料理できる男子ってかっこいい

 その時女性達の戦いが始まっていた。

「それで、桃華ちゃんは純平くんのどこが好きなの?」

 いきなりだったので、私は思わずお茶を吹き出しそうになった。

「な、な、何を言ってるんですか?、実の兄妹でそんなことあるわけないじゃないですか。」

「えー、そんなに誤魔化さなくてもわかるよ。だってさっきからずっと気になってるんでしょ?、純平くんのこと。」

 なぜだかこの人に言い訳など通用しないように思ってしまった。

「私もね、純平くんの事がすきなんだ。」

「だったら、それでいいじゃないですか。」

 こんなパーフェクトな女性が相手なら兄だって幸せだろう。私は、お兄ちゃんの幸せが一番なんだ。そう思って諦めきれない私の気持ちを押さえようとしていた。

 しかし、さすがはパーフェクト女性、お兄ちゃんが主人公なら、彼女はヒロインだな。と思うような事を言ってきた。

「私は純平くんの幸せもだけど、純平くんの家族も幸せにしてあげたいの。私が純平くんと恋をして桃華ちゃんが不幸になるのなら、私は純平くんの事を諦めるよ。二人だけの幸せって好きじゃないの。二人が幸せで、その周りの人達も幸せになってほしいの。だから、桃華ちゃんが純平くんに近寄らないでって言うなら諦めるからね。」

 彼女は卑怯だ。そんな事言われたら私は自分が大人気ないって思ってしまう。

 好きって感情だけで家に住ませてもらっている。自分の幸せだけを考えて、兄に強引に迫っている。

 好きって気持ちでの行動は悪いとは思わないが、彼女はそれ以上に周りの事も考えていた。

 数年先輩なだけなのに、私にはその数年は永遠以上の距離があるように感じられた。

「わ、私は兄が誰と恋しようがどうでもいいので。」

「ほんとにどうでもいいの?、私にはそう見えないから桃華ちゃんにちゃんと話しておこうと思ったの。」

 この人もこの人で、主人公になる素質があるよ。

「八重桜さんも、主人公になりたいんですか?」

「もぉ〜、葵でいいよ。主人公って何のことかよくわからないんだけど、自分の人生で自分以外に主人公はいないんじゃないかな?」

「でも、八重桜さ、じゃなかった葵さんは、モブの人の幸せも大事にするって。」

「モブ?、よくわかんないけど、私たちから見たらその人たちはモブかもしれないけど、その人はその人の人生では主人公なんだよ。主人公なのに幸せになれないなんて、そんなの嫌だな。」

 彼女の言っていることは正しい。

 世の中に都合の良いモブキャラなんていない。

 いつの間にか、二人ともコップに入れていたお茶がなくなっていた。

「葵さん、お茶いれましょうか?」

「あっ、ごめんねお願いしてもいいかな?」

「わかりました。少し待っていてください。」

 私は、コップを二つ持って立ち上がり台所へ向かった。


「嫌われちゃったかな?」

 リビングに座りながら、少し疲れた様子で彼女は呟いた。

 何が周りの幸せだ、私は周りを不幸にしようと順平くんと結ばれたい。

 桃華ちゃんには周りの幸せを大切にしてほしいと伝えたが、それは自分に言い聞かせているのでもある。

 つくづく酷いと思う。

 素直に結ばれたい、と伝えた方が良かった気がする。

 だって、好きな気持ちはもう誤魔化せないのだから。

「ごめんね、出来の悪い年上で。」


 台所に向かった少女も悩んでいる様子だった。

「はあ〜。結局、私って自分の事しか考えてないの。」

 先程の葵さんとの会話で、そのことを思い知らされた。

 少女はまた泣きそうになっていた。

 すぐに横で兄が料理を作っていたが、その顔を直視できなかった。

 泣いてしまう気がしたからだ。

 泣き虫な自分を変えたい。

 過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる。

 そんな言葉が残っている。やはり、過去の人は偉大である。

 お茶を入れ終えて、リビングに戻ることにした。

 お昼ご飯はまだ出来ないらしい。


「葵さん、お茶入れてきました。」

「ありがとう桃華ちゃん。」

 リビングでくつろぎながら葵さんは、言ってきた。

 しかし、それ以降お互いに無言になってしまった。

「葵さん。」

 そんな空気に耐えられず、私は葵さんに話しかけた。

「何かな?」

「葵さんは、私が嫌だって言ったら、ほんとにお兄ちゃんを諦めてくれるんですか?。あなたの兄を愛する気持ちは、そんなものなんですか?」

 葵さんは少し考えてから、ゆっくりと答えてくれた。

「本当は諦めたくないよ。でも、桃華ちゃんは私にとって、大切な妹みたいなものだから、桃華ちゃんが嫌がることはしたくないかな。」

 そこまで私のことを考えてくれてるなんて知らなかった。

「兄は、女性に対する耐性がないですから、変な虫がつかないように、ひとまず葵さんに任せます。ただ、私だって諦めるつもりは無いですから。」

「えっ!?、いいの?」

「だから、ひとまず許してあげます。でも、何かあればすぐに私が奪いますから。」

 葵さんが満面の笑みで、抱きついてきた。

「ありがとう桃華ちゃん。ほんと桃華ちゃん大好き。」

「葵さん、く、苦しいです……」

「お前らー、ご飯出来たぞ。って、何やってんだよ!?」

兄の料理ができたようだ。

「ま、まあ、恋は人それぞれだけど、兄としては少し複雑かな。」

「ちがうよー。」

「ちがうってー。」

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