郵便配達人 / mailman

男がマンハッタンのビルの上から飛び降りる。大きな避雷針の先っぽに立って、勢いよく。風が吹き付け、男の服を辺りに散らす。帽子が飛び、外套が飛び、手に持っていた大きな鞄もどこかへ飛んでいってしまう。男は泣きながら、服のポケットに入っている切手をかき集める。何枚も。何枚も。男はいくつかの赤い切手を握りしめ、花柄の切手を握りしめ、イルカの切手を握りしめる。どんどん地面が近づくと、真夏の日差しが陽炎を立て、男を空へ空へと押し上げる。大きな入道雲の谷間からは、ざあざあと滝が流れ落ち、摩天楼を深い湖の底に沈めてしまう。男は雲の上にまでたどり着くと、ゆっくりとその尾根を歩いて降りていく。再び、ビルの屋上へ戻ってくると、男はゆったりと湖を泳いでいく。水底には真っ赤な郵便ポストがひとつだけ。男が沖の船にたどり着くと、にわか雨が降ってきて、すべてを雨煙の中に隠してしまう。「いろんな道があるんだな」。男がつぶやくと、うなずくように高いビルから空へ向かって稲妻が走った。

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