第7話 中身

キアは何かが入ったポシェットを抱え込んでいた。険しい目で俺をにらむ。

「な、なんだよ? 俺はただアイスクリームを拭いてやろうと思って……」

けれども、キアは厳しい表情のままだった。

俺を見つめながら、ポシェットのファスナーに手をかける。その顔は青ざめるほど真剣だ。

キア?


すると、俺たちのすぐ横でクラクションが響いた。

パッパァァーー!!

俺は飛び上がった。キアも仰天して音のした方を振り向く。

それは、母さんだった。路肩に停めた車から降りて、こちらに走ってくる。

あれ、母さん、〆切りはどうしたんだよ?

不思議に思っていると、母さんが俺たちの前にやってきた。

その顔がいやに真剣だったので、俺はまた、おや、と思った。母さんがこんな顔するなんて……。

すると、母さんはキアに片手を差し出して言った。

「それを渡しなさい、キア」

静かだけど、鋭い声だ。

キアがポシェットを押さえたままためらっていると、いっそう厳しく言う。

「渡しなさい。この国では、そういうものを持ち歩いてはいけないと言ったはずよ」

すると、キアはうなだれ、ポシェットのファスナーをのろのろと開けた。

中からタオルでくるんだ長いものを出す。

タオルの端から茶色の柄が見えていた。

え、それって……俺んちの包丁じゃないか! そんなものをポシェットに入れてたのかよ!?

さては魔王を見つけたら攻撃するつもりでいたな?

よせよ、相手が魔王でも、街中でそんなものを振り回したら大事件になるぞ!


母さんは包丁を自分のバッグにしまうと、厳しい声で話し続けた。

「原稿を大急ぎで仕上げて、さて朝ご飯、と台所に行って、包丁がなくなっているのに気がついたのよ。でもね、キア、あなたは今、それを使おうとしていたわよね? 雄一に対して」

え――え!? キアが俺に切りつけようとしていたって!!?

とたんに俺は、昨日キアがいきなり剣で切りかかってきたことを思い出した。あれは本当に俺を狙っていたのか――!?

俺は思わずキアから飛びのいた。全身が冷たくなって鳥肌が立つ。

「ど、どうしてだよ、キア!? 俺が何をしたって言うんだよ!?」

怒鳴るように尋ねても、キアは青ざめたまま何も言わない。

俺たちの頭上で、緑の梢が、ざぁっと雨のような音を立てて揺れていた――。


(つづく)



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