日常に潜む死闘の日々でござるの巻

第21話

みんなでカラオケを楽しんだ翌日のことである。千秋はアマンダ和尚の発信機について考えていた。

アマンダ和尚は意外と隙がなく、何か敵について手掛かりになりそうな情報は流れてこなかった。発信機には気付いてないが、やはり一度打ちのめされたので、こちらを警戒しているのだろう。


その日の放課後、千秋と橘さんは古代貨幣研究部の部室にいた。


「では本日も活動を始めるか。」


橘さんは甲冑に陣羽織だった。


「ねえ今更だけど古代貨幣研究部って何をする部活なのかな。」


「いや実は古代貨幣研究部という部活は実在しない架空の部活なのだ」


橘さんは真面目に言った。

その場に沈黙が訪れた。3分程経ったか。千秋は雄叫びをあげた。


「えぇー!?」


その声は教室を超え、廊下を渡り、中庭の園芸部にまで聞こえたらしい。


「いや本当である。我も山田寺さんに騙され入部したのだが、活動内容も解らず顧問もいない部活など認めらるべきものか常々気になっておった。」


橘さんは解説を続けた。


「そこで気になった我は竹内先生に聞いてみたのだが、そのような部活は存在しないと言われてしまったんだ。」


「そんな、じゃあ私達は山田寺さんに騙されて架空の部活に入部していたというの。」


その時教室の扉が開いてトレンディが入ってきた。


「連れてきたぞ。」


トレンディがそう言いたげに構えた槍の穂先に山田寺さんが引っかかっていた。


「なんだここ」


山田寺さんは言った。


「古代貨幣研究部へようこそ。」


橘さんは和かに言った。


「古代貨幣研究部…そうか、貴方達私が趣味ででっち上げた架空の部活に入学させられたクチですか。」


山田寺さんは物凄く傍迷惑な趣味の持ち主だったのだ。


「私達とても困ってるの。協力して下さる?」


橘さんはトレンディの槍にブラ下がっている山田寺さんに言った。

山田寺星見は眼鏡をかけた長髪の怪しげな長身の女で、常にニヤニヤして他人を見下した顔をしている。

そんな山田寺さんは隙あらば他人に付け入りトラブルを起こす問題児だった。授業も真面目に受けていない。そんな山田寺さんだが、周囲の人間からは妙なカリスマ的存在としてクラスリーダー格の一角として認知されていた。同じリーダー格である橘さんにとって山田寺さんは少し目障りだったようだ。


「協力?どういうことですか?」


山田寺さんの口調はなんとなく慇懃無礼を感じた。


「春の部活動申請期間はご存知かしら。ゴーデルウィークまでに成立してない部活は8月の文化祭に参加出来ないの。」


橘さんは小難しい話を始めた。


「まさか文化祭に出店するつもりですか。」


山田寺さんは信じられないという目で橘さんを見た。橘さんは柔和な表情で山田寺さんを見ていた。


「いえ出店はしないわ。ただ文化祭有志イベントに部活枠で演劇を行うだけよ。」


橘さんは言った。


「えっそんなことになってたんだ。」


千秋は言った。


「でも楽しそうじゃない?」


千秋は橘さんの和かな表情が怖いと思った。山田寺さんは震えていた。


「まさか入賞狙いとか言うんじゃねえだろうな。」


山田寺さんは崩れた口調で言った。


「目的は最優秀賞よ。」


橘さんはアルカイックスマイルで言った。


「何それ楽しそうじゃん。是非手伝わせて下さい。」


山田寺さんは武者震いしていたのだ。


「ええ、此方からも改めてお願いするわ。」


こうして橘さんと山田寺さんの間で同盟が結ばれた。


「では早速山田寺さんにはその顔の広さを活かして今週中に顧問の先生の手配をお願いします。」


橘さんは当たり前のように山田寺さんに命令した。

千秋は目の前の友人が得体の知れないクラスリーダー格の人間だと改めて思い知った。


「えええそれは無理よ。だって私は教師連中全員に嫌われてるもの。」


山田寺は急に情けない声を出した。すると橘さんも慌てふためき始めた。


「そそそんなねえどうしましょ」


橘さんは千秋を見た。


「えっ…普通に顧問やってくれる先生を地道に探すしかないんじゃない。」


千秋は冷静に言った。


「でもこんな内容も決まってない部活動がいきなり演劇をするとか言っても気軽にやってくれる先生なんて居るはずがないわ。」


橘さんは冷静に分析した。


「そこはわかってるんだ。」


「どこかに得体の知れなくて実態のない部活動の顧問に名乗り上げてくれる老紳士風の教職員はいないかしら。」


橘さんは注文が多かった。


「大変だお春殿畜生!とんでもないことになっちまった!」


ちょうど呼ばれかのように、四教頭の青龍が珈琲カップ片手に優雅に教室に乱入してきた。


「御機嫌よう諸君。」


青龍は素早い動作で珈琲を飲みつつターンしながら千秋の座る席の右隣に風流に着席した。


「御機嫌よう教頭先生。」


「うむ。お春殿大変だ畜生!我々の想定を超えた事態だ。」


青龍はなんかとりとめなかった。


「そうだ、教頭先生に顧問をしてもらおう。」


千秋はその場のノリで言った。


「よくわからんがこの青龍のお願いを聞いてくれたら許す。」


青龍は快諾した。さて青龍は何故こんなに慌ててるのか。あまつさえ敵である千秋に頼み事とはただ事ではあるまい。だが、千秋は一方で青龍が生粋の女子高生マニアだということも理解していた。どうせ今回もその手の事件とかだろう。

千秋はここ数ヶ月の任務にすっかり慣れていた。


「良いよ言ってよ。今度はどんな痴漢行為をやらかしたの。」


千秋は紅茶を口に含みながら尋ねた。青龍が手を翳すと橘さんと山田寺さんは虚ろな表情になり教室を出て行ってしまった。

千秋が優しい口調で話しかけたことで青龍は次第に落ち着いたようだ。やがてその重い口を開いた。


「実はローズマリー和尚が未来からやって来た殺戮盲導犬トレーナー型ロボだったんだ!」


「ブビィブボォ」


千秋はお茶噴いた。


「ローズマリー和尚って入滅部隊の?」


「奴は犬を殺戮盲導犬に飼育出来る凄いロボだったんだ!!」


青龍は正気とは思えないようなことを言った。


「未来の世界はロボットに支配された絶望の未来なんだ。ローズマリー和尚が現代にタイムスリップした目的は未来の世界で僅かに残った人類の拠点である高天神城を破壊し尽くすことだ!

俺たち四教頭は学校を維持し女子高生を堪能し尽くすことが目的だ!ロボットに支配された未来なんてゴメンだよぉ〜!」


青龍の言葉は真剣だった。


「話は聞かせてもらったよ。」


不意に教室のロッカーが開き中からナードが出てきた。


「貴方は電子組の人。」


電子組の人は千秋の両脚を応急処置的に修理してくれた確かな技術を持つ職人だ。


「我々電子組の独自調査によれば高速移動する物体が現在静岡県の高天神城へ急接近しています。」


「きっとローズマリー和尚に違いない。頼むお春殿、我々と協力して奴を止めてくれ。」


千秋は遠い未来のことについて思いを馳せた。我々の美しい地球がロボットに支配されてはならないと思った。


「わかったわ。私達は何をすればいいの。」


「ここに奴が残した極秘データファイルがある。」


青龍がゲームボーイのカセットを取り出した。


「これゲームボーイじゃねえか」


だが青龍は相変わらず真剣な表情だった。


「いや、このデータファイルはゲームボーイのカセットに見えるが実際は未来のデータファイルなんじゃ。」


青龍は弁解した。


「どうなの、電子組の人。」


「これ恐らくゲームボーイでも起動できるんじゃね。」


電子組のお墨付きが入った。

千秋はおろか電子組や青龍にすら計り知れない事象だが、時間旅行者は重要な部品などをその時代の何気ない物に置き換え偽装を図るのだ。


「じゃあゲームボーイ起動したら中のデータ見放題だろ。」


青龍が突っ込んだ。


「待って下さいよ!?ゲームボーイ本体なんて今時誰も持ってませんよ。」


電子組はこのソフトからデータを引き出すのは困難を極めると判断した。本体が無いからだ。


「畜生なんて完璧に計算され尽くした作戦なんだ。ゲームボーイが無いとデータを見られ無いなんて。お春殿ちょっとゲームボーイになって。」


青龍が無茶振りした。


「流石にそんな機能は搭載してません。」


電子組の人が冷静に言った。千秋はなんか心が傷付くのを感じた。


「いや…ちょっと待って下さいよ!スーファミでゲームボーイする奴なら私持ってますよ!」


「スーファミ!でかした!」


だが、それでも尚高い壁が歴然と立ちはだかった。


「畜生スーファミがねえ。」


その時教室の窓からお茴が飛び込んできた。


「お春殿!4組の二上神社口さんからゲームボーイを借りてきたわ!でも電池がないの!」


「ゲームボーイ!でかした!」


電池は千秋からバッテリーを引っ張ることで解決した。

その瞬間電子組にアイデアが思い浮かんだ。


「そうだ!お春殿の脳内チップにスーファミでゲームボーイする奴のエミュレータをインプットすれば良いんだ!」


すると電子組は手持ちのパソコンを千秋に繋いで遊び始めた。


「お春殿をゲームの中に送り込む。」


「通信対戦ということか。」


「だがお春殿にはカセット差込口がないぞ。」


「安心しろ。こんなこともあろうかとお春殿の右腋にセガサターンの差込口がある。そして俺はセガが大好きなので常に懐にセガサターンでネオジオやる奴とネオジオでスーファミやる奴を独自開発して持ち歩いているのさ。」


電子組の人は懐からセガサターンでネオジオやる奴とネオジオでスーファミやる奴を取り出した。


「ネオジオでスーファミやるのは真面目に凄い技術だな。」


青龍が評価した。こうして手掛かりのゲームボーイソフトはスーファミからネオジオ、セガサターンへと変換され千秋の腋に刺さった。


「よし!ボンバーマンを起動したぞ。」


青龍がゲームボーイ画面を見ながら言った。


「これでお春殿をローズマリー和尚のゲームの世界へ送り込む。」


「ねえ私に拒否権はないの?」


千秋は泣いた。


「ああっ!間違えた!これワシの家にあったただのボンバーマンのソフトだ!」


青龍が痛恨のミス!ゲームソフトはただのボンバーマンだった!


「馬鹿!通信ケーブルを早く抜くんだ!」


電子組は通信ケーブルを抜いた。


「ウワアアアア」


その瞬間千秋の精神は通信ケーブルの中に引きずり込まれた。


「よし!大失敗だなぁ。」


…意識が機械へと流れてゆく。千秋の精神は肉体を遠く離れた通信ケーブルの中に取り残された。


「こうなったら2号機を起動させるしかない。」


電子組はよくわからないことを言いだした。その時床が爆発した。


「ぐあああ」


床から現れたのは騎馬隊だった。

青龍と電子組は唖然として床をぶち破って現れた騎馬隊を見た。それは赤備えで構成されていた。


「あれはどう見ても武田騎馬隊に相違ない!武田騎馬隊がなぜここに。」


電子組は言った。


「我々は武田勝頼の大ファンであるところの武田騎馬隊の生まれ変わりで構成された馬部です。」


「コラァ!また貴様らか。」


青龍は馬部を怒った。馬部は山田寺さんが作った架空の部活であるが、部員達は運命的に全員が武田騎馬隊の生まれ変わりの女子高生でこうして校舎を破壊するなどの活動している。


「私のゲームボーイ返して下さい。」


部長の二上神社口さんが前に出た。

今更だが武田騎馬隊とは武田勝頼の大ファンで構成された武芸集団である。一人一人があの今川義元と同等の実力を持ち、戦国最強と呼ばれるほど強かったが、普通に銃には勝てず、最終的に主君すら裏切った武田勝頼直属の最強部隊である。


「私は二上神社口頼子。軍師山本勘助の生まれ変わりよ。」


「私はファミリー公園前信虎。原虎胤の生まれ変わりよ。」


「私は学園前。武田勝頼の生まれ変わりよ。」


「まじかよ。」


「そして私達は実はローズマリー和尚様の尖兵なのよ。死んでね。」


騎馬隊は殺人盲導犬を連れていた。


「畜生!」




静岡県で東海道新幹線のレール上を新幹線と未確認飛行物体が高速で追走劇していた。新幹線はN700系内閣特殊仕様である。この新幹線はなんとゴリラの脳波を受信して精密に動くという秘密の最新型戦闘用車両だった。

そして、驚くべきことに運転手は中年のおっさんである。

いや、このおっさん、見た目は一般人だが実は忍者である。頭にアンテナのついたヘルメットを被り、台座の上で座禅を組んでいた。


「守備はどうだ、毛触式部殿。」


毛触式部と呼ばれた運転手は伊賀組の忍者だった。


「ウホ」


毛触式部は答えた。


内閣特殊諜報局忍法執行室伊賀組

...甲賀忍者僅か4名で構成される忍法集団。特筆すべきはその活動範囲の広さであり、国内外を問わず凡ゆる地域に根を張っている。永い時を経て今は伊賀忍者は淘汰され甲賀組との仲はそれ程悪くないようだ。


毛触式部は伊賀忍法の使い手である。彼の運転する新幹線は通常のN700系に比べて8倍以上の速度で動くが、それには精密かつ野性的なゴリラの脳波による直接コントロールが必要不可欠だ。もうお分かりだろう。毛触式部は忍法『賢人会議』により自らの思考を完全にゴリラと同一化できる。

毛触式部の一族は野性の霊長類など人間に近い種と精神を同調させる忍法を研鑽してきた。その修行の果てに辿り着いたのが、野生動物と思考を一体化する魔境の忍法である。一見何の役にも立た無さそうなこの忍法だが、ゴリラの脳波で動く最新型新幹線が開発されてからは重用された。


「ウホホ」


毛触式部が言った。


「ねえ本当に大丈夫なんですか。」


先ほどから毛触式部に話しかけているのはお仮名だ。その後ろにいるのは松平総理だった。


「安心したまえ。百面刑部君が新幹線の上に乗っている。君は情報操作を頼むよ。」


「ウホホウホッ!?」


ゴリラが叫んだ!新幹線が追っていた正体不明の鉄塊が突如として動きを止めたのである!その鉄塊はよく見ると直方体に近い棺のような機械だった。


「アレはもしかしてコンビニのアイスクリームの冷蔵庫じゃないか。」


鉄塊はコンビニのアイスクリームの冷蔵庫だった。


「まて油断するな、中に誰か入っておる。なんと罰当たりな奴だ。けしからん。」


松平総理が周囲に注意を促した。コンビニのアイスクリームの冷蔵庫が新幹線に着地し中が開いた。出て来たのは一体の虚無僧、錦城高校馬部の一同、そして完全に意識を失っている宝蔵院お春と青龍と電子組だった。


「これはタイムマシンだったのさ。」


虚無僧は言った。


「私の名はローズマリー和尚と読んでもらおう。俺は未来からやって来た時間犯罪者だ。そして殺戮盲導犬トレーナー型ロボットでもある。」


「面白い全員死んでもらう。」


百面刑部は好戦的な笑みを浮かべた。


「待ってくれ。」


先頭車両から出て来たのは入滅部隊のアマンダ和尚とメアリージェーンワトソン和尚である。

彼等入滅部隊もまた今回の事態を重く見て一時停戦し、甲賀組と協力してローズマリー和尚を止めようとしていた。

この協定が結ばれたのは西大寺千秋がローズマリー和尚に拉致されてから19時間後である。


「俺たちにローズマリー和尚と話をさせてくれ。奴は俺たちの仲間なんだ。」


アマンダ和尚は言った。


「良いだろう。だが説得出来なければ殺すぞ。」


百面刑部は冷たく言い放った。アマンダ和尚は新幹線の機体上部に取り付いた。


「ローズマリー和尚、お前本当に俺たちを裏切ったのかよ。」


アマンダ和尚の悲痛な叫びは届かなかった。


「私は任務を果たすだけだ。お前の事も愚かなる人間以下としか思っていない。」


ローズマリー和尚は無機質に答えた。


「俺たちのチームワークを思い出そうぜ、なあ。」


「何を言おうと私は止まらぬ。」


ローズマリー和尚が構えた。


「待って。あなたの目的は一体何なの。」


お仮名が車内から問うた。ローズマリー和尚は空中浮遊しながら窓越しにお仮名を見た。


「ウホホホホ」


毛触式部が言った。


「大丈夫、私は忍者よ。ローズマリー和尚、貴方は何がしたいの。」


「ウホホ?」


「人には理解できぬ事。」


「ウホ?」


「どうやら戦闘は避けられないようだな。」


百面刑部が手袋を脱ぎながら言った。


「信じらんねえよ!あいつは仲間だ。」


アマンダ和尚が錫杖を構えた。


「迷いは捨てろ。奴は未来の道具を使う。」


メアリージェーンワトソン和尚が銃を構えた。


「争いしか知らぬ愚かなる人間どもめ。」


ローズマリー和尚は右手に流線型の細長い物体を構えていた。


「待て。なんだ…アレは。」


百面刑部が不気味そうに言った。


「油断するな。アレは未知の武器に違いない。」


実際それは台所用洗剤だったが三人は躊躇して手を出せなくなった。百面刑部の額に汗が流れた。


「来ないならこちらから行くぞ。」


そう言うとローズマリー和尚は台所用洗剤を三人に浴びせた。


「ああああっ!」


「ひいいいいいい」


「来るなッ!来るなぁぁぁぁー!!」


未知の液体を振りかけられた武人達は新幹線の上で無様にも失態を演じた。即席の同盟などこの程度だ。

百面刑部に至っては洗剤が眼に入ってもがき苦しんでいた。


「眼がやられた畜生!何も見えねえ!忍法が効かん!」


アマンダ和尚は床から滑り落ち、辛うじて窓にしがみついていた。


「ひいいいいいい!」


メアリージェーンワトソン和尚に至っては馬部に捕まり拷問を受けていた。


「人の力などこの程度。」


新幹線が掛川駅に突入するとローズマリー和尚一行は右に急旋回し南に下って行った。甲賀組と入滅部隊は台所用洗剤の前に完全敗北を喫したのである。


「次元が違う…勝てない。」


お仮名は絶望しその場に崩れ落ちた。


高天神城は静岡県に存在した山城だ。古より用兵の要とされたこの地では数多くの戦が行われ、高天神城もまた戦いの中で焼失した。現在は城垣や井戸などかつての遺構が面影を残すのみである。海へと繋がる菊川を通る為、戦国時代には実は武田水軍の拠点であったと言われる。


その時!新幹線より発射され、ローズマリー和尚を猛追する二台のロボットあり!


「お前はッ!百地八右衛門!」


ローズマリー和尚と馬部一同は駅の階段で歩みを止める形となった。迷惑だ。だが、こちらには宝蔵院お春からなる捕虜がいる。忍者達は迂闊に手出しは出来まいとタカをくくった。

二台のロボットはローズマリー和尚達に向かって名乗った。


「私は宝蔵院お春2号よ。」


「百地八右衛門デス。」


これは難敵であるとローズマリー和尚も自覚した。ローズマリー和尚は捕虜の宝蔵院お春を見た。縄で縛っている。そして敵を見た。


「成る程な、思春期という訳か。」


ローズマリー和尚の高度な思考回路を以ってしても目の前の異常事態を解明出来なかった。漸く馬部達もお春が二人いることに気付いた。


「何故お春殿が二人もいるのです。」


二上神社口さんが指摘した。


「何言っているの。私は一人よ。」


お春殿も自分が二人いることに気付いてなかった。


「ソウデスヨ。何モオカシクナイヨ。コレ以上ウダウダ言ウト、駿河湾ノ モズク ニスルヨ。」


八右衛門も気付いてなかった。


「そ、そうか。まあいい。俺は役目を果たすだけだ。」


ローズマリー和尚は気を取り直して銃を構えた。


「待チナサイ。無益ナ殺シ合イハ何モ生マナイヨ。」


八右衛門の提案は意外だった。なんと力による決着を拒み、貝殻拾い勝負を持ちかけたのである。これは現代科学では未来の武力に対抗出来ぬと踏んだが故の高度な駆け引きだった。貝拾い勝負は平安時代から続く伝統的な勝負であり、遥か時空を超えた超決戦の舞台に相応しいと言えた。

八右衛門の申し出をローズマリー和尚は快諾した。彼とて無用な争いは避けたかったのだ。


「良いだろう。実は俺の目的は未来の世界で絶滅した貝のサンプルを集めることだったんだ。」


「えっ、そうなんですか。」


こうして一同は徒歩で高天神城を攻略し、その足で菊川水流へと向かった。

高天神城は観光名所と化しており、一同はこれを楽しんだ。そして菊川をレンタサイクル(政務活動費)で下り、2時間かけて河口へとたどり着いた。


「では合図と共に川へ飛び込み、貝を探す。最も美しい貝を見つけたチームの勝利で宜しいな。」


「それで構わん。」


八右衛門には勝算があった。千秋は中学時代、貝拾いのネトゲーにハマってたのである。サイボーグと化した千秋にとって現実もネット世界とそう変わらないだろう。つまり貝を拾い放題というわけだ。

一方で、ローズマリー和尚は貝を拾うと同時に見事な歌を詠み、場を支配しようと目論んだ。

だが、菊川水流には貝以外にも様々な生物が息づいており、また菊川の貝は近年その姿を減少させつつある。自然環境にも配慮したキャッチアンドリリースが望ましいだろう。


「では行くぞッ」


「おおッ」


こうして川に飛び込むと一度が見たものとは!


なんと川には仏様がいらっしゃったのである。


「ああああこれは御仏様ではないか」


「有難や有難やああ」


一同はその場にひれ伏した。


「お前たちは前世で貝を拾い集めることを生業とし、ある日貝が金二封で売れたのでこれを寺に奉納し祈願した所、その因縁でこの場に集められたのです。」


「なんとそのようなことがあったのですか。」


こうしてその場にいた一同は仏様の奇縁に感動し、皆出家してしまったそうだ。そして見事に悟りの境地に至ったということである。

まことに仏様を厚く敬い、これに金財を奉納することは重要であるなあ。

つづく






・甲賀組

百面刑部

石ノ老猿

×舟渡伝次郎(死亡)

×桃地八右衛門(出家)

果報矢文之介

お茴

お仮名(軽傷)


・入滅部隊

グロリア和尚

ハーマイオニー和尚

メアリージェーンワトソン和尚

アマンダ和尚

マライア和尚

×レイチェル和尚(死亡)

×ローズマリー和尚(出家)

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