音楽 / music
日曜日の午後、映画を見ていると、あいにくの雨が降ってきた。前髪が濡れて額に張り付く。スクリーンもすっかりびちょ濡れで、さっきまでさっそうと街を歩いていた俳優の男も傘がないかを必死に探している。男はなんとか軒下を見つけて雨宿りを始める。「やれやれ、これでは朝食どころではないな」。男の芝居の調子は崩れない。私はというと、雨粒に打たれるばかりだ。次第に雨が強くなり、投影機の光が雨粒に映る。足元の水たまりで小さな魚が跳ねる。濁った水の底には小さなレコード店がある。男はこちらを向き直ると、火を貸してくれないかと言う。ごそごそとポケットから煙草を出している。男のいるすぐ脇を馬車が通り過ぎる。泥水を跳ね上げるせいで、銀幕はすっかり泥だらけで何も見えない。私は男に傘を差し出す。光を受けた雨粒がいくつも落ちていく。「ああ、ありがとう」。私に片手を差し出す。握手すると、雨粒が私の手のひらに吸い込まれていく。すっと冷えた感触がすると、すっかり晴れ上がっている。投影機の光はさっきからずっと水たまりを照らしている。
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