思い出の場所と過去

 激動の時代!と、言われてもおかしくないぐらいに俺の生活に異変が生じている。

 その原因は、自称幼なじみの『八重桜』の影響であり、そのおかげで、俺のモブ生活が終わりを迎えつつあるのである。

 壊れそうな理性でなんとか逃げ出した体育館、そしてそそくさと帰り支度をして帰ることにした。


 帰り道の途中、少し頭を冷やそうと思い、いつもと違う道から帰っていた。

「あっ、この公園懐かしいな」

 ふと、前を通りかかったのは、引っ越しをする前に住んでいた家の近くにある公園だった。

 引っ越しをしたのはおよそ5年前。しかし、学校とかは転校しなくても良い、同じ校区内での引っ越しであった。

 何かに引き寄せられるように俺は、公園に入って行った。

 昔はここで、夕方まで遊んで親に呼ばれたっけな。

 そこは、当時と何も変わらない。それなのに何か違和感がある。

「この公園、こんなに小さかったかな?」

 その言葉で俺は気付く。変わったのは公園じゃない、俺の方なんだと。

「はぁ〜」

 俺のため息を、この場所は優しく包むように風が通り抜けた。

 公園には誰もいない、1人きりの夕暮れの公園。

 その状況は俺を感傷に浸らせるには十分過ぎる状況だった。

「こんなにも、悲しいものなのか。」

 俺は今まで、先ばかりを見ていた。しかし、こうやって振り返ってみると、失ったものが多すぎる。

「ごめん...八重桜...」

 いつの間にかこぼれてしまった俺の気持ち。

 一度あふれると、止めることは出来ない。

 頬に湿った感覚があったが、それを抑え込んで。

「八重桜を迎えに行かないと...」

 その言葉を胸に、俺は全力で自転車のペダルを漕ぎ始めた。


 彼女は教室にたたずんでいた。

 彼女はそこで何をするわけでもなく、ただただ、そこに立って教室から外を眺めていた。

「はあ~」

 ものすごい勢いでため息が出てしまう。しかし、それを聞く人は誰一人としていなかった。それほどまでに時間が過ぎていて、外には沈みかけた太陽がうっすらとその姿を残しているだけだった。

「なんで、私ってこんなのなんだろう」

それは、ほかの誰でもない自分に対する疑問だった。

「私がもっと優しかったら、私がもっと素直だったら、私がもっとかわいかったら。」

 彼は振り向いてくれたのではないか?

 しかし、この言葉は自然と溢れてきた涙によって言えなかった。

 大きな不安は涙となって世界にこぼれてしまった。

「でも、仕方ないよね。自分勝手に引っ越しして、久しぶりに会ったら、過去の話で結婚なんて、自分勝 手すぎるよね。わかってるよ。だけど!」

 それは諦めきれないが故の、悲痛の叫びだった。

 そしてそれは、過去の事件に責任を感じているからでもあった。

「だけど、わかってるけど!!」

 一度こぼれてしまったら、もう抑えることはできない。

 いつもは白い頬が、黄金色の瞳が、普段よりも紅く、何より悲しげに想いを伝えてくる。

 社交性があり、誰からも好かれる彼女の心は、他の人には想像もつかないほどに、重圧に押し潰されていた。

「私が!子供なのに、まだ世の中の事なんて、何も分かってなかったのに、結婚なんて無責任に言い続けるから」

「純平くんは優しいから、私が本気だと思ったから。あんな事言い出したんだよね。私に勝たせるために。」


 自転車にまたがり、公園を飛び出した少年はその事に気が付くはずもない。同じように、彼が公園に行き、そこから全力で迎えに来ている事を、彼女は知らない。

 その光景はなんとも鮮やかに、そして、はっきりと過去の事件を思い出させてくれた。


「俺は、なんてことを!くそっ!!なんでお前は全て自分で解決しようとするんだよ!!」

自分の不甲斐なさに苛立ちながら、少しでも早く顔を見たいと思い、全力で自転車をこいでいる。

「お前は悪くなんてないのに、なんで自分の責任と思い込むんだよ。」


「・・・くん」

「ねぇ、・・・くん」

 誰かの声が聞こえてくる。ずいぶんと、涙声となっているようだった。

 安心させようと、声のする方に起き上がろうとした。しかし、それができない。

 少ししてサイレンの音が聞こえてきた。どうやら救急車が来たようだ。

 そこでやっと目が開いた。目を開けた事を後悔した。

 紅に染まった空、泣きじゃくる幼なじみ、そして、全身紅く染まった自分の姿。

 全身の血が引く様な感覚、体が動かない恐怖に襲われ、深い闇に引きずり込まれてしまった。


 目を覚ますと、両親、祖父母、それに従兄弟がこちらを心配そうに見ていた。

 母に強く抱きしめられた。

 そこには、葵ちゃんの姿もあった。彼女は大粒の涙を流しながら抱きついていた。

 しかし、気になることがある。なぜ、自分はここにいるのか、何があったのか、思い出せない。

 一体何があったのかと聞いたら、あんたが公園で倒れたと聞かされた。


 やっと、学校まで半分といった所まで来た。

「よく考えたらわかるじゃないか!公園で倒れたぐらいで、親族が勢揃いするわけないって!」

おじいちゃん、おばあちゃんは車で1時間程の場所に住んでいるが、従兄弟は車で片道だけで5時間もかかる。

 そこまで、重大なことになっていたのに、当時は気が付かなかった。

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