強引なのも悪くない

 ついこの前までは俺はクラスでもそこまで目立っていなかった。

 しかし、人生とは何が起こるかわからない。

 皆は、俺は主人公になる運命なのだと言う。

 運命?、そんなのクソくらえだ。

 なぜ決められたレールの上をひたすら死ぬまで歩かなければならないのだ。

 人とはある程度決められたレールの上を歩いているのではないかと思う。

 レールの分岐点での判断により、良い方向か悪い方向か決められるのである。

 そして、俺は悪い方向へとポイントを変えてしまった。

 モブになる。その俺の願いは、意図せぬ分岐であった【八重桜葵】と【広澤桃華】によりほぼ不可能なものになってしまった。


 みんなが待ちに待った金曜日の放課後。

 二日も休みが貰える学生達は、若干テンション高めで皆帰っていく。

 そんな中、一人の疫病神?こと葵が話しかけてきた。

「ねえ純平くん、明日暇かな?」

「明日か、大した用事はないから暇だけど。」

「じゃあ、家に行ってもいいかな?」

「はぁ?、お前家に来るのか?」

 俺が来るのかを聞いた瞬間、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、明日11時頃に行くね。」

 俺、来ていいって言ってないのに。と思ったものの、あんなに嬉しそうにしているので断れなかった。

「俺の家に来ても何も無いぞ。」

「やっぱりご両親への挨拶は早めにしておかないとね。ご両親へのお土産はどうしようかな。」

 嫌だ、突っ込んだら負けだ。

「純平くん、ご両親苦手なものある?」

「盛り上がってるとこ悪いけど、俺の親はちょっと遠い所に行って......」

 あれ?、この言い方だと親が居ないみたいじゃん。確かに居ないけど、それは両親が海外出張で居ないだけで、これだと死んでしまってるみたいじゃん。

「そ、そうなんだ。なんかごめんね。」

 ほら〜、やっぱりこうなってしまう。完全に俺の言い方が悪かっただけなんだが。

「じゃ、じゃあ他に誰もいないの?」

 ちょっと声が上ずってたじゃん。完全に気を使わせてるよこれ。

「今は、桃華ちゃんと二人暮らしなんだ。久しぶりに会うの楽しみだな。」

 こいつが桃華と会うのは、桃華がまだ幼稚園にも行ってないぐらいの頃以来なのだ。

「大したおもてなしはできんからな。」

「気を使わなくてもいいよ。私は純平くんと居られるだけで幸せなんだ。」

「何か聞こえた気がするが気のせいだな。帰るか。」

「待ってよ、置いていかないでよ。」

 さっさと帰ることにした。


 今日は葵が来るとのことなので、普段はあまりしない掃除をしておいた。

 こうやって掃除してみると、けっこう汚れていて時間がかかってしまった。

 終わって時間を見てみると時計の針は11時前を指していた。

「ピーンポーン!」

 待っていたかのように俺の家のインターホンが来客を伝える。予定の時間の5分前だった、京都なら怒られているんだろうな~。とかくだらない事を考えながら、返事をするためにインターホンの前まで歩いて行った。

 インターホンはカメラ付きなので確認すると、葵が少し緊張した様子で映し出されていた。

「はい?」

「あっ、純平くんの友達の八重桜葵です。」

 なんて礼儀正しいんだよ。この家には俺と妹しかいないないんだから、そんなに丁寧に挨拶しなくても。

「はいよ、玄関の鍵は開いてるから入ってきてくれ。」

「おじゃまします。」

 俺は入ってきた葵を妹と二人で出迎えるために玄関まで歩いて行った。

 そこには、また丁寧に靴を並べてくれている葵がいる。

 ほんとに素晴らしい女性だと思う。

「あっ、純平くんに桃華ちゃんこんにちは。」

「おっす、大したもてなしは出来ないが、ゆっくりしていってくれな。」

 俺が言い終わると同時に葵はいきなり桃華に抱きついた。

「きゃー、桃華ちゃんかわいいー。大きくなったね。」

 桃華が困った顔でこちらにヘルプサインを送ってきていたが、俺は手でバツサインを返すことしかできなかった。

「玄関で立ち話もなんだし、部屋に上がれよ。」

 抱きつかれて苦しそうにしている桃華がかわいそうになったので部屋に誘導する事にした。


「部屋が片付いていて綺麗だね。」

 葵がリビングで正座しながらそう言ってくれた。

「当たり前だろ。いつでも綺麗に保ってるよ。」

 大嘘である。こいつが来るから片付けたなんて言ったら、変に気を使わせたり、それこそ変な想像をしかねないからな。

「葵は昼飯食ってきたのか?、もし良かったら今から飯だし何かつくるけど?」

「えっ?、純平くんの手作りごはん食べれるの?、じゃあ、イタリアンのフルコースお願い。」

「そんなもんつくれるわけねーだろ。とりあえず何かつくってやるよ。」

「あはは、冗談だよ。」

 ほんとに冗談だよな?、フルコースとか俺はそんなもん作れないし、そもそも見たことすらないぞ。

 台所で料理をしていると、葵と桃華が二人で真剣に話している。

 しかし、俺には聞こえなかった。この時の会話があんなにもカオスなものだったとは、俺は知る事もなかった。


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