115:盾の警官VS刃の囚人

 弾性防壁の戦場リングの中で刃と盾が激突する。


 片やその能力によって全身を刃に変えた、全身凶器の囚人が。

 片やその身の表面を極小の竜鱗盾で覆いつくした、全身防盾の警官が。


 互いの全身を攻防一体の魔力で覆って、それらをぶつけて火花を散らす。


 囚人の素早い踏み込みと共に城司の腹部を手刀が見舞う。

 ただの手刀ではない。その全体に鋼鉄の魔力を纏わせて、刃物としても極限まで研ぎ澄まされた刃としての手刀。

 そんな一撃が城司の腹の鱗状の盾を次々に叩き割って、しかし肉まで届くことなくその一撃を受け止められた。


「簡単に斬られるか鈍らァッ!!」


 腹の竜鱗に手刀を突き刺されたまま、城司が構わず囚人の頭部めがけて拳を振るう。

 【迫撃スキル】のそれとは違う、竜鱗盾の強度と城司のパワーにものを言わせた右フック。

 だがそんな攻撃も全身を硬質化した囚人には効果が薄く、ただその衝撃によって囚人が手刀を引き抜き、距離をとるのを許しただけだった。


直後、囚人は今度は足刀でもって城司命を刈り取るべく、先ほど鱗を割ったばかりの腹部を薙ぎ払う。


「ふんっ!!」


 気合いの吐息。

 同時に、先ほど囚人が叩き割っていた薄くなっていた腹部の竜鱗が追加展開されて、厚みを増した鱗の壁が再び囚人の足刀を受け止める。


 【魔法スキル・盾】、そのスキルに収録された魔法のうち、最小にして最も脆弱な盾である【竜鱗防盾スケイルシールド】だが、その真骨頂は大きさでもなければ強度でもない。

 この盾の真骨頂は一息のうちに発動できる即応性と、秒間数十枚という数と速さで展開できる連続発動性能だ。

 確かに一枚一枚では脆弱な盾だが、しかしそれはあくまで一枚での強度であってそれが複数枚重なり合って展開されれば、その強度はそれこそ瞬時の展開で銃弾すら受けきるほどにまで跳ね上がる。


 だから、例えば眉間を狙って構えられた銃の銃口を見て、そこから放たれた弾丸を額の前に多重展開された【竜鱗防盾スケイルシールド】で受け止めることで、無傷で生き残るような真似も可能だ。


 そしてもう一つ、この【竜鱗防盾スケイルシールド】もまた【魔法スキル・盾】の魔法である以上、当然他の盾と同じく“盾に対して使う”魔法の対象となる。


「【防盾砲弾シールドブリット――散弾スプラッシュ】――!!」


 至近距離で差し向けた手の平、その表面をびっしりと覆う竜鱗盾に魔力をぶち込んだその瞬間、手のひらをびっしりと覆っていた大量の鱗の、その全てが弾丸と化して敵の全身へと突き刺さる。


『ギ、ォ――』


 その全身を刀剣化して硬質化した囚人が、しかしその衝撃までは無効化できず、背後へ向かって吹っ飛んだ。


 それを追い、すぐさま追撃をかけようとする城司だったが、しかし敵もそれを許すほど甘くはない。

 両腕で体を支えて態勢を整えると即座にその手元から岩槍が生えだし、追撃をかけようとした城司に正面から突きかかる。


「チッ!!」


 即座に足を止め、両腕をクロスして腕を覆う竜鱗の数を増やす。

 多重展開したうろこ状のシールドが岩槍によって次々に突き破られて、しかし城司の腕にまでは到達できず、背後へと飛び退く城司をより後ろへと押し返すにとどまった。


 全身のどこからでも魔力を噴出して発動でき、多重展開することで防御性能を高められる【竜鱗防盾スケイルシールド】だが、しかしその防御能力は他の盾と比べても決して高くはない。


 一枚一枚は所詮は一・二センチの小さく脆弱な盾でしかないし、いかに多重展開できると言っても、瞬間的に発動できるその数には限りがある。


『ギリィッ――!!』


 城司が攻撃の手を緩めたその瞬間を狙い、囚人が飛び上がり、打ち下ろすような回し蹴りで城司の頭を狙って蹴りかかって来る。

 【逆蹴スキル】のアクロバティックで体重をかけた蹴り技。

 刀剣化されているとはいえ、あくまで通常の運動エネルギーに任せた攻撃だが、刀剣化によって増した体重と、勢いによって生み出されたその攻撃を竜鱗で受け止めるのは流石にリスクが高い。


 重い一撃に腕の竜鱗をぶつけて、そのまま受け流す形でやり過ごす。

 しゃがみこむような姿勢で着地した囚人がすかさず地面すれすれで蹴りを放ち、その蹴りが竜鱗で覆われた城司の足を払ってバランスを奪い取る。


「――ッ!!」


 倒れ込む城司に、囚人がさらに流れるような動作で右手に握った武器を突き出す。

 そこにあるのは、手枷に付けられた鎖を軸にして作られた一振りの長剣。

 その全身を竜鱗で覆われた城司の体の中で、唯一竜鱗の守りが無い眼球を狙って、鋭利な一刺しが襲い来る。


「【防盾砲弾シールドブリット――散弾スプラッシュ】――!!」


 それに対して、城司は竜鱗盾に覆われた額をぶつけてその切っ先を受け止めると同時に、右手を突きつけて再び先ほどの魔法を炸裂させた。


 城司の掌、そこに展開されていた竜鱗盾が一斉に撃ち出され、攻撃に転じていた最凶悪囚人の全身に突き刺さってその身を真っ向からふき飛ばす。


「……チィッ、そのまま顔面のマスクぐらいはぶち割ってやるつもりだったんだがな……」


 城司の攻撃をまともにくらいながら、しかし顔だけは庇って距離をとった囚人の姿に、城司は思わず舌打ちを漏らす。

 敵はその核を頭部に持ったオーソドックスなタイプだが、その核は鋼鉄のマスクによっておおわれて、そのマスクすらも現在は刀剣化の魔力でさらに硬質化されている状態だ。


(やっぱり硬い。【迫撃】でもなければ一撃でぶち抜くのは無理か……)


 先ほど殴った囚人の顔面の感触に、城司は己の持つ最大の攻撃手段でなければ通用しないと改めて思い知る。

 だが問題は、どうやってその最大威力を相手に叩き込むかという点だ。


(【迫撃】は魔法ほどじゃないがタメがでかい。全身を連動させて撃ち込むからある程度の間合いもいる。こいつ相手にまともに叩き込むのは結構骨だな……)


 そこまで考えて、ふと城司はこの戦闘の前に竜昇から受けていた指示を思い出す。

 フジンの襲撃と共に静と交代し、最凶悪囚人を閉じ込めるために一人共に弾性防壁の中に籠った城司だが、しかし実のところ今回城司が竜昇から受けた指示は最凶悪囚人の打倒“ではない”。

 厳密には、倒せそうなら倒して欲しいとは言われたが、危険が大きいと感じたら無理に倒そうとせず、足止めに徹して竜昇たちの側が片付くのを待ってくれればそれでいいと言われている。


(けどよぉ、そう言うわけにもいかねぇだろ……)


 確かに危険な相手ではあるだろう。なにしろ相手は予想が正しければボス格の相手だ。その上今城司は一人で、なにかあった時にフォローしてくれるパーティーメンバーもいない。


 だが、危険というならばこの作戦、当の竜昇が一番その危険を冒しているのだ。


 今回の作戦において、最も危険な役を担っているのは間違いなく、フジンの攻撃の囮を買って出た竜昇だ。

 本来ならばフジンが攻撃しようとしたときにそれを牽制するような作戦も取れたはずなのに竜昇はそれをせず、それどころかあの少年は自身を囮として、わざわざ隙を作って挑発して、自身の安全と引き換えにフジンを誘い出すような危険を冒していた。

 否、城司がそうさせてしまった。


 城司だとて気付いている。あるいは自覚している。

 娘である華夜を救うため、この階層で遭遇したフジンを何としてでも捕まえたいという、そんな城司のわがままを叶えるために竜昇がそんな作戦をとったのだということを。


 もちろん、竜昇にもそれ相応の理由はあっただろう。

 竜昇自身、ビルからの脱出のために【決戦二十七士】という情報源を欲していたし、竜昇の囮作戦の囮役は決して竜昇自身以外にはできない役回りだ。


 だがそれでも、城司個人の理由のために互情竜昇という少年にわざわざ危険な役回りをさせてしまったのは確かなのだ。


 そしてだからこそ、入淵城司はここで自分の安全を優先して、フジンの捕縛という危険な難事に立ち向かっているだろう少年少女に全てを押し付けるような真似をするわけにはいかない。

 自分はきっちりとこの相手を倒した上で、フジンと戦っているだろう三人に加勢に行く。

 それこそがこの場で、私情であの三人にまで危険な戦いを強いてしまった城司の最低限通すべき筋だった。


(っつうかそもそもの話――!!)


 再び距離を詰めてきた敵の動きに、城司はとっさに右足をあげて囚人の下段蹴りを受け止める。

 結果としては脛当て代わりの竜鱗で敵の足刀を受け止める形になっているが、もしも城司がとっさに足をあげていなければその刀剣化したつま先によって城司の膝裏を裂かれていた。

 明らかに竜鱗の隙間、動き回るために十分な盾を展開できない関節部分を狙った攻撃。


(――こいつを相手に守りに入ったらあっという間に殺られる――!!)


 敵が足を戻すと同時に城司が持ち上げた右足を踏み下ろす。

 【迫撃】の要領で地面を踏み鳴らし、その衝撃によって相手のバランスを奪う技【迫撃震】。

 床すら砕くその一撃が離脱を図った囚人の動きをわずかに鈍らせ、その隙に城司は敵の懐へと潜り込む。


「【衝盾シールドブロウ】――!!」


 拳の先に大量の竜鱗を展開して敵のどてっぱら目がけて叩き込み、接触の瞬間城司はその竜鱗盾にさらに魔力を込める。

 【衝盾シールドブロウ】の衝撃と共に撃ち込むのは大量の竜鱗盾を散弾として撃ち込む盾にあるまじき破壊の一撃。


「【防盾砲弾シールドブリット――散弾スプラッシュ】――!!」


 拳の先で魔力が炸裂したその瞬間、囚人の胴体に大量の竜鱗が突き刺さり、【衝盾シールドブロウ】の効果も相まってその体が軽々と背後へとふっ飛ばされる。


 その向かう先にあるのは城司が敵を閉じ込めるために展開した弾性防壁。

 壁へとめり込み、直後に跳ね返されてくる囚人の顔面に狙いを定めて、今度こそ敵を討ち取るべく城司は拳を振りかぶる。


「【迫撃】――、ッ!?」


 撃ち込んだ拳は、しかし囚人が【空中跳躍】の応用なのか、片足の裏を爆発させて態勢を大きく逸らしたことでその顔面をかすめるにとどまった。

 とは言えそれでも、撃ち込んだのは城司が有する最大威力の拳撃。かすめた顔面は表面を守っていた刀剣化の魔力にひびが入り、その向こうにある鋼鉄のマスクにまでわずかな凹みを作っている。


 まともにぶち込めれば仕留められると、そう城司が確信したのもつかの間、足裏の爆発によって体勢を崩したはずの囚人が地面に片手をついて、そのままその足を蹴り足にして上段蹴りを放ってきた。


「――ッ!!」


 まともに喰らえば、竜鱗の守りすら抜かれかねない強烈な斬蹴撃に、とっさに城司は竜鱗の厚みを追加した左腕でそれを受け止める。

 だが忘れてはいけない。敵が地面に手をついているということは、すなわちもう一つ、別の攻撃スキルの条件が満たされているのだということを。


「――がッ!!」


 とっさに腹部に竜鱗の盾を増設展開した次の瞬間、予想通り地面から突き出された岩槍が展開された盾の群れへと突き刺さる。

 敵の蹴り足を受け流し、槍に押し返される形で交代する城司だったが、その隙を見逃してくれるほどこの囚人は善良ではない。

 直後、一際長い岩槍が城司の真上に突き出して、それに五指を喰い込ませて掴まっていた囚人が、足裏の炸裂も利用して城司の真上へと飛び出した。


「ぐ、ぅ――!!」


 【殺刃スキル】による刀剣化の魔力に包まれたかかと落としを城司の両腕が受け止める。

 腕の表面から放出された竜鱗の盾が次々と叩き割られて、防御するその腕ごと城司を叩き割ろうと力任せに迫って来る。


「――の、ヤロ――!!」


 受け止めた敵の右足を前に投げ出すようにしてどうにか受け流す。

 竜鱗の守りを破って食い込んできた敵の刃が左腕を浅く斬り裂く感覚が伝わってくるが関係ない。

 敵は既にその左手の鎖を、次の斬撃として放つために刀剣化して振りかぶっている。

 対する城司は、竜鱗の守っているだけでは凌ぎきれないと判断。この敵に最も効果を発揮する、最も“軟らかい”盾を迎撃の手段として選択した。


「【粘土防盾クレイシールド】――!!」


 構えた城司の腕に【円盾】より少し大きく、そして分厚い円形盾が形成される。刀剣と化した鎖がその盾に直撃し、その刀身がずぶずぶとその盾の中へと沈み込む。

 その様子に、危険を感じた囚人が鎖を引こうとするがもう遅い。


粘土防盾クレイシールド】。【魔法スキル・盾】に収録されたこの魔法は、特に相手の武器を封じることに特化した盾魔法だ。

その名のとおり粘土でできたその盾は、盾の内部へと沈みこんだ刀剣を包み込み、徐々に固まってその硬度を上げていく。


 通常ならば武器を封じられ、武器を捨てるべき局面だがこの敵に関してはそれうはいかない。

 なにしろ相手が使っているのは、これまでまったく拘束の役に立っていなかったとはいえ手枷の鎖だ。手を離せば即座に手放せる通常の剣とはわけが違う。


「【防盾砲弾シールドブリット】――!!」


 案の定、粘土の盾を砲弾として明後日の方向へと撃ち出すと、その粘土の塊に鎖を飲み込まれた囚人もそれに引っ張られるように転倒する。


 絶好の機会と、そう思い止めを刺しに向かおうとした城司だったが、その直前に地面から大量の岩槍が生えだしてその行く手を阻まれた。

 否、よく見れば、突き出した槍衾は術者である囚人を取り囲むと同時に、鎖を捕らえた粘土塊を下から貫いている。

 どうやら城司の侵攻を阻むと同時に、粘土塊を突き崩して鎖を開放しようとしたらしい。

 だが肝心の粘土塊はその軟らかさゆえに岩槍をそのまま突き通し、あるいは粘土塊そのものをわずかに持ち上げただけで鎖を捕らえたままだった。


 依然動きを封じられたままの囚人に対して、城司が槍衾を超えるべく魔力を準備していると、しかし当の囚人は予想外の動きに打って出た。

 粘土塊と左腕を繋ぐ鎖に左足の膝裏をひっかけて、刀剣化したふくらはぎと太腿の後ろで鎖を挟み付け、力を込めて一気に鎖を断ち切ったのだ。


(あの野郎、自分の足をチェーンカッターの代わりにしやがった――!!)


 思っていたよりも知恵が回る。

 その事実に驚く暇もなく、眼の前に突き出されていた岩槍の根元に魔力がほとばしる。


「――チッ!!」


 魔法発動の前兆に、とっさに城司は目の前に【鉄壁大盾ランパートシールド】を展開し、防御態勢を整える。

 本来なら槍衾の向こうにいる囚人目がけて砲弾としてぶち込んでやろうと考えていた大盾だったが、今回はその準備が思っていたのとは別の形で幸いした。

 この囚人が殺害した敵のうち、【魔法スキル・大地】を囚人以前に保有していた裁判官。その裁判官が一度だけ見せていた、岩槍の生えた地面を爆発させて槍を射出する魔法が発動して、至近距離で撃ち出された岩槍が次々に【鉄壁大盾ランパートシールド】に激突する。

 ここでスマートフォンを確認すれば、その魔法の名前が確認できたのかもしれないが、生憎と城司にそのつもりはなかったしそんな猶予もありはしなかった。

 直後、上から目の前の、盾と城司の間に何かが降ってきて、さらにその直後に首へと強力な圧迫がかかって城司の体が上へと浮き上がった。


「――ぁ、ガッ――!?」


 自分が盾の上部に引っかかったひも状の何かによって首を吊られているのだと気づいたのはその直後。

 生憎と首に展開していた竜鱗盾のおかげで一瞬で死に至ることはなかったが、それでも盾越しに首を圧迫されて、自分がいまとんでもなく危険な状態にいるのは嫌でもわかった。


(【防盾シールド砲弾ブリット】――!!)


 とっさに首元の竜鱗盾を撃ち出して絞殺のための縄を寸断する。

 もしここで城司に余裕があれば、その縄があの囚人の腰のあたりに打たれていた腰縄であったことがわかったかもしれないし、スマートフォンを確認すれば今の攻撃が先ほど保安官の様な風体の敵から奪ったであろう【縛縄スキル】なるものの技であることも知ることができたが、生憎とそんなことをしている余裕は城司にはなかった。


 宙吊りだった城司の足が床を捉えるその寸前、盾の背後から回り込んできた囚人が城司の腹部目がけて斬撃の蹴りを叩き込む。


「がッ――!!」


 腹部の竜鱗が砕ける音と共に城司の体が背後へと撃ち出され、ようやく足が床に付いた次の瞬間には背後から再び蹴撃が襲い来る。


「ぐ、ぅ――!!」


 再び耳に届く竜鱗の鎧の破砕音。窒息しかけた直後の城司には反応しきれないその速度。

 城司にはない機動力にものを言わせた連続攻撃に晒されて、城司はとっさに己を守る盾の守りを斬り捨てる判断を下した。


「【周回盾陣ファランクス――竜鱗吹雪スケイルブリザード】――!!」


 その瞬間、全身を覆っていた竜鱗盾が一斉に体を離れ、城司の意思に従って城司の体の周囲で嵐のように回りだす。

 自身を守る盾の魔法、その相対位置を一定範囲内で操る魔法【周回盾陣ファランクス】。

 発動させたその魔法の対象に自身を守る竜鱗盾すべてを指定して、自分を中心に高速回転するように設定した次の瞬間、こちらに蹴りを叩き込もうとしていた囚人が吹き荒れる竜鱗の嵐に巻き込まれて、その身が力任せになぎ倒された。


「【竜鱗防盾スケイルシールドォッ――!!】」


 この機を逃すまいと左手を差し向け、その先に竜鱗盾を展開、周囲で吹き荒れていた盾の残りもすべて手の先へとかき集める。


「【防盾砲弾シールドブリット――散弾スプラッシュ】――!!」


 素早く起き上がろうとする囚人の全身に竜鱗の散弾を叩き込む。

 全身を衝撃に襲われて囚人が床上をのたうち回る。


 だがその程度では足りない。距離を詰め、必殺の【迫撃】を撃ち込もうと思うなら、城司が接近するその寸前まで動きを封じておく必要がある。

 そのためには――。


「【散弾スプラッシュ】――!! 【散弾スプラッシュ】――!! 【散弾スプラッシュ】――!!」


 左手の先に集めた竜鱗を次々に打ち込みながら、城司は右腕を構えて全身の力をその一撃のために振り絞る。

 魔法を使う余裕も与えない。囚人に立て続けの散弾を叩き込み、魔法を発動させるだけの余裕を奪い取る。


 最後の竜鱗を撃ち込んで肉薄する。

 竜鱗の散弾を全身に浴びて、ところどころ刀剣化の魔力にひびが入った囚人のその顔を狙い、頭部を覆うマスクの向こうの赤い光を目がけて、全霊の拳を撃ち下ろす。


「【迫撃】――!!」


 瞬間、最低限の竜鱗に覆われた城司の拳が囚人の顔面に直撃し、刀剣化の魔力と鋼鉄のマスクを砕いて手首から先がマスクの内部へと侵入する。


「【防盾砲弾シールドブリット――散弾スプラッシュ】――!!」


 拳を守っていた竜鱗の、そのわずかな残りが炸裂して、マスクの中で敵の命とも言える赤い核を打ち砕く。

 拘束衣の中から黒い煙があふれ出し、囚人の体を構成していた全ての魔力が空気へ溶けて、そして――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る