第23話

千秋は昼の弁当を自分で作る。


腕に関しては自己判断で中級に達していると思っている。

特にのど飴が得意で、友人達にも振る舞ったことがあるが好評だった。


何の取り柄もなさそうな千秋だが、のど飴作りにおいては他の女子より自立していたと言えた。なので、サイボーグ化しても料理は続けている。


そんな千秋は今、なんとボンネットバスの運転席に座っている。ハンドルに触れてないが、バスは一人でに道路を走っている。それどころか、千秋が正気ならば、このバスは今し方自我を持ち、千秋と会話したのだ!


千秋はバスが喋った事実より、そのスピーカーが発した「野菜王国」の単語に注目した。

それは料理を嗜む者特有の視点だった。だが人間の思考は全身が機械化しても許容量を超えれば停止してしまうものである。そしてやがては現実逃避した。

野菜王国、それはきっと知る人ぞ知る不思議な王国で、意思を持った野菜達が楽しげに暮らす魔法のような世界なのだと千秋は想像した。


空想に浸れるほど現実は甘くなかった。千秋の眼前に現れたのはタワシだった。


「ワタシは家畜なんだ。」


「えっタワシ?」


「馬鹿者ォ」


どこからか野菜王国の村民が現れ千秋を殴り罵った。


「こいつはなあ、元は馬だったが悪い魔法使いに姿を変えられてしまったんだよ。」


『悪い魔法使いは何でもありなんだよッ!』


バスまでもが千秋を罵った。千秋は田舎の怖さを理解した。こうして遥かなる野菜王国への旅が始まったと直感した。


「馬鹿者ォ」


野菜王国のうら若い村民が千秋の心を読みきったかのように殴った。


「このボンネットバスそのものが野菜王国なんだよ。」


既に目的地だったのだ。


「えっつまりこのボンネットバスが野菜王国の領地だということ。」


千秋の思考は次第に明瞭となりつつあったが野菜王国と言われたバスは明らかに普通のバス車内だった。


『その通りだッ生意気な!』


千秋は罵られた。


「我々も必死なんだよ。そして私が悪い魔法使いで実は村の村長なんだ。」


「うわあああ」


その時フロントガラスをぶち破り百面刑部が侵入した。


『密入国者だっ!殺せ!』


悪い魔法使いは機銃を構えた。


「国際問題と共にこの場で隠蔽されろォ」


だが百面刑部はプロの戦闘者だ。そんな熟練者に機銃を構えた人間如きが勝てる筈もなく、ラリアットで制圧された。


「イレギュラー鎮圧完了。」


百面刑部はキメた。だが、当初無人かと思われていたボンネットバスに、悪い魔法使いは如何にして乗ったのか。実は予めボンネットバスと並走し、走行中に飛び乗っていたのだ。千秋が気付かぬのも無理はなかった。


「私は村長。そして悪い魔法使いだ。」


村長はラリアットの直撃をくらい、バスの後部座席シートに仰向けになりつつ言った。この尊大な態度に千秋の怒りは頂点に達した。


「まず野菜王国って何よ。野菜達が楽しそうに暮らす国じゃないの。ていうか私は今何処にいるのかしら。ボンネットバスかしら。野菜王国かしら。」


「愚か者ォ」


村長は千秋を殴った。


「野菜に楽しいだとか感情なんてある訳ないだろ。乙女か貴様は。」


千秋はなんか凄い騙された時の気分になった。村民は百面刑部に向き直った。


「私はアロエだ。」


「えっアロエって植物だっけ。」


「愚か者ォ」


千秋はアロエに殴られた。


「私が野菜の訳ないだろ。」


『話の腰を折るなッ!女子高生が!』


千秋は罵られた。


「待て、これは国際問題だ。私が説明する。」


百面刑部が訳知り顔で口を挟んだ。


「つまりお前が今居るのはボンネットバスの中なんだよォ」


アロエが説明した。百面刑部はアロエを一睨みした。


『次は市役所前に停まります。』


唐突に空虚な車内アナウンスが流れた。


「ほらアナウンス流れたろ。ここはボンネットバスなんだよ。」


アロエが冷たく言った。


「つまり私達はバスに居ながら外国にいるわけ。」


これは哲学的な話だと千秋は思ったが要は悪い魔法使いが野菜王国の国土を魔法でボンネットバスに変身させているのだ。


『俺達はお前達内閣特殊諜報局とも重大な関りがあるんだぜ。』


バスが口を挟んだ。百面刑部はアロエを見た。


「まさかお前達は陰陽組か。」


「そうだぜ。」


百面刑部はこの件に関して知識を持っているようだった。


「どういうことなの。」


「野菜王国、それは革命により打ち立てられた、野菜が唯一生の充足を得られる農園。その建国には現在の陰陽組が深く関わっているらしい。」


「なにそれ怪しい。」


内閣特殊諜報局忍法執行室陰陽組

...歴史上、忍法に陰陽道を取り入れた機関。忍法執行室内でも特に謎めいており、その権限は内閣総理大臣職すら超えるとされる矛盾組織。勝手気ままに不老不死や死者蘇生、人体式神実験などを行い、電子組は機械技術でこれらの再現を試みている。


「要するによォ陰陽組といいつつ実態はかなり自由なので私のような魔法使いがいるんだよ。」


アロエがフォローした。


「異文化コミュニケーションって訳ね。」


『この国で野菜を残した者はバクテリア分解の刑に処せられるので野菜嫌いの悪い魔法使いは国を滅ぼそうとしているんだ。』


アロエによる事の次第はこうだった。野菜王国は結界内で平和に暮らしていた。そして農業と陰陽術に励み、最新式の野菜式神の狩りが大ブームを迎えた。しかし年一回のポテト祭りが中止になった事で野菜式神の価格が暴落しアロエが大量の野菜不良在庫を野菜商会に押し付けられたというのだ。

つまりアロエは先物取引に失敗したのだ。しかも決済期日は今日までで、在庫を処分出来なければ「野菜を残した者はバクテリア分解の刑に処せられる法律」に抵触する。これは判例があり法解釈上もアロエは大ピンチだった。


そこで野菜を紙幣に変身させ日本円との両替により利益を得る策に出た。

そういう訳でアロエは魔法の力で野菜王国の領地をボンネットバスに変身させ日本の領地を侵犯し、道行くものを捕まえては野菜を国の紙弊に変え日本円と強引に両替していたのだ。これは法律の抜け穴を掻い潜った策で現実的な話だった。


「魔法とは事象の単純化。私は変身魔法が得意だ。」


要するに万物は変わりゆくのでそれを掌握すれば、ある事物を別の事物に変えるのは容易いというわけだ。なんかファンシーな事が起こっていると言っても過言ではない。


「キモいし関わりたくない。滅びて。」


「うむっ地に足のついた考えだ!陰陽組に関わるとロクなことがないのでお暇する!」


刑部の賛同も得られたので、千秋は村長を入院させ帰ることにした。だが、そこに口を挟んできたのがなんとボンネットバスである。


『待て俺に考えがある。』


つまり折衷案を提示して双方の妥協点を見出そうとしたのだ。彼もまた地に足のついた男だったと千秋は痛感した。

いくら関わりたくないと言っても千秋と刑部は既にボンネットバスの腹の中。話を聞くだけでも損にはならないだろう。


「どういうことなの。」


『お前達を特別トレーニングで鍛えてやろう。』


ボンネットバスは筋トレマニアだった。


「手堅いな。」


百面刑部は感動した。


「ボンネットバスさん、そんな人間的な一面もあったんだ。」


千秋はボンネットバスに親しみを感じつつあった。


『俺は野菜王国といっても精神的な部分は土地に宿る地母神的なアレだからな。』


「なる程、式神という奴か。」


刑部は陰陽術と魔法の親和性について無理やり納得した。

因みに野菜王国になぜ魔法使いが住んでるかというと、陰陽師が魔法の神を式神として使役している為だ。なんかファンシーな事が起こっていると言っても過言ではない。


「でも残念だけど私サイボーグなんだよね。」


千秋はサイボーグなので筋トレしてもあまり意味がない。

しかし千秋がいくら拒否したところで事態は進展しないと感じた。相手も必死なのだ。恐らく錦城高校に現れたのも偶然ではなくお嬢様学校なので懐も暖かい事を踏んでの事だろう。


「因みに債務っていくらあるの。」


「10万ポテート(35万円)だ。」


「持ってないわねぇ…」


とはいえ千秋も遂に動き出したとかいうマライア和尚の動向を追う必要があった。しかも入滅部隊の追っ手はそこまで迫っている筈なのである。


「頼む、協力してくれよ。個人事だけど実は私はボンネットバスを故郷の須磨山に連れて行きたいの。」


アロエとバスは親密な関係になっていたのだ。今を生きる女子高生である千秋はこの突然降って沸いた恋愛話に興味津々になった。このような恋愛相談は中々地に足の着いた堅実な展開だと思った。


「えっ!?マジで!ウソウソいつからなの?」


千秋はいきなりアロエに詰め寄った。


「2年前から好きだった。」


アロエは答えた。

実はアロエはボンネットバスが大地に宿る精霊的存在の時から禁断の恋心を抱いていたというのだ。今回の凶行に走ったのは半分以上情動的な動機によるものだった。アロエは精霊をボンネットバスにしてでも一緒に居たかったのだ。


「うおおお」


あまりの感動的な話に千秋は涙した。

千秋はこの2人には何としても幸せになって欲しいと思った。恐らく読者の皆さんも同じ気持ちなのではないか。

だがこの時、千秋の高性能索敵探知機を搭載した耳はボンネットバスと並走する一台の車の存在を察知した。


「敵っ!?」


「そこの女子高生、止まれ。」


車はパトカーだった。


途端に千秋の全身から冷や汗が噴き出すような嫌な感覚が走った。今の千秋は側から見ればどうだろう。当てもなく道路を走るボンネットバスの運転席に座る明らかに未成年の女子高生。パトカーに止められてもおかしくない。


「あれ?」


千秋は刑部を見た。


「どうしよう。」


『こんなところでポリ公なんかに捕まってたまるかよ。俺の努力はどうなる。』


警察の出現に焦ったボンネットバスは急加速した。


「ねえ、私無免許運転なの?ねえ。加速しないで無免許運転だよ?え?何?」


千秋はあまりの事態に何も考えられなくなった。


「止まらないと撃つぞ。」


警官はパトカーから拳銃を構えていた。

あまりにも大ピンチ。だがこの時、千秋の耳が電話通信をキャッチしたのだ。


『…しもし。もしもし。聞こえますか?』


電話の主は知らない声だった。


「えっ誰!?誰でもいい。助けて!補導されちゃう!」


千秋は藁にも縋る思いだった。


『えっ補導?ま、まあ私の声が聞こえますね?私はあなたを知っている。』


千秋は珍しく第六感的な感じでこの通信がただ事でないと感じたが、緊急事態なのでとにかく助けを求めた。


「えっ知り合い?助けて。」


『あなたの番号は山田寺さんが売ってるので此方から掛けるのは簡単でした。』


『私はそう…入滅部隊のオーナーのような者です。ビショップとお呼び下さい。』


「ビショップさんね?私は今警察に無免許運転の疑いで追われてるの!冤罪よ!」


『…?』


千秋は敵と接触したが警察に追われていた!ビショップと名乗る敵の首領は電話口には事情を察せられない!


『ふむ。どうやら私の想像を超える事態が起こっているようですね。兎に角、あなたのことは私が助けますから今は落ち着いて下さい。』


「わかったわ。落ち着けばいいのね。」


千秋は深呼吸した。


『ではお春殿。私がこうしてあなたに接触するのは理由がある。だがあなたはピンチのようだ。』


千秋は電話の主のことなどどうでも良く、とにかくパニックから脱することだけに集中した。


『落ち着いて私に状況を伝えて下さい。今あなたは何処に居ますか?』


ビショップの声は優しかった。


「魔法のボンネットバスの運転席よ。」


『…!?えっちょっと待ってどういうこと。』


「私はお堂で拉致されたの!でも魔法のボンネットバスは相棒のアロエさんがいて!野菜王国なの!それで二人は幸せにならないといけないの!!」


『待って待って私が落ち着くから待って。キャラ保ちたいから待って…』


ビショップは慌てん坊さんだと千秋は感じた。


『なる程…!例の影響か!』


『お、お春殿…超常現象が支配する学校はイレギュラーの起こりやすい状況下にあります。あなたの巻き込まれているのも恐らくその一環でしょう。』


「た、確かにそうね。陰陽組とか名乗ってるわ。」


『…ほう、陰陽組。心当たりがあります。』


ビショップは調子を取り戻した。


『罠です。』


「罠?」


千秋は復唱した。


「おい誰と何を話してる。」


百面刑部が千秋の肩を掴んだ。


『これは罠です。嫌な予感がします。今すぐお逃げなさい。』


千秋も全く同じ気持ちだったが逃げようにも逃げられなかった。


「罠ってどういうこと。騙されてるというの。」


『見聞は実際の中身と違っていても中々気づき得ないものです。不思議な力を用いるだけではない。見た目や言葉でもあなたを騙す事は出来る、という事です。』


「つまりこれは夢なのね。良かった。」


『陰陽組は幻術使いですよ。凡ゆる策を弄してあなたを騙そうとする。』


千秋は周囲を見渡した。


「お春殿、誰と話してる。とにかく落ち着くが良い。」


百面刑部は冷や汗をかいていた。警官が発砲した。


『お春殿。あなたの目に何が映るか説明してくれませんか?』


ビショップだ。


「えっと…パトカーよ。警官が拳銃を撃ったわ。」


『何か気になる所はありませんか?』


「よく見ると全裸だわ。」


『えっ…!?全裸…!?』


「てやんでぇふてえ野郎だ。」


警官は酒気を帯びていた。


『ま、まあそれは置いておきましょう。』


「置いておくんだ。」


『車内は誰が居ますか?』


「アロエさんだわ。」


『それは恐らく式神です。』


「いいえ魔法使いよ。」


『ならば魔法使いとして作った式神です。式神とは超常現象を使役する技術。命のない作られた存在です。』


「もうちょいわかりやすく。」


『アロエなどという人間は存在しない。』


「あり得ないわ」


『だから幻術なんですよ。車内に居るのはアロエさんだけですか?』


「百面刑部よ。窓をぶち破って侵入したわ。」


『甲賀組のですか?』


「甲賀組の百面刑部よ。変態ジジイの。」


『あまり好印象はないようですね。嫌いですか?』


「お春殿、そいつと話さない方がいい。」


百面刑部が言った。


『…お春殿、何故あなたが甲賀組にいるのかがわからない。』


この突然の質問に千秋は疑問を感じた。


「なんか良くわかんないけど人類の為とかじゃないの?」


『あなた順応しすぎじゃないですか?生きてて楽しい事とかありますか?』


人生相談みたいだと千秋は辟易した。


「いや、最近は友達とかいるし。」


『…そうですか。』


ビショップは何かを諦めたようだった。


『お春殿、私はあなたを助けたい。それは今この状況だけではなく、今後も含めて、という意味です。』


「敵の戯言だ。」


百面刑部は言った。千秋は刑部を見た。


『お春殿、それは百面刑部ですか?』


「違うの」


『百面刑部の死亡はつい先程マライア和尚が確認しています。』


「お春殿、敵に耳を貸すな。幻術だ。」


『それは百面刑部ではない。陰陽組の式神です。』


千秋は刑部を見た。


「仮にそうだとして、理由がわからないわ。」


『あなた私達の側に寝返りませんか?』


ビショップは勝手に語り始めた。


『百面刑部は強力な忍者でした。彼の忍法は両掌に触れた物を回転させる異能。凡ゆる物を破壊できますが台所用洗剤などの液体には滅法弱いことは先の対レイチェル和尚共同戦で確認済み。キチンと情報を得て対策すれば敵ではありませんでした。

私達はプロです。忍法などという代物は持ちませんが実力は決して甲賀組に引けを取りません。』


「えっじゃあメル友とかからなら。」


千秋はとりあえず新手のナンパみたいな物としてビショップの言を受け取ることにした。


「…えっじゃあ後でメルアド教える。」


『とりあえずあなたの状況に関してはマライア和尚を向かわせましょう。』


「お願いします。」


千秋は甲賀組に悪印象しかないので寝返りに関してはわりと好意的に受け止めていたがもう少し甲賀組の数が減ってからの方が安全に寝返りやすいと踏んだのだ。何よりビショップを信用した訳ではない。

八右衛門に寄ればあいつらはカルト教団の尖兵。今度は宗教洗脳とかされるのだろう。


「大丈夫よ刑部。私は騙されないわ。」


とりあえず千秋は無難な回答をした。


『お春殿、くれぐれも連中に騙されないよう。人間でもない奴と分かり合える訳がないんです。』


それきり通信は途絶えた。


『ダメだっ警官が突っ込んでくるぞ!』


ボンネットバスが叫んだ!警官が運転席からバスに飛び移り、警棒で乗車口を破壊して侵入した!


「きゃああああ変態よ。」


「安心しろ、もう大丈夫だ。」


警官はブレーキを踏みぬいた。


「被害者を確保。」


警官は千秋を保護してくれた。警官は真面目だったのだ。バスを観察するうち、千秋がバスを運転している訳ではないことに気付いた。被害者だとわかり、保護したのだ。この勇気に千秋は胸がときめいた。


「動くな」


警官はアロエを撃った。


「ぐあああ」


機銃を構えていたアロエの両手は撃ち抜かれた。


「警官さん!」


千秋はとりあえず警官に詰め寄ってみた。


「お嬢ちゃん危なかったな。そいつは人間じゃあねえ。てやんでえ。」


警官は拳銃を構えたままだった。


「そいつはなあ、ベジ四駆欲しさに連続強盗殺人を働いた指名手配犯なんだよ。」


「えーっ!?」


「それは少し違いますねぇ。」


警官がバスを停車させたので、味方が応援に駆けつけたのだ。警官は基本的に二人一組で行動する。それは全裸警官の先輩だった。


「先輩!どういうことっすか。」


「彼女には自分が殺人を犯したという自覚は恐らくないんですねぇ。」


先輩はなんか勝手に語り始めた。


「一連の事件は道路の片隅に死体が次々と発見されるというものでした。被害者達に関連性はなく、死因は極度の疲弊による過労死。つまり、何らかの圧力をかけて死ぬまでトレーニングをさせたんですねぇ。」


千秋はバスのハンドルを見た。


「えーっ!?」


「これはなんの意図か?そこのお嬢さんの制服は有名な錦城高校!そこでは一部で致死トレーニングが流行してるそうです!そこで私はピンときたんですねぇ。殆どの生徒は途中で心が折れて止めてしまう。だが完遂出来た者が居るとすれば?それを他の人間も当たり前にできると思い込んだら!?すべての辻褄が合いますねぇ。」


こんな推理を平気でする先輩はヤバいと思ったが千秋は概ね合っているだろうとも思った。恐らく下手人はボンネットバスの方だろう。


「わ、私達は変わらない存在。だが人間は変われると聞いた。」


「残念ながら人間は無理に変わろうとすれば死んでしまう生き物なんですねぇ。」


先輩はなんか言った。


「何故あなたには人間のごく常識的な概念が欠落しているのか?非常に興味深いですが、殺人は殺人です。どんな理由があろうと、ですねぇ。」


『ベジ四駆は…燃料として消費した。』


ボンネットバスが喋り出した。


「これはどういうことなんですねぇ?」


『俺はバイオエタノールでうごくからな。ベジ四駆を燃料として消費するなど朝飯前よ。野菜を残したら駄目な法律があるから…ベジ四駆は消費したんだ。』


ボンネットバスは変形し始めた。


「いけません。バスから出ましょう。」


危険を察知した一同がバスから出ると、バスは青年の姿に変形した。


『これが俺の真の姿だ。』


魔法のボンネットバスはベジ四駆を構えた。


『俺とベジ四駆で勝負しろ!勝てばアロエは開放してもらう。』


「こうなっては仕方ない。お嬢さん、あなたがベジ四駆で勝負して下さい。」


先輩警官はノリに弱い一面があったのだ。


「えっじゃ私とベジ四駆が勝負するならいいよ。」


千秋は無理難題を押し付け返して場の雰囲気を元に戻そうと試みたのだ。


「良いだろう。俺のトマト47Dが受けて立つ。」


こうして千秋は自分で首を締める形となった。

ちなみに勝負には負けた。

1時間後千秋はお堂に戻ってレースをしたが負けたというとだ。コースが狭すぎたのだ。

千秋はベジ四駆にレースで負けた。それはサイボーグとしての性能の限界の証明だった。


「では我々は勝ち越しさせてもらう。」


ボンネットバスとアロエが光り出した。

この時、千秋は自分がサイボーグになってしまったことを初めて痛感したと思った。目の前に見えた限界が人間だった時を思い出させた。千秋は涙した。


「お春殿、泣いてどうする。」


刑部が励ましてくれた。いつの間にかアロエとバスはいなくなり、お札が二枚残っていた。

つづく


甲賀組

×百面刑部(死亡)

石ノ老猿

×舟渡伝次郎(死亡)

×桃地八右衛門(出家)

果報矢文之介

お茴

お仮名


グロリア和尚

ハーマイオニー和尚

メアリージェーンワトソン和尚

アマンダ和尚

マライア和尚

×レイチェル和尚(死亡)

×ローズマリー和尚(出家)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る