109:忍び寄る者

 空気を切り裂き監獄の中を落下する。

 耳元で着込んだ【染滴マント】がはためく音を聞きながら、静は自身が落ちるその先から一切視線を逸らさない。

 どうやら大分下層まで降りて来ていたらしく、暗い闇の底に床らしいものが見えて来た。

 どうやら一番下の層は明かりの様なものが設置されていないらしく、それが最下層が奈落の底の様な闇に包まれている原因らしい。

 とは言え、呑気に監獄の底を観察している暇は静にはない。別に静が目指している場所は最下層でもなければ地獄の底でもないのだ。このまま転落死しないためにも、今静はこのまま落ちるがままになっているわけにはいかない。


(あそこですか)


 視界のすみに目指す階層の通路を捕らえて、静は頭を下にした落下態勢から空中ですぐさま姿勢を制御する。

 落ちながら取るのは、通路に飛び込むための跳躍の形。足を折りたたみ、両手に武器を構えたまま通路に向かって顔を向けて、自身の身が通路の高さにまで落ちるその瞬間を待ち構えて――。


 ――次の瞬間、こちらを振り向き、拳銃を構える最凶悪の囚人の、その鋼鉄のマスクの向こうにある赤い核と目が合った。


「――ッ!!」


 襲撃を察知されたのだと、そう察するまでには一瞬とかからなかった。

 直後、二つの炸裂音が監獄の中で全く同時に鳴り響く。


 音のうちの片方は囚人の構えた拳銃の発砲音。そしてもう一つは、静が魔力によって足裏に蹴りつけるべき足場を作り、それを【爆道】と同じ要領で魔力の炸裂と共に蹴りつけて、習得したばかりの【空中跳躍エアリアルジャンプ】を発動させた音だった。


 それらの音とほぼ同時に、拳銃の銃口から鉛の弾が空中の静目がけて撃ち出され、その射線上から向かう方向を変えた静が勢いよく飛び退いた。


 とっさに跳躍する方向を変更し、しかしそれを成した静は苦い思いを噛み締める。


 奇襲を読まれたのはまだいい。できることならば先ほど同様、通路に飛び込むと同時に囚人目がけて飛び掛かり、一太刀浴びせて先手を取ってしまいたかったが、それが確実にできるとは流石の静も思っていなかった。

 ここで問題なのは奇襲に失敗したことではない。そもそもそれ以前に問題なのは、静自身が“真横に”跳ばざるを得なかったため、囚人のいる通路に飛び込めなかったことだ。


 そしてそれこそがこの敵の狙いだったのだろう。

 空中で銃弾を躱し、飛び退いた静に対して、囚人が追撃の弾丸を放つべくその手にある拳銃を向けてくる。


「――、シールド」


 籠手に魔力を込めてシールドを展開したその瞬間、放たれた弾丸が防壁の表面にヒットして、シールド表面に蜘蛛の巣のようなひびを入れる。

 威力の高いライフル銃ではなく、あくまで口径の小さい拳銃による銃撃だったがゆえに、その威力は決して高くない。

 もちろん、何発も同じ場所に連続で撃ち込まれれば話は違ってくるが、しかし銃弾の数発程度ならば防ぐこと自体は難しくないはずだ。


 防御はできる。だが場所が悪い。今静がいるのは通路の外の空中。敵がいる通路に飛び込めなければそのまま吹き抜けを落下して最下層の床にたたきつけられるそんな位置だ。

 そして先ほど何度も【空中跳躍エアリアルジャンプ】を使って見せた囚人と違い、静の【空中跳躍エアリアルジャンプ】は概算でも残り二回が限界だ。理論上は囚人と同じようにもっと回数を使うことも可能なのだろうが、スキルシステムによって知識を得ているだけの静では連続使用には体と魔力がついて来ない。


 つまりはこの状況、残り二回の【空中跳躍エアリアルジャンプ】で通路に飛び込めなければそれでアウトということだ。


「く――、【空中跳躍エアリアルジャンプ】ッ!!」


 ふたたび体が落下する気配を感じて技を使い、二度目の跳躍でとにかく距離を稼ぐ。

 とにかく今はこの囚人の銃弾から逃れるのが先決だ。

 恐らく囚人の方も静を通路に飛び込ませずに落とすつもりなのだろう。銃口で静の姿を追う囚人に対して、静は跳躍と同時にすぐさまシールドを解除する。

 かわりに手に取るのは、腰のウェストポーチに入れておいた静自身の初期装備だ。


「【回円サイクル】――!!」


 取り出したナイフに回転をかけ、魔力を込めて即座に敵へと目がけて投げ放つ。

 狙いは囚人本体ではなくその手の拳銃。それもこちらへ向かって真っすぐに向けられたその銃口そのものだ。


 直後、三発目の弾丸が空中で魔力を帯びたナイフと激突し、火花を散らしながらその軌道がそれて付近の欄干へと着弾する。


(今――!!)


 三度目の跳躍。同時に纏っていた【染滴マント】を囚人のいる方向へと投げ出して視界を遮る壁とする。

 案の定撃ち込まれる弾丸の連続。マントを突き破る銃弾が静の身のギリギリ間近を貫いていくのを感じながら、静はひるむことなく足を延ばして真下の地面を捕まえる。


「【爆道】――!!」


 着地と同時に疾走。次々と放たれる弾丸の着弾音を背後の床に聞きながら、どうにか静はマントの影から飛び出して広い通路を疾走する。


 一度地に足を付けて走りはじめれば、流石の囚人の銃弾も静のみを捕らえることは叶わなかった。

 それでも静の後を追うように弾丸の連射が静の背後を追いかけて、やがて火薬の炸裂とは違う音が囚人の手元から聞こえてくる。


(弾切れ――!!)


 そうと認識した瞬間、迷わず静は敵へと向かって距離を詰めに行った。

 敵が武器を持ち変えるその瞬間、そのわずかな隙を突こうと前に出て、しかし直とに静は自身の目の前に回転しながら迫る黒い塊を視認する。


「――ッ!!」


 とっさに十手を振るい、回転しながら迫っていた、“刀剣化した拳銃”を下から上へと打ち上げる。

 十手に叩かれた拳銃が刀剣化の魔力を纏ったままブーメランのように回転して真上へ向かい、そのまま天井に突き刺さる。

 だがそんな有り得ない光景にも、静自身は一切意識を払わない。

 なにしろ目の前には、静が攻撃を防いだその一瞬のうちに、態勢を整えて斬りかかってきた敵がいる。


「フ――」


 呼気と共に身を逸らし、囚人の手首の枷から伸びる鎖を回避する。

 あらゆるものを刃物として扱えるこの敵の手の内の中でも、この鎖は特に厄介だ。

 全体を一つの刀身として扱えば一本の直剣になるだけでなく、鎖の輪の一つ一つを刀剣化すれば、鎖としての性質を保持したまま刃物に変わる。

 そして一本の剣として振るわれているうちは受け止めることもできなくはないが、鎖となればそのままこちらに絡みついてくるのだ。武器に絡みつけば武器の動きを封じられてしまうし、首にでも絡み付こうものならそのまま頸動脈を掻き斬られてしまうこともありうる。


 だからこそ静は最初の鎖による攻撃こそ回避したわけだが、しかし今回はこの鎖の剣に対しての備えはその手の中に残してあった。


「――そこ」


 自身の目の前を通り過ぎた鎖に向けて、その後を追うように静が左の十手を振るって接触させる。

 攻撃というには意味合いが薄い、一見意味の無いそんな行為。

 だがその効果たるやてきめんで、次の瞬間には『バチッ』という音と共に、囚人がその身を小さく痙攣させた。


(【静雷撃サイレントボルト】……。前回斬り結んだ時には残しておけませんでしたが、今回は準備も万全です)


 先ほどの戦闘の際には追跡中に襲ってきた敵との戦闘で使い切ってしまっていた仕込み電撃。

 それを今回は追跡の途中で竜昇に仕込んでもらい、きっちりと準備したうえで戦いを挑んでいたのだ。

 そのかいあって、鎖を通して感電した囚人の態勢が僅かによろめく。

 隙の少ない難敵がようやく晒した絶好の隙。

 その隙を突くべく一気に敵の懐へと踏み込もうとして、直後に静は足を止め、首を薙ぎに来た一蹴をぎりぎりで回避した。


 よろめくと見せかけて、あるいは本当によろめいて片手を背後に付いたまま、片足を使って放たれた上段蹴りから静はからくも逃れ退く。

 とは言え、それだけでは敵の攻撃は終わらない。

 静の首を薙ごうとした蹴り足が地面を捕らえ、代わりに反対側の足が囚人のアクロバティックな動きと共に再び静に襲い掛かる。


(電撃があまり、効いていない――!!)


 飛び退き退避する静を追って、蹴りの連撃が囚人の飛び回るような動きと共に襲い掛かる。

 恐らくは【逆蹴スキル】のものなのだろう、体ごと飛び回る大きな動きと共に放たれる蹴りには、感電の影響がほとんど見られない。

 厳密には、まったく影響していないというわけではないようだったが、少なくとも付け入る隙となりうるほどの大きな障害には現状なっていないようだった。


(全身が金属化していたせいで電撃が分散してしまったのでしょうか)


 微かな仮説が頭をよぎるが答えは出ない。

 ならばと、追撃の電撃を相手の体に打ち込むべく、続けて静は振りぬかれる敵の足、そこに残る足枷の鎖へと右手の小太刀を合わせて触れさせた。


 再び敵の五体を駆け巡る電撃の炸裂。

 空を飛び回る不安定な状態の中、その全身を感電によって痙攣させた囚人が、今度こそ耐え兼ねて地面目がけて倒れ込む。


 倒れ込んで、その瞬間地面から一斉に、大量の槍衾が生えて来た。


「――っ」


 直前に地面に撃ち込まれる魔力を察知し、その場を飛び退いていたことで静がどうにか難を逃れて安全圏まで退避する。


 とは言え、それによって逃した好機はあまりにも大きい。

 静が槍衾に対抗できず、敵に自分の周囲を槍衾で囲って身を守る猶予を与えてしまった時点で、静が事前に持っていたアドバンテージは全て消化させられてしまった形だった。


 とは言え、まったく何の収穫もなかったかと言えばそう言う訳でもない。


「なるほど、あなたの【魔法スキル・大地】……。どうやら最低でも片手を地面に付けていないと発動させられない魔法のようですね」


 槍衾の向こう、地面に片手をついて感電した体を支える囚人の姿を見据えながら静はそう独り言ちる。

 思い返してみれば、この囚人が【魔法スキル・大地】の魔法を発動させたとき、この敵は必ずやその手を地面に接触させていた。

 【逆蹴スキル】によって逆立ちした状態で蹴りを放った直後。竜昇や城司の攻撃によってこの敵が“地に伏せていた”その瞬間。そして今と、どの時も必ずこの敵は地面に手で触れた状態で魔法を発動させている。

 考えてみればあの裁判官も手に持った木槌で床を叩いて魔法を発動させていたし、恐らく足で地面に立っているだけの単純な接触ではだめなのだろう。


 その縛りが技量的なものなのか、あるいは発動に必要な絶対の制約なのかは定かではないが、この囚人の場合手で触れなければ魔法を発動できないというのは恐らく間違いではない。


(そしてもう一つ、この囚人は先ほどの裁判官と違い、自分の手元からしか槍衾を出現させられない)


 先ほどの裁判官が広範囲の地面から槍を突き出していたのに対して、自分の周囲からしか槍を使ってこない囚人の姿に、静はそちらは裁判官と囚人の装備の違いなのだろうと推測を立てる。


 もとより、あの裁判官の周囲の床を埋め尽くすほどの槍の数は、魔本の中に溜め込んだ魔力によるものではないかと竜昇や城司たちが推測を立てていたのだ。

 ならばもう一つ、しきりに地面を叩いていた、城司が【杖術スキル】の杖ではないかと推測していたあの木槌の効果が、魔法の射程を伸ばすためのものだったと考えれば今の現状にも納得はいく


(とは言え、やはり厄介な話ですね。なにより、そんな魔法スキルと手を地面に付けて蹴りを放つ【逆蹴スキル】が結びついているというのがことさら痛い……。【殺刃スキル】ともそうですけど、この囚人の戦闘スタイルを補助するのに、【逆蹴スキル】の存在は相当に大きい……)


 加えて言うなら、【殺刃スキル】によって刃と化し、硬質化している敵の体には、静の戦闘スタイルは少々相性が悪い。

 もちろん、硬くなっているだけと考えればそれ越しにダメージを与えることはできるのだろうが、核を狙うとなるとどうしても使える手が限られてきてしまい、決定打にかける部分がある。


(これはやはり私だけで仕留めるのは無理ですね)


 頭の片隅にあったこの手で仕留めるという考えを脇に追いやって、静は竜昇たちに宣言した通り、足止めに徹して竜昇たちの到着を待つことにする。

 槍衾の向こうで立ち上がる、見ようによっては槍の格子に閉じ込められているようにも見える敵の復活を静観しながら、静は求められる二分という時間を稼ぐべく、意識を研ぎ澄ますことにした。


 そうして研ぎ澄ませた意識でも、静はその存在に気付けない。


 否、静かだけでなく、それと相対している囚人も気づいていない。


 自分達以外にその場所に、もう一人別の存在が降り立っているということに。


 両者の戦いを眺めながら、同時に上の階を走る三人の人間の到着を待っている、そんなもう一つの脅威の存在に。






 全力疾走の甲斐あって、竜昇たちが一つ階段を下り、静達の交戦地点の真上の階に到着したときには、まだ下の階から元気な剣戟の音が響いていた。

 どうやら静は無事に敵と渡り合って、今もその足止めに成功しているらしい。


 今回の最凶悪囚人に対して、小原静の戦闘スタイルはお世辞にも相性がいいとは言い難い。

 持つものすべてを刃物に変えるだけでなく、自身の肉体すら刀剣に変え、硬質化することのできる囚人の戦闘スタイルは、瞬間的な破壊力に欠け、急所狙いによる一撃必殺を旨とする静には少々相性が悪い相手だ。

 一応、その守りを突破するために静が打てる手もいくつか思いつくが、そうした手段はいくつか手順を踏む必要があったり相手の出方次第だったりと、どうしても確実性や安定性に欠ける部分がある。


 こうした相手に対して対抗するなら、むしろ静よりも適切な人物が他にいる。


「じゃあ城司さん、到着したら手筈通りお願いします」


「ああ、任された。いい加減お前らガキどもに頼るばかりじゃなくて、大人の頼りがいって奴を見せてやるよ」


 先ほどは突発的な遭遇戦だったがゆえに取り逃がしてしまったが、こうした堅い防御を誇る敵に対しては、一撃必殺の破壊力が身上の【迫撃スキル】を持つ城司はうってつけの人材だ。

 唯一懸念事項として敵の素早さにどう対処するかという問題はあるが、城司から伝え聞いている彼の保有スキルの中にはその問題を解決できる手の内がいくつかあるし、何より彼の“第三の戦闘スタイル”が全身刃物というこの敵の特性に非常にマッチしている。

 後は、現在静と交戦中の敵をどう城司とぶつけて、戦いの場をおぜん立てできるかという問題だが、そのあたりは残る三人、特に【光芒雷撃】という自由度の高い魔法を持つ竜昇が何とかするべき問題だった。


 そんな風に、竜昇が最凶悪囚人を倒す算段を頭の中で整えていると、ふと、一番後ろを走っていた詩織が何やら呟いた。


「――音が」


「ん?」


 走りながら、その声に反応して少しだけ振り返る。

 そこにあったのは、戦闘の音が聞こえる真下に視線を落として何やら怪訝そうな表情を見せる詩織の顔。

 よもや、彼女の【音響探査】がまたも何かを聞きつけたのかと、竜昇が走りながら周囲に対して注意を払っていると、当の彼女がまたも、しかし少々意味を測り兼ねる言葉を一言口にした。


「音が……、増えてる」


「増えてる?」


 その奇妙な証言に、思わず竜昇自身も耳を澄ますが、しかし竜昇の耳には彼女の証言に納得できるような何らかの音は聞こえてこない。


 相変わらず下の階からは金属の武器を撃ちあわせる剣戟の音が響いていて、それに交じって少しずつ、敵の【魔法スキル・大地】のものと思われる魔法の発動音や、静の【歩法スキル】によるものと思われる魔力の炸裂音が聞こえてくるだけだった。


 この音の一体どこに詩織が疑問を抱いたのかと、竜昇がそんな疑問に内心で首をかしげていると、その視線の先で下の階に注意を向けていた詩織が突如としてその表情を変えた。


「――この音の場所、まさか」


 呟き、その行軍速度が唐突に上がる。

 ここまで、自己強化の技を唯一持たない竜昇の足の速さに合わせる形で走っていた詩織が、自己強化の技を発動させたのか微かな魔力の気配と共に加速して、前を走っていた城司すら追い越して階段に向かって走り出す。


「おい詩織嬢ちゃん、隊列を乱すなッ!!」


「追いましょう、城司さん」


「ったく、いったい何だってんだ突然――!!」


 止める城司の言葉も聞かず、一人先を走り出した詩織を追って、竜昇と城司も階段までの足を速める。


 詩織の背中を追って階段を飛び下りる。

 こう言った局面では、格闘技スキルこそ習得していないものの、【軽業スキル】を習得している竜昇の方が動き速い。

 静にかけられた【剛纏】だけで身体強化を行っているだけの竜昇だったが、【剛纏】に加えて何らかの魔力による身体強化を用いている詩織に追いついたのは、彼女が階段を下り切ったのとほとんど同時のことだった。


 そうして下の階につくと同時に、すぐさま周囲に【光芒雷撃】の雷球を展開、同時に聞こえる金属の音を頼りに静の姿を探して、すぐさまその戦況をその目でもって把握した。


(よし、静に特にけがはない。今度こそ全員であいつにかかれる)


 まずは【光芒雷撃】を用いて敵の足止めの援護、続けてすぐに到着するだろう城司をあの囚人にぶつけて、彼をメインに据えた戦闘で一気に制圧する。


 そう竜昇が、この敵に対する戦術を頭の中で確認したときだった。

 竜昇のすぐ隣、ほぼ同時にこの階へと到着していた詩織が、予想外の声をあげたのは。


「――静さん、駄目ッ!! そこはもう攻撃に囲まれてる――!!」


「は――!?」


「伏せてッ!!」


 その判断はほんの一瞬だった。

 驚き詩織の方を見ていた竜昇が視線を戻すのとほぼ同時、その切迫した声に何かを感じ取ったのか、静が急遽囚人との戦闘を放棄して、右手の籠手の力でシールドを展開しながら言われた通り地面へと伏せる。


 だがどう見てもなにも無い。

 詩織の声に同じくただならぬものを感じて、すぐさま静の周囲へと目を凝らした竜昇だったが、しかしその目に映るものは一切なにも存在しなかった。


 存在しない、はずだった。


 次の瞬間、静たちが交戦していたその周囲から、立て続けに何かが空を割くような音が鳴り響いて、直後にその一体の石畳の床が勢いよく弾け飛ぶ。


「なッ――!?」


 身を投げ出した静の、その周囲に展開されたシールドが突き破られて砕け散り、鮮血を散らした少女の体がそのまま床へと倒れ込んだ。

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