第3話

内閣特殊諜報局忍法執行室甲賀組

...甲賀忍者数十名で構成される忍法集団。内閣直属の特殊諜報局に属する忍法執行室に属する秘密機関である。その存在は『秘密機関は前憲法的存在』、と解される世界的不文律によって守られている。主な活動内容は標的の調査暗殺から忍法を駆使した不可能任務まで多岐におよぶ。

 また、余談ではあるが内閣特殊諜報局忍法執行室には甲賀組以外にもさまざまなお抱え忍組が大小3〜4おり、彼らは互いの業績を競って日夜研鑽し合っている。



 ここまで聞いて千秋はとりあえず納得の色を示した。


「はいはい。夢がありますね。内閣特殊諜報局って聞いたことあります。忍者なんですよね。」


「いや、聞いたことないでしょ。秘密機関なんだから聞いたことなんてあるわけないでしょ。

 なんでどうでも良いことで嘘つくの、ねぇ。」


 松平総理は小娘の相手をするのがマジで面倒くさそうだ。千秋は以外とお茶目さんな一面があったのだ。俗に言う小悪魔系に相当する。

 千秋のパーソナリティが判明した所で気を取り直して話を戻す。


「なんで私が忍者にならなきゃいけないんですか。納得できません。」


「出来なければ貴様をこの場で八つ裂きにして殺してしまうぞ!!」


「喜んで任務に当たらせていただきます。」


「うむ...分かれば良いのだ。最近の若者は聞いているよりも物分りがずっと良いな。」


 ここで百地八右衛門が口を挟んできた。


「総理、一般人のお春殿と私が行動を共にするとはどういうことでしょうか。如何に忍びの者と言えども、かような判断には難色を示します。」


 八右衛門も総理の判断に納得してなかったのだ。忍者としてのプライドに突き動かされたのであろう。

 総理は真面目な面持ちで語り出した。


「...八右衛門。貴様とお春殿は共に私立錦城高校に潜入するのだ。」


 八右衛門と千秋の二人は同時に驚きの声を挙げた。


「えぇー⁈」


 二人の驚愕には何の反応も示さず、松平総理は平然と話を続けた。


「錦城高校潜入。それ即ち八右衛門の本来の任務。

 ワシが八右衛門に下した任務は『錦城高校に出入りする謎の機密集団について調査せよ』というもの。

見ればお春殿は丁度高校生くらいの年頃ではないか。

これを利用しない手は無い。」


 八右衛門は総理の慧眼に感服した。確かにお春殿は女子高生くらいの年齢だ。

 一方、千秋は自分の寿命が伸びた事に安堵した。


「また、お春殿が敵方に寝返る事あらばその場で始末してよろしい。

 入学手続きについてはワシ直々に錦城高校の校長にお願いしよう。」


 二人はもう平伏すしかなかった。正直、総理の判断が物凄くリスキーなのはわかり切ったことだ。但し、あえてその手段に踏み切るには総理にも何か思う所があるのだろう。八右衛門はお春をうまく駒として利用する事を心の中で誓った。

 一方、千秋は隙あらばこやつらに手痛いしっぺ返しをお見舞いしてやろうと思ったのだった。


「じゃあよろしくだね。八右衛門さん。」


「よろしくでござるな。」


 二人の間に打算という名の固い握手が結ばれた。


 こうして西大寺千秋は望んでもいない錦城高校に進学することが決まったのだ。

 それから千秋は普通に春休みを過ごした。

 驚くべきことに親に事情を説明する事は許された。但し、親が他人に言いふらした場合は容赦しないとのことで、母は三日の間に八右衛門に七回程消されかけた。

 一方、友達に話すことは許されなかった。千秋はいつも通りに友人達と接触した。

 何か変わった事と言えば、常時百地八右衛門が尾行している事だ。姿は見せず、証拠を何一つ残らないのがかえってリアルだ。

 こうなってしまっては本格的に錦城高校に入学するしかなかった。あの県下トップレベルの学力を誇る錦城高校に。

 まずは学校が何処にあるのか調べなければいけない。


 春休みは直ぐに終わった。

 いよいよ今日から高校生活を掛けた潜入調査が始まる。

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