宿/ inn
強い雨が降る。大きなバスが私のすぐ脇を横切る。水たまりから魚が何匹か跳ね上がり、私の足元へと転がる。「ああもう」私はいらだって叫び、雨宿りをしようと近くの家のドアをたたく。老婆が顔を出し手招きする。絨毯が敷き詰められた部屋に通される。明かりはない。玄関を入ると若い娘がオペラの練習をしている。甲高い声に合わせるように部屋の隅にいた象が大きく口を開く。口の中から魚が何匹か飛び上がり、床を泳いでいく。暖炉まで泳いでいくと、薪が爆ぜ飛び散った火花が私の顔に飛ぶ。とっさに手で払うと指先が魚になっている。
娘が服を脱ぎ私の前に立つ。彼女は全身がびしょびしょに濡れている。はあはあというあえぎ声も聞こえる。私は身を乗り出し彼女にキスをする。「ほんとに?」小さな声で彼女が問いかける。「いいや、なんでもないさ」。彼女は私に背を向けて座っている。尻の上側から肩に向かって虹が架かっている。虹の下にはやはり魚がいる。魚の一匹を指でつまみ、慎重に口に運ぶ。彼女は自分の股に指をやると、そのままの姿勢で私の返事を待っている。
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