ハレム / harem

私はアボリジニの楽器を手に入れる。1メートルほどの大きなものだ。ユーカリをくりぬいた笛を口にくわえる。強く吹いてみても音が出ない。笛の先から葉が芽吹く。名前も知らない昆虫が何匹も葉にとまり、かみ切るのが見える。私の指からワインが滴る。さらに強く吹く。たくさんの砂が湧きだし、あっという間に私の部屋は砂漠になってしまう。

砂丘の先、蜃気楼の向こうに父がいるのがわかる。父はラクダを連れ、隊商の列の最後をとぼとぼと歩いている。私はスルタンのテントの脇で夜伽の番を務める。白い月が天まで上がった頃、天幕からは香水とアーモンドの匂いが漂う。父が私に近寄り「どうだい。何かいらないかい」と問いかける。「いいや。主人が何も欲しがらない」私は答える。「奴隷もいらんのか」。棕櫚の木の枝が風に揺れる。天幕の端から何匹か虫が這い出てくる。ゆっくり水が湧く。砂にまみれた笛が沈んでいく。昼になって私は仕事を離れる。私は偃月刀をくわえ、音が鳴らないか思い切り吹く。アボリジニの低い音が響く。月にまで届く。

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