マイレージ/Mileage

 ドアを開けると天使が四人、裸で駆け回っている。「また三月になってしまったようだな」。父親が突然声を張り上げた。「だからっておめえ、こんなところに捨てることはないだろうに」。天使のひとりがこちらを振り向く。麦わら帽子を被っている。あまりの馬鹿らしさに私はバーテンダーと顔を見合わせてしまう。

 父親がそっと白い袋を取り出す。バーテンダーが差し出したグラスの砂がこぼれ、波が流していく。波の果てで小さな蟹が鳥の羽をつかんでいるのが分かる。大きな白い帽子にガウンを羽織り、涙を含んだ瞳が黒く大きい。なるほど、ここにあるのは悲しみの限りだ。私がじっとしていると、天使の背中を蟹がゆっくりと下っていく。三人の息づかいの中、再び三月がやってくる。私は父親を突き飛ばす。砂漠の向こうのピラミッドの上、赤い星が上って行くのが見える。天使はずっと駆け回っている。

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