竜を呼ぶ女騎士
朝倉玲
第1話 竜を乗せた少女
うららかな春の午後だった。
学校からの帰り道、俺はのんびり家へ歩いていた。
いい天気だなぁ。風は暖かいし、チューリップなんかも咲いてるし。
思わず大きなのびをする。
そんな俺の前を、中学校の制服の女の子が歩いていた。
髪にチューリップのクリップをしてる。
ははっ、あんなところにも春が来てら。
さあ、テストも終わったし帰ったら何をするかな。
ゲームにしようか、コンビニにおやつを買いに行くか。
そういや、今日はあの雑誌の発売日だっけ? 立ち読みもしてくるかな。
そんなことをとりとめもなく考えていたら、前を行く女の子が急に立ち止まった。
足元から何かを拾い上げて、妙な顔をする。
つられて俺もその手元を見た。
先が尖った茶色い物を持ってるぞ。タケノコか?
でも、なんでそんな物がここにあるんだ? ここは歩道の真ん中だぞ……?
すると、今度はその子の頭の上に、変な物が見えた。
小さな赤い生き物だ。
背中に羽が生えていて、細い尻尾を振っている。
え? あれって……竜!? まさか!!
俺が思わず自分の目を疑ったとき、それは起こった。
あたりがいきなり激しく揺れだしたんだ。
立っていられないくらい地面が揺すぶられる。地震だ!!!
俺は思わずその場にしゃがみ込んだ。
女の子の悲鳴も聞こえてくる。
けれども、すぐに地震はやんだ。地面が嘘のように静かになる。
おっかなびっくり立ち上がって、俺は驚いた。
なんでもない。あんなにものすごく揺れたのに、街はいつもの通りだった。
車が走り、人が歩き、信号が変わるたびに交差点を渡っていく。
俺がしゃがみ込んでいるから、変な顔をしながら通り過ぎる人もいる。
地震じゃなかったのか?
俺の気のせい? いや、でも、確かに揺れたよな……。
すると、歩道の上に何かが転がっていた。
白い布地に赤い手提げのランチバッグ。あの中学生の女の子が持っていたヤツだ。
あたりを見回しても、女の子はどこにもいなかった。
地震に驚いて放り出して逃げたんだろうか?
でも、俺がしゃがんでたのって、ほんの一瞬だよな。
あんな短い時間にどこに行くっていうんだよ。
あの時見た赤い小さな竜もいない。
いったいどういうことだ……?
わけがわからなくて茫然としていると、急に風が吹いた。
ざぁっと音を立てて、満開の桜の枝が鳴り、花びらが散ってくる。
すると、後ろで誰かが言った。
「ついに見つけたぞ! おまえだ!」
男のようなことばづかいだけれど、女の声だ。
驚いて振り向くと、女の子が立っていた。
さっき姿を消した子と同じくらいの年頃だけど、顔は違う。別人だ。
俺はぽかんとしてしまった。
だって、その子は中世の騎士のような
なんだ、こいつ? コスプレしてんのか? どこの会場から抜け出してきたんだよ?
そんなふうに考えて、俺はまた、ぎょっとした。
その子の頭の上にも小さな竜がいたから。
さっき見かけたヤツは赤かったけれど、こっちは青い竜。女の子の
すると、騎士の恰好の女の子が笑った。
にやっと、嫌な感じの暗い笑顔が広がる。
「おまえ自身にはなんの恨みもない。だが、おまえには死んでもらわなくちゃいけないんだ」
そう言って、背中の剣を引き抜く。
え、え、えぇ!? いっ、いったいなんの話だよ!!?
マジ!? 冗談!? おい――!!!
あわてふためく俺に、その子が切りかかってきた。
やたら馬鹿でかい剣なのに、その子は軽々と振り回している。
なぁんだ、おもちゃの剣か。ふざけるなよ。
いきなり迷惑じゃないか――
そう言いかけて、俺はことばを呑んだ。
剣の切っ先が俺の目の前を通り過ぎたからだ。
ひゅっと顔をかすめた風が、なんだかいやに鋭い。
え……?
女の子がまた剣を振り上げて切りかかってきた。
今度は俺の真上だ。
俺は思わず手を上げ、持っていた白いランチバッグで頭を守った。
とたんに、ざくっと衝撃が手に伝わってくる。
俺の頭上でランチバッグは二つに切れて、中の弁当箱が歩道に落ちた。
金属製の弁当箱には大きな傷がついていた。
鋭い刃物の傷痕だ――。
俺は女の子を見た。
顔が真っ青になっていくのが、自分でもわかる。
本物の剣か!? と言おうとしたけれど、衝撃と恐怖で声が出なかった。
騎士の女の子がまた剣を構える。
柄を握りしめて、俺に狙いを定めていく。
突き刺すつもりだ! 殺される!!
俺は飛び上がると、彼女に背中を向けて逃げ出した――。
(つづく)
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