは全体的に女性的な優美さと丸み、そしてシャープさを備えている。
色は見事な白銀色であり、その全長は優に百メートル程もあった。
現状持ちえるあらゆる技術を軍事転用し搭載している機体。
現在一基しか存在しない、半永久燃料機関である“思考エンジン”のプロトタイプすら搭載。
一体どのような悪魔的な思想と設計が合致すればそのような機関が出来上がるのが、現代の技術をもってですらオーバーテクノロジーとしか言いようのない代物。
あまりにブラックボックスな面が多く、開発者である“マキナ教授”しかその開発図面を理解することはできない。
が、その効果はまさに科学と言うよりは魔法と呼ぶに相応しいだろう。
なんせ深層無意識下領域と呼ばれる、人々は深層意識下で繋がっているというまだまだ解明途上の理論を追求し、更にはその思考の海から感情を掬い上げエネルギーに変換すると言うのだ。
そのエネルギー量は実質知的生命体の数に比例する。まさしく無限とも呼べるものであるが、機関の耐久構造上限度は無論存在している。
それでも一般的な対消滅機関から一度に得られるエネルギー量を大きく上回ると、性能的には言われていた。
他にも最先端、あるいは未知の技術が数多く使われている。
指定領域殲滅振動波装置、高分子振動剣、高出力荷電粒子砲及び対消滅弾。
重力場発生装置、思考エネルギーによる防御的力場発生装置。
相転移発生装置、エネルギー変換スラスターetc…etc……
そんなまさしく決戦兵器に相応しい機体の大半に関わっているマキナ教授だが。
彼には幾つもの怪しげな噂が付き纏っている。
その中でも代表的なのが“近づくと時計の針のような、チクタク”と言う音が聞こえてくると言うものだ。
無論、そんな事は無いのだが、なぜかその噂が消える事は無く、第八セプターの七不思議として数えられていた……
第八セプターが慌しく作業を進めていく中、数多くの姉妹が安置されている場所にソレは配備されていた。
古びた肉体は最新にものに変換され、エネルギーも最大値まで補給されている。
ソレが望む時は少しずつ近づいていた。故意的にシャットダウンした意識の底。
それでも無意識領域下でソレは近づく希望の光を感じ取り、意識のない筈の肉体。
そのバイザーに隠れた顔の下、口元には笑みが何時のまにか浮かんでいた――――
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