第7話

図書室

「朱次、いつも漫画を描くのは大変そうね、はい、プレゼント」

「うん?ありがと」

それは板チョコだった。

「甘い物だけど大丈夫?」

「うん」

「それじゃあ」

私は足早に図書室を後にする。

すると、ゆきが待っていた。

「良いの?板チョコなんかで、完全にキリだと思われるよ」

「手作りとか、お小遣いはたいて高いのも考えたけどね」

「なぎさらしいけどね」

「てへへへ、だよね」

ゆきが呆れて帰ろうとすると。

「はい、手作りチョコレート」

「はい?」

「大好きなゆきのために作ったの」

ゆきは本当に呆れて、

「バカだね……」

「てへへへ」

「ま、今年も私にチョコレートは関係ないから、ありがたく貰うわ」

「てへ」

「ホント、バカ」

「来年も期待していてね」

「あーぁ、来年こそは」

ゆきは少し落ち込むようにうなだれる。

「大丈夫、私がいるから」

「ふぅ、帰って勉強でもしますか」

今年は少しだけ特別な日になって、今日という日が過ぎていった。

夜、ゆきの部屋

私は机に向かい、静かに勉強していた。

ふと、外を見ると雪が降っていた。

後、一時間と決めたはずなのに、

何故、こんな気持ちになるのだろう。

心のざわめきを

なぎさに聞こうとメールをしてみた。

返事は無かった。そうか……寝ている時間か。

私は勉強時間を少し増やすことにした。

心のざわめきは静かさに変わった。

外をもう一度見ると雪が積もっていた。


ゆきの部屋

「ゆき~最近、アルファー能力が全然ダメなの、ウサギのぬいぐるみが動かないの」

勉強中のゆきに話かける。

「あ、今、急がしいから」

ゆきは机に向かいこっちを見てくれない。

もう、アルファー能力でこっちを見させてやる。

「うぐぐ……。」

五分後

「なぎさ?さっきから何をうなっているの?」

ゆきがこっちを見てくれた、能力で?違うな。

「しかたないか、すこし、アドバイスしてあげる」

ゆきは呆れた様子で話し始めた。

「良い、それは心迷いだと思うの、心を水に例えて、良い話をしてあげる」

「はい」

「水は器によって形を変えるし、蒸発して雲になり、雨を降らし川を作り、

流れは海となり、雪を降らせ霧を作り、虹だって」

「は?」

「難しく考えない」

「心を静かに水にして自然にするの」

こころを静かに水か……。

私はウサギのぬいぐるみに自然な気持ちで念じてみた。

ビクビク、バシ!

ウサギのぬいぐるみは天井ぶち当たる。

「やった、でも、朱次から貰ったぬいぐるみがペシャンコに……」

「水みたいで良くない?」

「大切な物なの良くない!」


ゆきの部屋

「うぅ……」

私は夢を見ていたのか?

勉強道具の並ぶ机のから起き上がると、

ふと、なぎさの映った写真立て見る。

なぎさが交通事故で居なくなってから何ヶ月か経っているのか。

私は……昨日までなぎさとたわいもない会話をしていた気がする。

「ふー」

私は気持ちを切り替えようと熱いコーヒーを入れる。

コーヒーカップを机に置くとゆげが幼い少女の形になり話かけてくる。

「目を覚まして、この世界はもう一つの空間、親友を失う恐怖が具現化しているの」

「親友を失う?」

「そう」

わ、私はなぎさに……。

「誰だか知らないけれど、どうすれば、良いの?」

「スマホでなぎさに電話をかければ、空間の歪みが消えて元に戻るわ」

「分かったわ」

私はスマホを直ぐ手に取りなぎさの名前を探す。

―――

「無い!いくら探しても、無い!!!」

「落ち着いて、空間が安定し始めているのね、何か方法があるはずよ」

番号、なぎさの番号!!!

そうだ、初めてなぎさの携帯の番号を教えて貰った時、大切な何かに書いてくれたはず……。

思い出せ……そうだ、一番簡単な英語の参考書だ!

私は本棚を必死で探す。

あ、あった。

この本、そしてここに番号がある。

私は慎重に番号を入力して電話をかける。

―――

繋がった

「なぎさ?」

「どうしたの?こんな時間に?」

なぎさ、だ、生きている、あんなに泣いた記憶があるのに。

―――

「うぅ……」

私は?

なぎさからメールが届いている。

『えへへ、今日は辞書を持ち上げられたよ』

夢?

机の上にはコーヒーが置かれていた


日曜日

私は少し遅めの朝をむかえていた。

天気は快晴、私は朱次にメールをした。

『デート……』

これだけしか贈れなかった。

しばらくして、返事が返って来た。

『隣町のショッピングセンターで』

私は直ぐ朱次に電話をかけて

待ち合わせる事に

私達は並んで店内を歩いていた。

朱次が靴を見たいと言うと

「歩くだけじゃダメ?」

「え?」

「二人で歩くだけじゃ、ダメ?」

「うぅん」

私達はただ……。

むねの苦しみ、顔のほてり、手のひらが求める温もり。

いつの間にか時間は過ぎていた。

そして、帰り道

朱次とのツーショットのアルバムをスマホで見ていた

『ドテ!』

真面目にす転んだ。

あいたたた、やっちた。

こんな日も良いか。



なぎさの部屋

何時もの様に私はベッドの上でアルファー能力の訓練をしていた。

うーん、いまいち気分が乗らないな……。

そうだ、ゆきに借りた本での読んでみるか。

アインシュタインの本だ

……

時間だの空間だの色々書いてある。

難しいな~

そう言えば、ゆきが異空間でコーヒーがどうのこうの言っていたな。

何か出来るかもしれない、試してみよう。

熱いコーヒーを置いてみて、力を込める。

十二単衣の様な姿の女性が何か書いている。

何だ!これ?

あれ?消えちった。

うーん。

ま、良しとして、何かやる気出て来たし訓練に戻るかな。


ゆきの部屋

うーん、今日はホワイトデーか、なぎさに手作りチョコ貰ってたな。

手作りは無理だな、そうだ。

――ここをこうして

出来た。

良しなぎさの家に行こう。


なぎさの部屋

「なぎさ、こ、こ、これ……」

「何?プレゼント?」

ゆきは紙の束を渡す。

そこには『お勉強教える券』と書いてある。

「ゆき?これは?」

「いや、その、これ一枚で一時間の間ていねいに勉強を教えるの」

「嬉しいけど数多くない?」

「そうかな」

「なら、この券と手作りチョコと交換ってなのはどう?」

「え?」

「えへへへ、私バカだから、勉強は苦手。でも、大好きなゆきの気持ちが嬉しいから」

「勉強も少しはするなら許すよ」

「もう、ゆきには勝てないな……」


ゆきの部屋

う、もう朝か、勉強していつの間にか寝てしまったらしい。

ありふれた毎日の始まりか、

でも、何かが欲しかった、私はなぎさにメールをしてみる。

内容は……『おはよう』これだけ。

伝い事は沢山あるのにこれだけしか書けなかった。

――

返事が来た。

『おはよう、今日も特別な朝の始まりだね』

そうか、なぎさは毎日が特別で新鮮なんだ。

私は……。

教科書のつまった鞄に料理の本を入れてみた。

今日はなぎさに頼んで料理を教えてもらおう。

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