【4】イクサガミ、転校生になる 1
というわけで、今日から僕とみなもは、島の高校に転入することになったんだ。
まあ、ぶっちゃけ強制転校なんだけどさ。
さっきまで僕は、基地の人にすんげえ怒られつつ、僕がブチ壊したガラス戸の破片を掃除をしてた。それから学校に行ったもんで、初日なのに遅刻確定。
それもこれも全部兄貴のせいだっつーの。
☆
礼服から学校の制服に着替えたあと、難波さんの乱暴な運転の車に揺られること約五分、僕らは学校に到着した。
「なああああにいいいいい、ここおおおおおおおおお?」僕は絶叫した。
どこの宗教団体が経営しているのかしらと思う程むっちゃ豪華だった。
門も柵も中も建物もなにもかも、まるでゲームに出てくる私立高校みたいに、必要以上に美麗グラ……いや、豪奢と言えばいいのか。
とにかく、そういうやつだった。
なんでこんな僻地の島に、とてつもなく豪華な学校があんのか、かなりナゾだ。
校門のぶっとい門柱の上には、デカいガーゴイルが鎮座してる。
とても精巧に出来ていて、今にも動き出しそうだ。
きっと名のある作家が作ったんだろう。
ガーゴイルってゲームでは、モンスター扱いだけど、実はシーサーみたく守り神的な置物なんだよな。
校長室で形式的かつ手短な挨拶を済ませた僕らは、その場で担任の先生に引き合わされた。
三十代の男性教諭で数学の金城先生。
名前からすると沖縄の人だろうか。近隣県だからいてもおかしくない。
僕らが特殊な転校生だからか、校長先生も金城先生も緊張している。
確かに、高校生のイクサガミなんて今までいないからなあ。
でも、僕だって居心地が悪いのも正直な感想だ。
僕らは金城先生に連れられて、二年生の教室に向かった。
教室の前まで来ると金城先生は、「声を掛けるまで廊下で待ってて下さいね」と僕らに声をかけて、先に教室に入っていった。
「転校生なんて、ドキドキするよ……」
そう、僕は転校バージンなのだ。
ものすごく注目されるんだろうなあ。そう思うと胸のあたりがムカムカしてくる。
「大丈夫。私がいるから」
みなもがじっと僕を見る。
「うん……なんとかがんばる」
そう言って、僕はみなもの手をぎゅっと握った。
そのとき教室の中から先生の呼ぶ声がした。
僕の心拍数が上がり始める。悪い想像ばかりが頭の中をぐるぐる回っている。
「威、ほら、いこ」
みなもが僕の腕を引っ張って教室の中に入っていった。
『パチパチパチ。パンパパン!』
教室内に拍手とクラッカーの破裂音がが鳴り響いた。
「え? な、ななな何?」
僕はみなもと顔を見合わせた。
大歓迎のクラスメートたちをチラッと見ると、少なからず興奮しているようだ。
まるで島に来た初日、基地フェンスの向こうにいた人たちみたいだ。
やばいやばいこれはやばい。
ドクドクドク……と心拍数がさらにドカンと上がっていく。
僕はパニックを起こさないよう必死にこらえた。
「では、威様とみなも姫様、こちらへどうぞ」
先生が引きつった笑顔を貼り付け、教壇の真ん中へと僕らを促した。
ぎこちないうやうやしさだ。そんなの意味ないのに。
一応、お約束どおりに黒板に名前を書いた。
チラとみなもの顔を伺うと、腕組みをして『うんうん』と頷いてくれた。
みなもの自信に満ちた笑顔が何よりも心強い。
「……み、南方威……です。横須賀から来ました」
まともに前なんか見られない。
もーなんかヤバイ。
声がどんどん小さくなる。
「あ、あの……、本土ではついこの間まで、普通の高校生やってました……ので……」
(声小さいよ)みなもが囁く。
(ムリ……もうムリ)
教室内がざわめき始めた。
先生が何か言ってる。
でも何を言ってるのか、僕にはもう分からなかった。
うっかりチラと前を見てしまった。
やめりゃ良かった。あああむっちゃ見られてる!
僕の視界がぼやけて、目がぐるぐる回って、そして――僕は気を失った。
◇
「あ、気が付いた?」
気が付くと、どこかで見覚えのある女の子が僕を見下ろしている。
……だれだっけ?
僕は、どこかの病室みたいな所に横たわっているようだ。
「……ここは?」
「保健室よ。南方くん、さっき教室で倒れちゃったの。
それでここに運んで、私と橘さんでしばらく介抱してたのよ。
……具合はどう? どこか痛いところはない?」
女の子が僕に優しく問いかけてきた。
えっと、ごめん、マジで誰だったっけかな……。
…………あ!
数秒後、なんとなく状況を把握した。
僕は身を起こし、ベッドの脇でイスに腰掛けている女の子に言った。
「なんか迷惑かけてごめんなさい……あの……たしか、カメクラのお姉さん」
「私はここじゃあクラスメートで学級委員の八坂よ。
お姉さんじゃないわ」
八坂さんは天使のようなスマイルでそう言った。
(そっか……)
すぐに分からなかったのは髪型が違うからだ。
今は髪を大きな三つ編みのおさげにしている。
でも同い年? 絶対年上だと思ってたのに……。
「ご、ごめんなさい。えと……みなも、橘さんは?」
「保健の先生に、先に教室に戻るよう言われたから、さっき出ていったわ」
「……そう。何か言ってた?」
「病気のことなら橘さんに全部聞いたわ。……いろいろ大変だったのね」
お姉さん、もとい八坂さんは、ひどく気の毒そうに言った。
「まあ……。本土はこことは違って、結構人外への差別とかあるからさ……」
僕がもごもごと言葉を濁していると、八坂さんはすごく真剣な眼差しをしながら僕の手を両手で握った。
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