まみちがね

兵藤晴佳

プロローグ

 かつて、東シナ海のある険しく起伏に富んだ地形の島に、ある王が治める小さな国があった。小さいながらも多くの豪族が服属し、それなりにほとんど平和な時代が何百年も続いたという。

 今では苔むした石垣や草に埋もれた古い道がその名残をとどめるに過ぎない。資料を探しても、地方で見つかる古い文献の隅っこに、その名が申し訳程度に見つかるぐらいである。地元へ行って聞いてみても、誰もが「そんな国があったの?」と他人事のように言う。

 だが、そんな人たちでも知っている話がある。それは、この島に住んでいたとされる美しい首切り姫の伝説である。

 この美しく賢い姫君には、男という男が恋焦がれたという。だが、この姫は誰とも結婚することがなかった。求婚してくる男には老いも若きも、高貴な身分の者にも下賎な者にも、富貴な者にも貧しい者にも、分け隔てなく難題を課しては失敗させていたのである。失敗の報いは、死。姫の望みを叶えられなかった求婚者はことごとく斬首の刑に処せられ、その首は城の入り口に並べられたという。

 ところが、この姫の難題を解いて婿になった男がいる。婿になったということは、後に王となったはずである。だが、そんな王については、伝説も記録も残っていない。つまり、婿になったのはどんな男で、どんな運命をたどったか、それを知る者は誰もいないということだ。

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