第4話

 彼女は〝カラザ〟から出ることができないみたいで、僕もいきなり中に入ることはできなかった。


 彼女は相当古い人形であるらしく、声を出す機能がすでに失われているようだ。

 僕は彼女の口の動きを必死で追い、その言葉を理解するよう努めた。


 曰く、彼女は〝カラザ〟の管理人であると同時に、この世界の仕事を任された人形らしい。


 半日をかけて〝カラザ〟の中の階段を登り、頂上にあるスイッチを押して夜を作り、また半日をかけて階段を降り、ここにあるスイッチを押して朝にするのが役目。

 一年中ただひたすら階段を登り降りし続けるのだという。


 まるで罪人のようだなと僕は思った。

 河原で石を積み重ね、ある程度重なると崩され、また積みなおす。

 どこかで聞いたそんな話にひどく似ているなと思ってしまう。


 けれど、彼女にそれを伝えることはできなかった。

 いや、伝える気すら起こらなかった。

 そんなことで彼女の顔を曇らせてはいけないと思ったから。


 本当に短い間、時も忘れて話をした後、彼女はそろそろ階段を登らなければならないと云い、時間を確認すると、なるほど。

 この時間に登り始めていたからあの一瞬の邂逅があったのだなと理解した。


 彼女が行ってしまう寸前、僕は彼女を呼び止め、明日もまた来てもいいかと尋ねた。


 彼女は少し考えたあと笑顔を作るとゆっくりと頷き、そのまま階段へと消えていった。


 僕は叫びだしてしまいそうな気持ちを抑え、仕事場の方へ走りだした。


 それは、生まれて初めての感情だった。

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