一話

 今晩は、私(わたくし)の名前はメリル=フォン=ブロウシアですわ。

 覚えなくて結構ですことよ? 私の名前はマイリトルシスターさえ、囀ればいいのですから。

 今私はここ最近始めた日記? と言う物を書いていますの。

 内容は勿論あの日から私の義妹(いもうと)となったレティのことですわッ!

 明日は学園登校日ですから、あんまり夜更かしはできないんですの。

レティも明日は学園に行くのよ? レティと一緒の学園生活……うふっうふっうふふふふふ――――


 

 はっ!? 私としたことが、取り乱してしまいましたわ。

 あの日レティがこのブロウシア侯爵家の養子となった時、彼女からは色々驚かされたわ。

 だって、あの子ったら吸血鬼だなんて言うのよ? しかもあの容姿(なり)で私より年上だと言うし……ええ、年上なんて嘘よね。

 だってあんなに小さくて、可愛いらしいのに、年上なんて世界が許しても私が許しませんわ。



 まぁ吸血鬼とかいう話しの方は信じたのですけれどもね?

 最初はなんの冗談かと思ったのだけど、牙は見せるし、翼だって生えたんだから信じるしかないわよ。

 まぁ、この世界には亜人と呼ばれる人種が居て、吸血鬼もその一つになっているのだけど、数が非常に少ないのよね。

 どうも生殖能力が低いらしいわ、とは父様が教えてくれたのだけど。



 しかもレティの容姿を見る限り多分純血のヴァンパイア、混血だと絶対髪が銀色以外になるらしいわ。

 出会った当初は吸血鬼以外にも、髪色が銀色の種族が居ない訳じゃありませんから、気づかなかったのだけれど。

 正体を知って、それで真紅の瞳に銀の髪とくれば純血以外にありえないのですわ。

 とはいっても吸血鬼と言えば子供達にすら人気の│悪の英雄ダークヒーローですし。

 数は少ないけどその分統制がとられていて、貴族主義なせいか、非常に厳格な縦社会を形成してることで有名でしわね。

 一部の吸血鬼なんて、帝國の騎士より騎士らしいというんですもの。



 それに何より、レティが吸血鬼だろうと何だろうと関係ないわよね? 可愛いは正義って言うでしょ?

 普通なら少しくらい怖がったり、逆に過剰に尊敬したりするものなんだけど、どうしてかしらね?

 私達親子は勿論、屋敷中のみんなが妙に納得しちゃって、そんな感情が湧き上がらないのよ。


 と言うか、レティは純血ってことは真祖に連なる吸血鬼って事になるのだけど……

 血を吸う様子は見せないし、日光だって嫌がるだけで平気そうなのはどういう訳なのかしら?

 もちろん、克服しているってことなのは分かっておりますのよ。ただ、どうにも腑に落ちないと言えばよろしいのかしら。

 と言っても、何が、とは説明出来ないのですけれども――





 と、随分話が逸れてしまったわ。あの子があの日、自分も学園に通いたい。

 そう言った事が始まりだったかしら? 学園とは私(わたくし)が明日から通うことになっているエンデリック学園で、世界で有数の名門校として知られているのよ。

 教えている学部は多岐にわたるけど、その中でも花形と呼ばれる学部が幾つか存在するわ。

 魔法学部・剣術学部・騎士学部の計三つが最大の人気であるのは、疑いようのない事実でしょうね。

 と言ってもそこでまた細かい科で分けられていますので、正確に言うならその総合科が、と称した方がいいかしら。

 


 エンデリック学園は、例えどの学部だとしても“最低限の戦闘力”を身につけさせる事を目標としているわ。

 それが非戦闘の学部としても、ですの。

 特に貴族がこのエンデリックに通うとなれば、それは戦闘系の学部に通うことと同義と言えますわね。

 政治やら経済でしたらもっと有名な所がありますもの。


「貴族とは貴き一族と書く。そしてそれは決して保身の為の名前ではなく、万が一の有事の際は率先して民を守れる者の事を指すのである。そして忘れてはいけない、武とは、戈(ほこ)を止めると書いて武と言うのだということを」


 とは、エンデリック学園の初代校長のお言葉らしいわ。

 民を守り、矛を止める為に使うのが武である。

 まるで騎士のようではないかしら?

 だから、ここに通う貴族は、誰もが何かしらの思いを抱いてやってきた人達。

 勿論一般の方も数多くやってきますのよ。

 彼等は大抵冒険者になる際の箔付けや、実力付けに来る方が大多数ですけど。



 ただ、エンデリック学園は決して入学の基準は甘くないのよ。例えば剣術部なら剣の才能、もしくは基礎が出来ていないと入れないし。

 魔法学部にしても、一定以上の魔力とか、最低限の呪文が扱えるとか、あるいは知識に優れているかのどれかを合格していないと厳しいわね。

 騎士学部に関しては、礼節や武術、魔術なんかを広く学んでいくわ。

 ならず者みたいな者は無理だし、魔術が使えないならそれを補う何か、武術が無理ならそれを補う何かがないと、入るのは無理と言われているかしら?



 だから、レティが当初エンデリックに行きたい! と言い出したときは父様は勿論、母様、それに私も反対したのだけど、私達は彼女が“吸血鬼”だと言うことを忘れていたのよね。

 しかも私よりずっと年上だってことも……いえ、レティが年上なんて嘘ですわよ?

 と、とにかく、その話はおいて置きまして。


 結果、彼女の氷結魔法? と思わしき魔法で作られたレティを模った氷像を見せられた私達一家は、ひじょーに! 遺憾ながら、入学試験を認める事にしたのよ。

 まったく、役に立たないお父様ですわっ! 何が、


「おや、流石は吸血鬼の一族。我々帝國でもそこまで見事な制御を成し得た魔法使いウィザードは、そうはいないだろう」

 

 よ! お母様もお母様ですわ! まったく、あのバカップルの惚気夫婦に育てられたなんて、頭痛が絶えませんことよ……

 本当にもぉっ! もし試験であのあの真っ白で、柔らかな肌に傷でもついたらどうするのかしら?


 

 閑話休題(それはともかく)

 そういえば、一緒にお風呂に入ろうとすると必ず嫌がるのよね。


「妾は一人で入れるッ! だからそなたは来るでない!!」


 と言ってね。

 勿論そんな意見は聞いてあげないんだけれども。

 だってレティとのお風呂は私の数少ない楽しみなのよ? あのやぁらかいお肌に真正面から洗うという建前で、堂々と触りまくれるのだから!

 洗おうとすれば抵抗するんだけど、どうしてかしらね。

 お風呂嫌いなのかしら?

 洗っている間中ずっと目を瞑って、


「妾は変態ではない。妾は変態ではない――――」


 なんて繰り返しぶつぶつ言ってましたけど。

 同姓だし、変ですわ。

 恥ずかしがりやなのかしら?



 それでね! 

 レティの肌ってすんごい気持ちいいのよ! 

 子供特有のもちもちした肌に基礎体温が低いのか、少し私よりひんやりした体温がもぉ……ぶほぉっ(ここから先一部が真っ赤に濡れている)


 ――――はぁはぁ……ちょっと興奮しちゃったわね。

 何処まで書いたかしら?

 そうそう、後ね。髪もすんごい触り心地がいいの。

 私も髪の手入れは欠かしたことが無いのだけど、あの子の髪には勝てる気がしないわ……

 サラッサラッなのは勿論、まるで手に吸い付いてくるような手触りで、ずっと撫でても飽きないのよ。


 風呂上り(はぐったり消耗中)の大人しくなったレティの髪を、乾かしてあげるのも私ですのよ?

 あの子、髪のセットは勿論。乾かし方もなってないんだもの。

 あれじゃあ折角の髪が痛んでしまうわ。

 本当に、前は一体どんな暮らしをしていたのかしら?

 


 因みに、部屋は別なのよね………「これだけは譲れぬ!」と言うんだもの。

 まぁ、可愛い義妹の頼みですから、叶えて差し上げるのが姉の役割ですわよね?

 でもまぁ。私のマスターキーがあれば何時でも侵にゅry――ごほん、入れますし。

 夜中にレティのベッドに潜り込んで、その体を抱いて一緒に寝たこともあったかしら?

 腕にすっぽり納まって、同じ物を使っている筈なのに髪の毛からは良い匂いがして、良く眠れるのよね。

 体臭もどこかあまやかだけど、吸血鬼はみんなそうなのかしら。



 それに、ちょっと悪戯でその肌依の隙間から手を差し込んでみたのですれども。

「んっ……ぁ……」

 なんて声を出しますのよ!

 鼻に掛かった高めの声で、熱い吐息と一緒に思わずって感じなのがたまりませんわ!

 今では私の安らぎの時かry――ごほん。 



 ああ……また話が逸れてしまったわ。

 これも全部あの子が可愛すぎるのがいけないのよ!

 ええと、エンデリックの話ね。レティが試験を受けるにあたって、必要な道具を揃えようと思ったのだけども。

 レティったら「入らぬ。必要だとしても、妾は自分で用意できるゆえな」て言うし。

 母様なんて一番残念がってたのよ? あれはきっと買い物にかこつけて、帝都の先鋭的ドレスを買いに行く気だったに違いないわ!

 そういえば、レティと一緒にせめて詠唱の補助道具を買いに行ったとき、何やら、


「アイテムボックスが……装備も……基本全部? ……使えるのか? そもそも通貨が……」


 とか言ってたのだけど、何のことかしらね?

 さて、こんな所かしら? 明日が楽しみだわ! それじゃあ今日はそろそろここまでに致しますわ。


 ――――最後に、流麗な共通語で日付と著者名が書かれている。


 



 




 ――――次の日、レティーシアとメリルは朝早くからブロウシア領から出発し、昼を少し過ぎた頃にエンデリック学園に到着していた。

 エンデリック学園は巨大で、その大きさは下手をすると街一つ分。ヴェルクマイスター城と良い勝負が出来るほどの大きさであった。

 一体どれ程の学生が通っているのか? ざっと見渡せる範囲だけでも、数百名の学生が奥へと進んでいっている。


 なお、レティーシアに関しては太陽光などとうの昔に克服しており、精々が容姿から来る弊害の、強い紫外線に肌がチクチクするだとか、目がしょんぼりするなどといった程度である。

 もっとも、太陽光は吸血鬼の弱点ではあるが、一部に噂される灰になるとか言うのは全く持って虚言であるのだが……

 他にも銀弾に弱い、流れ水が渡れない、杭を心臓に刺されると動けなくなる、ニンニクが苦手、十字を恐れる、火が弱点。

 一部は嘘ではないものの、大抵が拡大解釈で、どれも致命傷には程遠い。



 二人はエンデリックの入り口で別れる。

 メリルは寮に、レティーシアは急遽ブロウシア侯爵の要請で行われることになった、魔法学部への編入試験会場へと。

 この別れる際に、メリルが嫌々と首を振りながらレティーシアに抱きつき、中々離したがらなかったのは余談だろうか。

 数分間を説得に使い、ようやく開放されレティーシアが溜息を吐けば、今度は見捨てられた子犬のように、瞳をうるうるとさせているメリルが、とぼとぼと校舎に向かって歩く姿が目撃されていたのは完全に蛇足である。



 二人が別れた後、レティーシアは足早に会場へと進んでいた。地図は既に彼女の頭に叩き込まれていた。

 恐ろしきはその頭脳であるのか、それとも吸血鬼という種であるか。

 生前といえばいいのか。彼では覚えきれない図面も、僅か数十分で頭で完全に記憶してしまう。

 これが吸血鬼の化け物かッ!? と、思わず叫びたくなる記憶能力である。

 周りを見渡せば中々に素晴らしい景色が見えているのだが、レティーシアの足はそんなもの関係ないと言わんばかりに進んでいく。



 (やっと……やっと! メリルから開放されたぞ!! レティーシアと俺の記憶から照らし合わせて、記憶の改竄時に一定の好意を持たれるように設定しといたんだが、失敗だったか? まさか、あんな地獄にあうなんて……俺の男としてのプライドも、レティーシアの女としてのプライドも無残な姿に成り果ててしまった……)



 (それも、それもここまでだ! 学園に編入すれば寮生活が待っている。そうすれば、メリルと風呂に。いや、女性と一緒に風呂に入らなくて済むし、メリルが何故か持っていた俺の部屋の鍵で俺を抱き枕にする、何てこともなくなるッ! 一体何度魔術を発動しそうになったか……後ろ盾、後ろ盾。学園、学園。我慢、我慢。と何度となく念じたかいがあったぜ)



 ――――試験会場に向かって歩くレティーシアの姿は、その気味の悪い笑い声と反したその容姿は、それこそ妖精もかくやと言わんばかりであった為、数多くの学生の目を引くこととなっていた。

 本人は全く持って気づく様子はなかったが………

 


「丁度よい、試験で憂さを晴らしてくれるわ! どんな試験だか知らぬが、妾(わらわ)を敵にまわした事が運の尽きと思い知らせてくれる!! 幸い、ゲーム時に所持していたアイテム及び倉庫はどういう理屈か、使えるようであるからな。ふっふっふっふっ楽しみでならんわッ! アーハッハッハッハッハッ!!」



 次々と驚いて振り返る学生など歯牙にもかけず、会場へと進んでいく。

 少々品の宜しくない高笑いと共に――――






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