胃袋シミュレーション
私は、恥ずかしくなってリビングに逃げこんでしまった。
「さすがに裸は恥ずかしすぎるよ~。」
リビングにあるふかふかのソファーに顔を埋めながら弱々しく呟く。
耳まで真っ赤にしている。なぜそこまでして兄にこだわるのか。
彼女にとってお兄ちゃんは辛い時にいつも支えてくれたヒーローなのだ。
幼少から虚弱体質だった彼女は、よく体調を崩して入院していた。
学校にはほとんど行けなかったため、友達が全然いなくて、入院している時とても孤独で寂しい思いをしていた。
そんな時にいつも側にいてくれたのが兄であった。
私が学校に行けない時は、兄も学校をサボって私の病室にいてくれた。
私が不安で眠れない時は、兄はずっと手を握ってくれていた。
それは安心すると同時に、兄の時間を奪ってしまってるという罪悪感もあった。
兄はいつでも私を支えてくれた。今度は私が恩返しすると心に決めていた。
「お兄ちゃんのために桃華頑張っちゃうぞ。そう言えば、ご飯まだ食べてないって言ってたから、私が豪華なご飯を作ってあげよう。」
台所に立ってから気がついた。
「私、料理にがてだー!」
でも、お兄ちゃんに喜んで欲しいから、慣れない手つきで頑張る。何を作ってあげようかな?
やっぱりここは、できる女アピールしておかないとね。玉子焼きに、味噌汁と、お魚を焼いてあげよう。
ありがたいことに材料や、調味料はすべて揃っている。
「ここでお兄ちゃんの胃袋を虜にしたら。」
「桃華、お前こんなに料理得意だったのか、これからはこの料理を毎日俺のためだけに作ってくれ。」
「お兄ちゃん...」
「こんなに美味しい料理なんだ、お前も食べろよ。もちろん俺の口移しでな。」
※イメージです
「キャーお兄ちゃん、私たち家族なのにそんな禁断の愛なんて、困っちゃうよー///」
そんな時、お兄ちゃんが全力で走ってきた。
「桃華なにやってんだ!?、早く火を止めろ!」
「どうしたの お兄ちゃん?。ってフニャーーー。」
妄想の世界に入り込んで気が付かなった。すべての料理が真っ黒にこげてしまっていて、さらには煙まで吹いていた。
「お兄ちゃん、火が消えないよ。助けてー。」
お兄ちゃんが鍋に水を入れ、玉子焼きを作ってたフライパンに全力でかけた。
すごい音と水蒸気をばら撒きながらも、火は消された。
二人揃って安堵のため息が出てしまった。
てか、玉子焼きを作ろうとして家が全焼って、さすがにやばいだろ。
火事にはならなかったから良かったが。
「それで、桃華は何してたんだ?」
「お兄ちゃんに喜んでもらいたくて、ご飯を作ってあげようと思ったの。」
自分は料理もできず、火事になりそうなのに焦って何も出来なかった。
そんな自分がくやしくて、ダメなのに涙が出てきてしまう。
「そうか。」
怒られると思った。叩かれると思った。だって、何やってもダメで、出来ることなんて何も無い自分なんて怒られて当然だ。
「まったく、出来の悪い妹だよ。あんまり心配かけんなアホ。」
兄はそう言って優しく抱きしめてくれた。
「どこか怪我してないか?」
その優しさに、私は嬉しさと心配させてしまった悔しさで泣いてしまった。
「なんだ!?、どこか火傷したのか?、確か和室に救急箱が。」
「違うの。私なんて何もできなくて、頑張ってもほんとにダメダメで、そんな自分が悔しくて。」
「確かにお前は何もできないよ。ほんとにダメダメだよ。」
自分でわかっていても、はっきりと言われるとやはり悲しい。
でも、落ち込んでる私を兄は放ったらかしにはしなかった。
「でもな、上手くいかなくて悔しかったり、悲しかったりするのは、まだ自分があきらめてないからだろ?。俺は、そんな諦めずに努力する桃華が好きだよ。」
「......ありがとう。」
「ん?、何か言ったか?」
「な、なんでもないよ。」
悲しみと悔しさでいっぱいだった彼女の顔は、いつの間にか桃の花が咲いたような素敵な笑顔に変わっていた。
ぐうぅ~!
さすがに朝から何も食べていないため、お腹が限界に達した。
「仕方ないねお兄ちゃんは。私がなにか作ってあげるよ。」
「えっ!?、桃華?」
「大丈夫だよ。冷凍食品を炒めるだけだから。」
そう言って彼女は再び台所に立った。
今、台所に立っている彼女はさっきよりも自信に満ちており、楽しそうに料理をしている。
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