第2話 襲撃

突然現れた騎士姿の女の子。その子が持っていた剣は本物だった。

俺を狙って切りつけてくる。


殺される!!

俺は必死で逃げ出した。

歩道のガードレールを乗り越えて、車道に沿って全速力で走る。

すると、女の子も俺を追いかけてきた。

ガードレールを飛び越えると、ガシャン、と鎧や兜がぶつかり合う音が響く。

足音が俺に迫ってくる。

よせったら! 俺が何をしたっていうんだよ!?


その時、乗用車が俺たちのすぐ横を走りすぎていった。

パッパァーー……!!!

怒鳴るように、大きなクラクションを鳴らしていくけれど、停まってくれない。

頼む、停まってくれよ! 助けて――!


すると、騎士の女の子のほうが立ち止まった。

車道を行きかう車に目を見張り、すぐに、きっとした表情になって剣を構え直す。

「からくり仕掛けの怪物か! 魔法で呼び出したな!? 来い、怪物! 残らず切り捨ててやる!」

剣を振りかざして車道に飛び出し、走ってくるトラックに切りかかろうとする。

危ないっ……!?


すんでの所で、トラックは女の子を避けた。

先の車よりもっと大きなクラクションを鳴らして通り過ぎていく。

すると、女の子はそれを追いかけ始めた。

「待て! 私に恐れをなしたのか!? 逃げるな!」

そこに別な乗用車が通りかかっていた。避けきれなくて、彼女にぶつかる。

女の子は車道脇に倒れた。

ガシャン、と鎧兜がまた音を立てる。


運転手が血相を変えて車から降りてきた。

「馬鹿野郎! こんなところで遊んでるんじゃない!」

怒鳴るだけ怒鳴って、また車で走り去ってしまう。

ひき逃げだ――と気がつくまでに時間がかかった。

車にぶつかった女の子は、倒れたまま動かない。

ど……どうしたらいいんだ?


周囲を見回すと、人だかりができていた。

「なぁに、あれ? なんのパフォーマンス?」

「映画の収録じゃないか?」

そんな声が聞こえてくる。

女の子の恰好があんまり奇抜だから、これが本当のことだなんて、誰も思っていないんだ。

ホントに、どうしたらいいんだよ……?


うろたえてなんだか泣きたくなってきたとき、俺の横にまた車が止まった。

運転席から降りてきた人物が言う。

「あらぁ、どこの青少年が困っているのかと思ったら、我が息子じゃないの。いったいどうしたのよ?」

母さん!!!


母さんは黒い上着とスカートを着て、ちょっぴりよそ行きの恰好をしていた。

どこかに出かける途中だったみたいだ。

ただ、胸にはイチゴのワッペンをつけているし、靴下にはタンポポのワンポイントがある。髪も派手な赤い色に染めている。

このセンスは相変わらずだよな、母さん……。


あ、いや。今はそれどころじゃない!

「母さん、俺、殺されそうになったんだよ! で、俺を殺そうとした子が車にぶつかったんだ――!」

すると、母さんは驚いた顔をして、倒れている女の子と周囲の人だかりを見回した。

ちょっと考え込んでから言う。

「その子を病院に連れていってあげなくちゃ。手伝いなさい、雄一」

「えぇ!? 俺を殺そうとしたヤツを病院に連れていくって!?」

「黙んなさい! どんな状況でも助けてあげられる人は助けなくちゃいけないのよ。その子を車に乗せるわよ!」

母さんがこんなふうに言いだしたら、どんなに反対しても、もう駄目だ。

しかたなく、俺は母さんと一緒にその子を車の後部席に乗せた。

母さんが剣を車のトランクにしまったので、ちょっとほっとした。


こんなことをしていても、野次馬は全然近寄ってこなかった。

相変わらず、映画か何かのロケだと思っているみたいだ。

笑いながらこちらを指さしてるヤツまでいる。

ちくしょう! これは現実なんだぞ!

……そりゃ、騎士とか竜とか、全然信じられないようなものばかりだけどさ。

あ、そういえば、あの竜は?

あたりを見回したけれど、女の子の頭上にいた青い竜はどこにも見当たらなかった。

逃げたんだろうか?


「さあ、行くわよ。乗りなさい」

と母さんに言われて、俺は助手席に座った。

車は、騎士の恰好をした女の子を一緒に乗せて走り出した――。


(つづく)



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