消せない思い出
沈みかかっていた太陽も、今はもう、地平線へと飲み込まれていった。
それでも彼女は帰れなかった。帰るための元気がなかったのだ。
溢れてしまった気持ち、彼女の心を蝕まんとする闇。
ここで人生を終えれたらどれだけ楽になれることか。今まで苦しんだんだからもう良いじゃないか。
悪魔が私にささやく。
耳を貸してはいけないのに、それでも聞こえてくる。聞きたくないのに聞こえてしまう。
もうお前は隠し通すことは出来ない。お前はもうおしまいだ。すべて吐き出して楽になれよ。
彼女が隠している事、実はあの事故の被害者はもう一人いた。
思い出したくも無い数年前の出来事。あの悲惨な事故。
私の姉である【八重桜紅葉】彼女もあの事故に巻き込まれた。
「あかはおねえちゃん、私、もうげんかいだよ。お姉ちゃんに会いに行きたいよ。」
私は、純平くんがお姉ちゃんを好きだと知っていた。
事故の当日、私とお姉ちゃんと純平くんで出かけていた。
狭い道で三人で歩いていると、突如ものすごい音が聞こえてきた。
爆音を響かせながらスポーツカーがこちらに突っ込んでくる。その車はドリフトをしていたのか制御が出来なくて、こちらに猛スピードで迫ってきている。
直撃する瞬間、私は車とは違った衝撃に突き飛ばされた。転げてしまって痛かったが、そんなのたいしたことは無かった。
私は少しすりむいただけだったが純平君は、頭から血を流していた。そして、お姉ちゃんはもうその時には手遅れの状態だった。
私たちは、近くに居合わせた人により、すぐに病院へ連れて行かれた。
病院で純平くんを見たとき、思わず抱きついてしまった。そして、なくことしか出来ない私に、純平君は優しく頭をなでてくれた。
お姉ちゃんが死んでしまったこと、純平くんに怪我をさせてしまったこと、すべて私が原因なんだと自分を呪った。
なぜ、私が生き残ったのか?純平くんがすきなのは、お姉ちゃんであって、私じゃないのに。
お姉ちゃんは最後まで私たちの心配をしていたそうだ。
そんな周りの幸せしか考えてないようなすばらしい姉、もう会うことは出来ない姉、私の自分勝手で大事な人を失ってしまった。これで純平くんまで死んでいたら、私は今この世にはいないだろう。
病院で救急車の隊員の人が、姉からの伝言だと伝えてくれたことがあった。
あのね葵、今は気持ちが上手く伝わらなくてつらいかもしれない、好きな人が振り向いてくれなくて悲しいかもしれない。
でもね、葵ならだいじょうぶだよ。あなたのその明るさと元気は、誰にも負けないんだから。
私は、最後までだめなお姉ちゃんだったね。あなたの近くで応援することが出来ないなんて、ごめんね。
側に居てあげることは出来ないけど、ちゃんとあなたを見守っているから。私の自慢の妹なんだから自信を持って。
その言葉は、意思を持っているかのように私の心に深く突き刺さり、全身から力が抜け立っていられなかった。
死ぬほど辛いとは、まさにこの事だろう。私の心は壊れかけていた。
そこに救いの手を差し伸べてくれたのが純平くんで、その二人を守ってくれたのが姉で、私はもう一度頑張ろうと思えた。
ここで諦めたら、お姉ちゃんになんて言われるか、もしかしたら天国で勘当されるかもしれない。そんなのは嫌だった。
病院から退院して、純平くんには少し異変があった。
まったくお姉ちゃんのことを覚えていなかったのだ。
お医者様に聞いたら、事故の衝撃で、一時的に記憶が混乱しているか、ショックで記憶を失ってしまっているのかもしれないとのことだった。
純平君はお姉ちゃんとやったことも、私とやったと思っている。
それは、私にとってはチャンスでもあった。純平くんに私のことを好きになってもらうチャンスであったのだ。
しかし、現実は厳しく、私たち家族は引越しすることになったのだ。
「現実って、なんでこんなにも辛いの。なんで忘れかけていたのにまた会っちゃったのよ」
完全に闇に呑まれた教室。
その隅で自分の運命を呪っている美少女。
初恋の人に、大好きだったあの人に、数年経って更にかっこよくなってたあの人、純平くんと再会してしまった。
その時、突然教室のドアが開く音がした。
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