諦めない気持ち

 突然ドアが開く音がした。誰もいるはずがない、そう思い込んでいた。

 今会ってはいけない、今顔を合わせてはいけない。

 こんな情けない自分の姿なんて、いつも明るく笑顔のワタシの裏側を見られたくない。なのに、なんであなたはここまで来てしまうの?

 会うのは今じゃないでしょ。もっと笑顔で会いたかった。


 彼は大きな太陽が闇に飲まれる頃に、学校に到着しした。

 今日の彼女は、どこか様子がおかしかった。

 まだ、昔のことはよく思い出せない。しかし、何かあった事はわかる。

 詳しく思い出したいが、彼女が欲しい傷つくなら思い出さない方がいいのかもしれない。

 そう思いながら学校を見上げると、自分のクラスに人影が見えた。

 そこから、何も考えずに走り出した。


 そこに佇む女性は、儚く今にも消えてしまいそうな笑顔でこちらを見てきた。

「ごめんね、心配かけて。もうすぐ帰るから純平君は先に帰っていいよ。私は戸締まりしてから帰るから。」

 私の強がりを聞いた彼は、こちらへと歩いてくる。

 だめだよ、今こっちに来ると私が泣いていたのがばれちゃう。

 帰るように彼に再度伝えようとしたが、それが言葉になることはなかった。


 俺の予想通り、教室に見えた人影はやはり彼女であった。

 俺がドアを開けると、驚いたのと同時に悲しげな表情でこちらを見てきた。

「ごめんね、心配かけて。もうすぐ帰るから純平君は先に帰っていいよ。私は戸締まりしてから帰るから。」

 どれだけ鈍感な奴でもこれぐらいの嘘は見抜ける。

 確かに俺は、主人公になりたくない。だが、泣いている彼女を見捨てて帰るのは、主人公どころかモブすら失格だろ。

 モブってのは、全員のサポート役なんだよ。

 誰かが辛かったらそれを支えて、泣いていたら慰めてやる。それが出来ないのにモブだとか笑かしてくれるぜ。


 俺は、八重桜の方に向かって歩いていく。

「心配かけた?ほんとだよ!どれだけ心配したと思ってるんだよ。それなのに、先に帰れだと!?お前を放ったらかしにして帰れるか!!」

 そして、八重桜を優しく抱きしめると、彼女は俺の胸で大泣きした。

 泣いている間ずっと頭を撫でて、泣き止んだのは相当時間が経ってからだった。


「ごめんね、心配かけて。」

 二人で無言で帰っている途中、唐突に八重桜が言ってきた。

「気にするなよ。お前が泣いてるのに帰れるわけないしな。」

 あっ、これはやってしまった。

「そ、その純平くん。今日のお礼だよ。」

 俺の頬に温かく柔らかい感触がした。

だから、頭にチョップしてやった。ほんと、俺なんかに貴重な唇を使うなっての。

「あいたっ!何すんのよ!」

「こういうのは、もっと大事な時のためにとっておくもんだろ。」

「私にとっては今がその使い時だったの。」

 ほんとに困ったやつだ。

「えへへ~」

 唇を触りながら幸せな顔を浮かべていたので、それ以上は何も言わないことにする。

 早く帰って明日に備えないと、明日は家族が会いに来るんだから…

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