第36話

近くで見ると、キャスパー和尚は美肌だった。

実は宝蔵院お春こと西大寺千秋は、美肌の人間を無条件に信用するタイプだ。

キャスパー和尚の発言を咀嚼するのに、時間は掛からなかった。まさに真実を語る肌艶だ。

「ではまず、改めて自己紹介させていただきましょう。私は美肌探偵です。」


探偵は名前を名乗らなかった。

「キャスパー和尚が美肌だったなんて。キャスパー和尚は本名じゃないの?」

「探偵が告げる名前は犯人であるべきです。」

千秋は殺人事件はどうでもよく、キャスパー和尚の肌のお手入れの秘密を解明して欲しかった。

「ですがまずご友人を待ちましょう。」


探偵は殺人事件だと言った。それは、解決すべき類の謎だろうか?

日は暮れている。

十九時半。山田寺さんと菅原さんが現れた。それから二分経てば、マダムマリファナとバーの常連客が入って来た。さらに一分後にはチンパンジーが乱入。

四時間後、フリルの塊を身に纏った一団が迷い込みました。


黒髪の少女と、黒人女性七人だ。

「お春殿!お父様から人間界に留まるお許しを貰えたの!またみんなと学校に通えるわ。」

「えっ誰です貴女。」

千秋は黒髪の少女を見ると頭痛がした。

初対面の筈だが、見知らぬ拷問された記憶が頭に浮かぶ。

「私は橘結。貴方達とはご友人だったのよ。」


橘さんの発言は理解できなかった。だが一端の真実味があるようにも感じた。

「えっそうなんですか。ダメだ全く思い出せない。」

「まあそれは酷い。探偵さん、これは事件よ。この謎を解明して私が友達だと証明して。」

橘さんは自分が拷問して千秋の記憶を消した事は認めない姿勢だ。


「ええっこの事件今から解決するんですか。無理です発狂します。」

キャスパー和尚も苛烈な拷問で記憶を消されていたのだ。

「まあ、貴方に殺人事件解決を依頼したのは私よ。」

「そのような事は伺っておりませんが。」

「まあ。」

仕方がないので一同は殺人事件の方を解決する事にした。


「キャスパー和尚、いや、探偵さん。理事会は現れないって言ったよね。一体どういう事。校長は復活しないの。」

千秋は振り返るように、探偵の発言を確認した。探偵は、隣に佇むビショップを一瞥すると、答えた。

「私の見立てでは、復活しません。」

「ビショップが黒幕ではないの?」


「ふむ。お春殿。貴方は勘違いしている。」

キャスパー和尚の視線は千秋を見ている。周囲の人物も黙ったままだ。チンパンジーですらバナナを食べる手を止め、探偵の動向に注目していた。

「それは事件の本質ではない。超常の存在だとか、校長の復活だとかは無視します。」

「へっ?」


千秋は素っ頓狂な声を上げた。

「常識的に考えて、人知を超えた存在が現実に有り得る訳ないでしょう。よもや起こり得たとして、探偵の推理に何の影響があります?そういう不可能は消去します。」

キャスパー和尚は言い切った。千秋は黙った。

「ゾンビ出現の理由。四教頭にも依頼されましたよ。」


「四教頭が?」

「探偵として、四教頭に依頼され、私は潜入調査しました。」

キャスパー和尚は遠い目で言った。

「美肌の私に事件解決を依頼する気持ちも分からなくない。丁度、お春殿のご両親も依頼してた訳ですしね。」

「えっ」

「探偵は真実と不可能の分水嶺を見分ける者ではない。」


「数ヶ月の調査で打ちのめされましたよ。四教頭や校長。知る程、真実とは酷く曖昧だと理解し、発狂しそうになる。なので、これらを無視します。」

「そうか、分かった。」

菅原さんが手を叩いた。

「校長の中身がアマンダ和尚だったから、理事会召喚権を持つお相撲さんが引き寄せられたんだ。」


「成る…程?」

千秋はイマイチ納得がいかなかった。

「でも菅原さん。それだと召喚権者と力士が接触して、理事会が現れたなかった理由の説明が付かないよ。」

「多分、今から探偵さんがそれも含めて説明してくれるよ。」

「私の話聞いてました?」

キャスパー和尚は菅原さんを睨んだ。


「なんか上司がムカつくから無視するって言ってましたっけ。」

菅原さんは話を聞いてなかった。

間が悪かったのは、その時に四教頭が室内に入ってきたからだ。

「ゲェーッ!四教頭!」

探偵、キャスパー和尚は狼狽した。

「なんか俺たちの悪口を言ってなかったか。」

白虎は睨んだ。


長柄校長の姿は見えない。四教頭は千秋を見ると、嬉しそうに笑った。

「おお、成功したか。おっさんサイボーグ女子高生からおっさんを抜き取る計画が。」

「本題に戻りますね。」

キャスパー和尚は四教頭を無視した。

「校長の存在が有り得ず、当然、復活も起こり得ないと仮定します。」


「校長の復活がありえんだと。」

青龍が怒り口調で言おうとしたが、探偵が静止した。

「今は待って。さあ、これで事件から不可能な要素を取り除きました。残ったのは真実。ゾンビと、忍者が残りました。」

千秋はこの瞬間、キャスパー和尚を見た。

「残るの?」

「彼らは人間ですから。」


推理しても発狂しない、という意味なのだろう。

キャスパー和尚の論はかなり漠然としていた。真実を突き詰めるほど、四教頭の恐怖に絡めとられると考えれば妥当な説明だ。

「ゾンビは存在が確認されている。忍法に関しては"不可能"は有るでしょうが、同じく確認出来る真実もある。」


「忍法はどれだけ考えても発狂しませんからね。」

山田寺さんが言った。

「その通り。そう考えれば学校にゾンビが出現した原因も仮説が成り立つ。勿論、そんなもの証明するつもりはないが」

「それは一体何だね。」

玄武が口を挟んだ。

「ゾンビを陰陽術で式神にして操ったんですよ。」


キャスパー和尚は言った。衝撃が四教頭全員の顔に現れた。

「事実を整理しましょうか?本来、この世界に出現したゾンビは、死体がゾンビ化したものだ。死んでいるのに動いて、昼夜問わず人を襲う。」

学校のゾンビが式神?

「一方で学校のゾンビ。こちらは、月に一回程度、夜にだけ現れる。」


「この場合、校長の影響は考えない。誰かの人為的な行動だ。つまり月に一回、陰陽忍者がゾンビの体に術式を組み込み、式神として操作してたんですよ。」

千秋は、自分と同じと考えた。

「犯人は、蔵石壁斎?」

千秋は呟いた。

「結論にはまだ早い。落ち着いて、まだ人は死んでない。」


「ちょっと待て。」

朱雀が探偵に近付き、肩を掴んだ。

「待て待て待て。ならこうか?校長復活の予兆も、ゾンビと同じように『校長の肉体に術式を与えた式神』と?」

「他に理事会が現れなかった理由が考えられません。」

「なんと…」

朱雀はその場に崩れ落ちた。


「わしらが校長の魂に女子高生にして興奮してた間に、肉体がそんなことに…」

朱雀は悔しさのあまり泣き出した。千秋も四教頭のアホさに泣きたかった。

「理事会が出現しなかった理由もズバリ簡単。それより先に、式神の術を解いただけ。校長の復活自体が無いなら、理事会も現れ"られ"ない。」


千秋は力士が合体した時に現れた『ハズレ』の意味を理解した。まさしく、ハズレだったのだ。

「さて、ここまで話の本筋と一切関係有りません。」

キャスパー和尚はなんか言い出した。

「なんですって。」

「これは殺人事件だと気付くの為の事件でした。」

探偵は千秋と四教頭を見た。


「分かりますか。貴方達はこれだけ関わっておいて、その実、何一つ、ほんの少しも、事件の本筋にいない、別軸なのですよ。」

「何なの?犯人は陰陽組じゃないの?」

「まずそこです。」

探偵が指摘した。

「これが殺人事件なんですよ。」

探偵が指差すと、ビショップが懐から巻物を出した。


甲賀組

百面刑部(死亡)

石ノ老猿(死亡)

舟渡伝次郎(死亡)

桃地八右衛門(出家)

果報矢文之介(入院)

お茴(死亡)

お仮名(死亡)


入滅部隊

グロリア和尚

ハーマイオニー和尚(死亡)

メアリージェーンワトソン和尚(離脱)

アマンダ和尚(死亡)

マライア和尚(入院)

レイチェル和尚(死亡)

ローズマリー和尚(出家)


「その巻物は」

巻物には、ホワイト律暗殺競技の名簿が記されていた。戦いはとうに終わり、軍配は入滅部隊に挙がった。

「確かに、死人は多く出たけれど…も。」

最後まで言いかけたところで、ある考えに囚われ、千秋は言い切れなかった。

「分かりましたか?この戦いが仕組まれていた事に。」


キャスパー和尚の言う通りかもしれない。この戦いは元来、理事会の復活権を得て、学校への利権を獲得する為の醜い争いだった。

だが、その復活権が陰陽組に仕組まれていたと判明した今。

戦いそのものも、仕組まれていたと分かる。

だが何の為に?

「犯人は確かに陰陽組ですよ。」


「確かに?」

「お春殿、陰陽組とは何ですか?」

聞かれたら、答える。頑張って思い出しながら答える。

「謎めいてて、総理も止められない。不老不死や死者蘇生、人体式神実験などを行い、電子組は機械技術でこれらの再現を試みている。」

そして、最後に付け加えた。

「…幻術使い。」


キャスパー和尚は頷いた。

「そうですね。貴方の持っていた『言伝集成』にも書かれていた。内容は一度読んだので、私の美肌が全て覚えている。」

キャスパー和尚は服を脱いでなぜか上半身裸になった。

「事件を解決してみせる。私の肌にかけて。」

「でも、本当に幻を出すわけじゃないよ。」


キャスパー和尚は服を再び着ると、答えた。

「それはそうでしょう。幻術とは手練手管を用いて人を騙すこと。もう騙されてますよ。陰陽組そのものが、幻術です。」

「は?幻術?」

「だから、陰陽組なんて存在しないんですよ。」

千秋は言葉の意味を理解できなかった。

「いや、するでしょ?」


「しませんよ。だってお春殿、今まで陰陽組の忍者を見たことあるんですか?陰陽術を使う忍者を?」

「いや…それは…ない…けど。」

「これはまた仮説なのですが、陰陽術を用いて式神を増やせる以上、術者は一人でいいのではないでしょうか。」

「だからって突飛すぎる。」

「そうでもない。」


探偵は巻物を指差した。

「校長の復活も理事会の力も犯人の目的では無い。ならこのリストの中から探すしか無い。」

「殺すことが犯人の目的?」

「私は探偵ですから、そう推理します。」

キャスパー和尚の肌が光った。

「陰陽組が組織なら、普通に戦いを挑めばいい。単独犯ですよこれは。」


組織間同士の争いではなく、あくまで殺人事件だというのだろうか?

「そうです。これが殺人事件だと分かれば、犯人を当てることなど容易い。容疑者は戦いに関わった者達。事件の被害者は甲賀組。」

「入滅部隊は関係無いの?」

千秋は素早く指摘した。

「彼らは死因がハッキリしてる。」


キャスパー和尚はキッパリと言った。

「ハーマイオニー和尚は一般人。アマンダ和尚は力士。マライア和尚は水ガーデン。其々の要因で脱落している。メアリージェーンワトソン和尚とローズマリー和尚は離脱。

レイチェル和尚は甲賀忍者が殺すのを目撃されている。」

ビショップが眈々と説明した。


分かって無いのは甲賀組の忍者だけだ。」

「嘘よ。貴方達が殺したんじゃ無いの。」

ビショップは甲賀組と対立している。いくらでも都合の良い事は言うだろう。

「分かって無いなお春殿。」

だが、ビショップはそう言って笑った。

「入滅部隊が甲賀組に勝てるわけがない。」

探偵が言った。


「何が言いたいの。」

「入滅部隊はゾンビの駆除業者ですよ?サイボーグやミサイルは持ってても、冷静に考えて、政府の兵装の方が凄いに決まってます。しかも、忍法というブラックボックスを駆使する連中に勝つ見込みは無い。」

説明は一見尤もに思える。だが、甲賀組が死んでいったのも事実だ。


「いや、無理があるわ。そんなこと、四教頭にバレないわけ…」

「四教頭には、虚偽の報告をしていた。」

ビショップが言った。

「なんじゃと」

激怒したのは白虎だ。

「落ち着いて下さい。ゾンビの原因が分からない。武器も密輸したい。そんな状況で、敵が勝手に死んでるなんて言えません。」


「貴様ッ」

「だから、私もキャスパー和尚に依頼したんですよ。殺人事件だとね。」

ビショップは言った。千秋は少し納得した。

千秋の両親も、自分達を監視する者が日に日に減っている事に気が付いたんだ。そして殺人事件の匂いを嗅ぎ取り、探偵に調査を依頼した。それがキャスパー和尚だった。


「だから、犯人は入滅部隊ではありませんよ。犯人は陰陽組を名乗る忍者です。」

「一体誰なの。」

「松平信成ですよ。甲賀組が全滅し、忍者が死んだ時には必ず近くに居て、極秘任務ゆえに首都にいない言い訳が世間的に立ち、尚且つ入滅部隊より殺しやすい位置にいた。彼が全ての黒幕です。」


静寂が訪れた。

松平総理が殺人犯?

確かに彼は人間のクズだが、わざわざ甲賀組を殺して回ったというのか。

「奴の動機は?」

千秋が聞くより先に、青龍が鋭い目で聞いていた。

「さっき言った『言伝集成』ですよ。そこに全て書かれている。」

キャスパー和尚はここで初めて千秋を指差した。


「お春殿、伊賀忍者で一番偉い人は誰ですか。」

「服部半蔵?」

千秋は答えた。探偵は頷く。

そして次の質問で、完全に納得する。

「ではお春殿、甲賀忍者の統領は誰ですか?」

「内閣総理大臣?」

キャスパー和尚は首を横に振り、ごく短い単語で答えた。

「忍者館。」


甲賀組の統領なんていたのか?

「これは私の愛読する美肌の雑誌に載ってたコラムですが…武士の時代、御家人の部下達は主君を《御館様》と呼びました。」

ビショップは一冊の雑誌を懐から出した。

「お前の懐は書物しか入ってないのか。」

「館は建物だけでなく、貴人という意味も含みます。」


「忍者の統領は《忍者館》と呼んで然るべしなのですよ。」

ビショップの美肌が、真実を告げた。

「お春殿。現代のシステムが、内閣総理大臣職が忍者を統括する以上、松平総理こと服部半蔵が甲賀組を支配する体制なのです。

歴史上、歴代総理大臣が服部半蔵の名を継承してきたはずです。」


いや、それはおかしい。と、千秋は思った。

なぜなら、『言伝集成』では確かに伊藤博文こと伊賀博文は服部半蔵選出の儀に参加しているが、彼は服部半蔵には選ばれていないと書かれて…

「桃地八右衛門。」

千秋が閃いた。

「桃地馬琴。彼が、服部半蔵だったというの?」

「でしょうね。」


探偵は素っ気なく言った。

「歴史書とは都合のいい事実しか記さないものです。一度だけ服部半蔵に選ばれずとも、その後地位を簒奪した可能性も考慮できる。まるで興味ありませんが。」

キャスパー和尚は冷たかった。

「おそらく桃地馬琴と伊賀博文が伊賀に隠れた陰陽忍者だったのでしょうね。」


千秋は理解した。総理が、服部半蔵だった。

そして、殺した。甲賀組にいる、忍者館を。

「でも」

千秋は呟いた。

「総理も死んだわ。校門前で死んでたもの。」

「陰陽忍法。」

ビショップが言った。

「伊賀博文の忍法は自らの肛門を爆裂させ死を装うというものだったらしいですね。」


不意に。この時はじめて、千秋はお堂の入り口に、新たなる客が立っている事に気付いた。

「言ったはずだな、キャスパー和尚?」

その声は、今まで聞いたどんな声よりも悪意に満ちていた。

「…お春殿の体は、忍者の性能を基準に設計されているそうですね。」

探偵は、来客者に向かって尋ねた。


「俺は言ったぞ。忍術には奥義があり、その者は第三の眼を持つと。第三の眼に魅入られれば即死は免れんぞ。」

「お春殿が目から出すビームこそが、貴方の陰陽忍法。」

来客者は千秋達に対して後ろを向いていた。

その背中から臀部にかけてはグロテスクな破壊痕が存在する筈だった。


だがそこには、内閣総理大臣松平信成こと服部半蔵の肛門には第三の眼が開いていた。

「what?」

思わず千秋は英語で尋ねた。肛門の眼には五芒星が浮かんでいた。

「幕末の肛門を用いた忍法とはこのこと。眼を用いる忍法と肛門を用いる忍法。ふたつを関連付ける者はいなかった。」


確かに総理の言う通りだ。眼と肛門を関連付ける者など存在しない。美肌探偵を除いては。

キャスパー和尚は不敵に微笑んだ。

「お言葉ですが総理。不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となるのですよ。」

総理は振り向いた。両眼には五芒星が浮かぶ。


その時だ。総理の肛門に開かれた第三の眼から、眩い九本の光の束が放たれた。しかもあろう事か、光は屈曲し、お堂全体を檻のように包み、照らした。

「忍法『スターダストアイズ』。」

その名前は何処かで聞いた事がある。確か菅原さんがバスケを録音しようとした時に、混線した通信から。


「ついでに補足しておこう。」

総理は言った。

「桃地馬琴が開発した究極の陰陽術。それが人体式神兵器。死体に自らの意識を憑依させ、不老不死と死者復活の両方を実現させる。お春殿のモデルは桃地馬琴じゃ。」

千秋は愕然とした。どれだけ自分を構成する要素におっさんが入るんだろう。


「だが彼は失敗した!自らの意識を与え生んだ人体式神兵器は、馬琴の記憶を持たぬ紛い物だった!しかも術の影響で馬琴本人は仮死状態の即身仏となり…人体式神兵器を生み出すだけの機械に堕した!それに目をつけたのが親友の伊賀博文!」

総理は語り出した。

「奴は各方面に桃地を送り込んだ。」


「奴は七体の桃地を作り、総理大臣が忍者を支配する正当性を主張した。のみならず、忍者館の地位を狙った。」

「憲法草案盗難事件。そこに隠されたのは、忍者館の選出の儀ですね?」

キャスパー和尚は尋ねた。総理は頷いた。

「如何にも!桃地ニ右衛門を甲賀に送り込み…他の参加者を殺した。」


総理は拳を握りしめた。

「それこそ全ての始まり!桃地ニ右衛門を忍者館に仕立て上げた博文は…躊躇せず彼女を殺害した!桃地ニ右衛門こそが桃地馬琴だと主張してな。暗殺による忍者館の地位簒奪!伊賀博文は忍者館となった!」

総理は拳を緩めた。

「勿論、そんな事甲賀忍者達は皆目知らぬ。」


キャスパー和尚は頷いた。総理は語りを続ける。

「甲賀忍者共には、忍者館の地位は有耶無耶にされた。だがある時代、ある噂が流れた。」

総理は涙を流していた。

「忍者館の選出が終わっていない噂だ。」

総理は巻物を指差した。

「如何にも、一人だけ、ニ右衛門が殺し損ねた忍者がいた!」


「憲法草案盗みの下手人ですね?」

「そうだ!盗みの下手人は一般人だったが、甲賀忍者によって忍者に仕立て上げられた。それは全てを伊賀忍者の仕業に見せかける為の策だったが。後世では別の論理が成り立った。

甲賀忍者が作った伊賀忍者、それは甲賀忍者なのでは無いかという論理だ。」


「桃地ニ右衛門と盗みの下手人。二人が生き残っている以上、忍者館は決まっていない。ここに、忍者館選出の儀がいまだ存続している事がハッキリした。

そして…候補者二人が寿命で死んでいる以上、選出の儀の候補者は慣例上、甲賀組の者達だと言われた。」


「あのクソ外道共を生かしておけなかった。」

総理は悲しそうに呟いた。

「入滅部隊は除くが一般人である君たちをこんな事に巻き込んで本当に申し訳ない!この殺人事件は本来、忍者館の候補者間で完結すべきもの。

つまり俺こそが…!忍者館殺人事件!」



「探偵さん、あなたはどいて。」

ビショップが前に出た。

「君がいたな、ビショップ君。いや…」

総理が言うとビショップは覆面を取った。

「待ってましたよ総理。入滅部隊は弱い存在だが、私は相当強いぞ。総理大臣の地位を簒奪させてもらう。」

「好きにしろ。出来るものならな。」


ビショップの顔は知っている人間だった。

「貴方を殺して…この国をクーデターで支配するのは…このマックス函館様だーッ!」

「いや誰だよ!?」

やっぱり知らない人だった。

つづく

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