音 / sound

ドアのチャイムが鳴る。庭を掘るとダイヤモンドが出てくる。きらきらと光の粒をまとったダイヤモンドの中に雪が降っている。男はその様子をじっと見つめると、黒い傘を開く。周りは一面、じっとりと濡れる。男は運河のほとりに座り込む。天井にはぎざぎざの大きな穴が開く。汽笛に続いて、何匹か鹿が走り込んでくる。鹿は岬を越えたところで大きく回り込み、岸辺へと戻っていく。

男はロープをたぐりながら尋ねる。「名前は? どんな気分だい?」。髭をさすりながら船長は無言のままだ。波の間からは酒が吹き出し、月が昇っていく。「なるほど。この中にはいらにゃいかんと」と男は言うと、鹿の角をつかむ。一台の車が止まり、中から若い娘が現れる。腹をかかえげらげらと笑っている。船長が大きく舵を取るのが見える。船内は傾き、コーヒーカップがテーブルから滑り落ちる。じきに鹿が歌い出す。恍惚な声で。情熱の声で。

ポケットのコインがかちりと音を鳴らす。男はぶ厚い本を開く。人々はすっかり裸になっていて、二階のホールで踊り始めている。稲妻が走る。娘は肘掛け椅子から立ち上がると、陶器を持って姿を消す。

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