73:六亡の光明

 もはやなりふり構ってはいられない。

 燃える魔球による集中砲火を前に、手にした魔本で思考を加速した竜昇はわずかな逡巡の末そう腹をくくった

 左手で魔本に指示を飛ばし、同時に右手を迫る魔球の群れ目がけて差し向ける。

 その行動に、視界の端にいた静が腰のベルトから投擲用に調達したボールペンを引き抜きつつ勢いよく離脱した。

 どうやら竜昇の意図を、かなり正確に読んでくれたらしい。あるいは食堂で一泊し、そこで二人で演習のようなことをやった際に、竜昇が使える魔法や魔本スキル発動時の魔力のパターンを一通り覚えてもらっていたのが功を奏したのか。

 自分だったなら魔本スキルがあってもできるかどうかという反応に内心で舌を巻きながら、竜昇は【増幅思考シンキングブースト】によって稼いだ時間の残りをつぎ込んで瞬時に術式を組み上げる。

 同時に引き出すのは、体育館に入る直前に【魔力充マナチャージ】の機能を用いて魔本に込めておいた多量の魔力。


充填魔力マナプール解放――)


 繰り出すのは、現在の竜昇が保有する最大火力。


「――【迅雷撃フィアボルト】」


 瞬間、加速していた竜昇の時間が周囲のそれと一致して、同時に目前の空間をまばゆい雷光が薙ぎ払う。


 前方から迫っていた大量の魔球が大火力の電撃に飲み込まれ、さらには前方の空間を満たしていた黒い煙をも相殺し、その向こうにいたらしき人影を幾体かまとめて消滅させた。

 同時に、竜昇の背後、背中を預ける形となっていた跳び箱の向こうでも爆発が起きる。


「互情さんっ――」


「ああ。煙の空白地帯へ――!!」


 背後から飛来してきていた魔球の迎撃を静にゆだね、竜昇はすぐさまその場を立ち上がると、一直線に先ほど電撃を放ったその場所、煙が一時的にはれた空白地帯へと走り込む。


 見晴らしがいい、開けた空間は一見すると遠距離からの攻撃を受ける可能性が高く不利に思えるし、実際不利であることは確かなのだが、しかしこと今回に至っては煙の中で動き回るよりははるかにましだ。

 体育館を満たす魔力の黒煙は、竜昇たちの側にこそ視界を遮り、攻撃を減衰させる効果こそあるものの、逆に敵方の影たちは煙によって竜昇たちを見失っている様子がなく、攻撃それ自体も全く減衰された様子が無い。

 恐らく煙がそのまま敵の体の一部であるがゆえに、その中を移動する竜昇たちの位置が相手にバレてしまうのだろう。その上先ほどの跳び箱のように、闇の中にわざわざ障害物を設置しているとなれば、そんな中を闇雲に逃げ回る方が間違いなく不利になる。


「【光芒雷撃レイボルト】――発射ファイア


 煙の空白地帯、その中央まで歩を進め、同時に竜昇は自身の周囲に浮かべた雷球を操って、薄れた煙の向こうに見えた魔球の輝きや、そのそばで動く人影めがけて片っ端から光条を叩き込む。

 同時に、隙を見計らっては【魔力充填マナチャージ】も起動させる。

 魔法を次から次へと使いながら、本の中にまで魔力を溜め込むというその行為は、言ってしまえば吹奏楽器を演奏しながら風船を膨らませるようなものなのだが、それでもこの先を考えるならもう一度魔本の中に魔力を蓄えていく必要があった。

 否、それは一度では済まないかもしれない。

 それならそれで構わない。一度で済まないならば何度でも同じことを行うまでだ。


(……【魔力充填マナチャージ】。……【充填チャージ】。……【充填チャージ】――!!)


 ほとんど一拍ごとに魔力を魔本の中へと注ぎ込み、同時に竜昇は【光芒雷撃レイボルト】の方も操作して煙の向こうに見えた魔球の炎目がけて次々と牽制の射撃を撃ち込んでいく。

 と、そんな竜昇の背中に追いつき、触れる別の体温があった。

 どうやら背後の敵に対して投擲スキルによる攻撃を行っていた静が、竜昇と背中合わせになるように追いついてきたらしい。


「互情さん、結構無茶をしようとしてますか?」


「まあな。スマートに倒せるんならその方がいいんだろうが。生憎と今思いつくのは力技による突破、だけだ――!!」


 雷の光条を発砲。同時に残る魔力を一気に魔本へと注ぎ込み、竜昇は【迅雷撃フィアボルト】を撃っても倒れずに済む、最低限の魔力を確保する。

 あと必要になるのは術式の準備と、注ぎ込む魔力が竜昇の中に回復するまでの僅かな時間だ。


「小原さん、五秒頼む」


「かしこまりました」


 竜昇が要請を出すと、すぐさま静がそう答えてボールペンを引き抜き、四方の敵へと目がけて続けざまに投擲する。

 その傍らで右手の十手はそのまま保持し、左手を忙しく動かす傍らで突如魔力を込めて十手を振るう。


「【突風斬】――!!」


 死角から撃ち込まれた、魔球ではないがゆえに魔力の気配を感じない野球ボールに対して十手を叩きつけ、同時に静はその十手に宿した暴風の魔力を炸裂させる。

 バッドの代わりにするには細すぎる十手をそれでも無理やりバッド代わりに使い、【剛纏】による身体強化と【嵐剣スキル】による補助を合わせて投げつけられたボールをピッチャー返しで打ち返す。


「準備オーケーだ。小原さん――!!」


「はい、どうぞ存分に」


「【迅雷撃フィアボルト】――!!」


 準備した魔力を右手に宿し、その右手を振りぬくようにしながら、竜昇は再び自身の持つ最大火力を解き放つ。

 先ほどからの攻防で分かったが、体育館を満たす黒い煙を相殺するのにはそこまで大きな威力が必要な訳ではない。単純に相殺すればいいというのなら、それこそ【迅雷撃フィアボルト】など使わずとも【雷撃ショックボルト】を撃つだけでも十分なくらいだ。

 それでも、竜昇が【迅雷撃フィアボルト】の使用に踏み切った理由は、言ってしまえば攻撃範囲の問題だ。

 体育館中に充満するほどの量の煙を相手に、生半可な規模の攻撃では効果が薄い。【雷撃ショックボルト】を用いて多少の煙を消し飛ばしたとしてもすぐに周囲から煙が集まってきて作ったばかりの空白を埋められてしまうのだ。

 故に竜昇がこの場で頼るのは、莫大な魔力を使う代わりに攻撃範囲も広い【迅雷撃フィアボルト】。煙の充満する範囲と、闇の中に隠れる障害物や敵影をまとめてふっとばし、まるで陣取りゲームのように煙の無い範囲を増やしていこうというのがこの場での竜昇の判断だった。

 ただしそれもあくまで途中経過だ。本当に目指すべき、この敵を打倒する方法というものはさらにその先に存在する。


「まずは壁まで行って、そこから壁伝いに体育倉庫や舞台を探すぞ。怪しいところに片っ端から【迅雷撃フィアボルト】をぶち込んで、体育館そのものを操っている敵を探し出す」


 【迅雷撃フィアボルト】によって煙が晴れ、生まれた空白地帯の中へと足を踏み入れながら、竜昇はある種の力技とも言えるそんな作戦を静に対して表明する。

 可能なら、敵本体とも言えるこの敵の核の位置を特定してそこまで一直線に向かいたいところだったが、そもそもの核の位置がわからない上に、黒い煙に閉ざされた周辺環境故に自分が今いる位置すら不透明な状況だ。

 最悪の場合、出口が先に見つかるなら撤退を考えるという選択肢もある。

 それ以外に方法が思いつかないがゆえにこんな力技のシラミ潰しのような案を採用しているが、竜昇とてこの作戦がどれだけ無茶なものか自覚していないわけではないのだ。一度体勢を立て直すことができるなら、撤退というのはやはり有効な選択肢である。


(まあ、これまで撤退しようとしてそれが成功したこと全くないけどな――!!)


 思い出して苦々しい気分になりながら、竜昇は自身の周囲に再度【光芒雷撃レイボルト】の六発の雷球を出現させ、【分割思考】でその制御と、魔本への魔力充填を繰り返しながら次の敵の存在を探し求める。

 後ろからすぐさま静が追いついて来て背中合わせとなり、そうなった次の瞬間には闇の向こうに竜昇たちを狙う魔球の灯がいくつも灯り出した。


発射ファイア――」


 すかさず、闇の中に灯る魔球の明かり目がけて周囲に引き連れた雷球の、その射撃を次々と叩き込む。

 敵の攻撃を防ぎ、あまつさえ数を減らすことで【迅雷撃フィアボルト】の準備のための時間を稼ごうという牽制射撃。減らしても無駄な敵の数をそれでも減らそうという、竜昇のそんな試みは、しかし直後に周囲で起きた変化によって阻まれることになった。


「――なに!?」


 放たれた雷撃の光条、着弾箇所に急速に黒煙が集まっていく。

 魔球を放つ影の選手、それを撃ち抜こうとする光条が濃密な黒煙に阻まれて、その威力をみるみる減衰させてやがては消える。

 攻撃が敵へとたどり着くその前に。まるで竜昇たちの攻撃を、闇の中へ飲み込んでしまったかのように。


「――互情さん、相殺されました」


「ああ、こっちもだ、畜生――!!」


 どうやら背後、静の方でも同じようなことが起きたらしい。

 攻撃を行う選手たちの前へと黒煙を集中させて、こちらの攻撃をその魔力でもって相殺する黒煙の盾。そしてそれがもたらす結果は酷く深刻だ。なにしろこちらの攻撃が阻まれたことで、攻撃を行おうとしていた敵の選手たちがまるまる残ってしまっているのだから。


 煙の向こう、灯火のように輝いていた魔球の光が一斉に闇の中から飛び出して、四方八方から一斉に竜昇たちの元へと襲い掛かって来る。


「――っ、避けろォッ!!」


 敵からの攻撃に対して、竜昇ができた判断はそんな破れかぶれのような判断だけだった。

 全力でその場を走り出し、体育館の中でも煙の晴れた狭い一画を舞台に、四方八方から襲い来るボールから逃げ回る。

 当然、竜昇と静はすぐさま引き離されることとなった。

 これで煙がこの空間を満たせば、それだけでも二人の合流は困難になると頭ではわかっているのに、そうしなければいけない状況に追い込まれてしまった。


 と、状況の悪化に竜昇が焦りを覚えていたちょうどそのとき――。


「――ご、ぁ――!!」


 肩にいきなり衝撃と痛みが襲い、走っていた竜昇の態勢が一気に崩れる。

 床へと倒れ込みながら、竜昇が見るのは自分の肩を襲った衝撃の正体。着弾したことでかけていた何らかの魔法が解けたのか、急速に見えるようになっていく野球ボールが、竜昇自身と一緒に床へと吸いよせられていた。


(消える、魔球――!!)


 まずいという感覚に、竜昇は急いで【増幅思考シンキングブースト】を発動させる。

 攻撃を受けて倒れ込むどうしようもない状況の中、それでも増幅された思考によって周囲の景色がスローになり、そして見えてくる周囲の状況が雄弁に自身の危機を竜昇に対して伝えてくる。


 見れば、闇の向こうの倒れ込む竜昇からちょうど見える位置に、恐らくは消える魔球を放った張本人なのだろう、野球のユニフォームを纏った選手の影があった。

 その手にあるボールには、すでに燃える魔球のものと思しき炎が灯っている。恐らくは倒れ込み、足の止まった竜昇に対して、最後のトドメとして投げ込むつもりなのだろう。


(――っ、【光芒雷撃レイボルト】、いや、光条これじゃあいつには届かない――!!)


 野球選手へと手を差し向け、その先に周囲に展開していた雷球の一つを呼び出して、しかし竜昇はこの攻撃では敵の攻撃を防げないことを瞬時に悟る。


 【光芒雷撃レイボルト】の光条では敵が先ほど見せた黒煙を集中させることによる防御を貫けない。それはこの状況でも瞬時に発動できる【雷撃ショックボルト】であっても同じことだ。唯一【迅雷撃フィアボルト】なら守りを突破して敵を丸ごと焼き尽くすような真似も可能かもしれないが、しかし【迅雷撃フィアボルト】を撃つには時間と魔力が圧倒的に足りていない。


 後竜昇に残されている手段があるとしたら、じり貧になることを覚悟で敵の攻撃をシールドで受け止めるか、あるいは煙から飛び出してくる燃える魔球を自身の魔法で何とか撃ち落とすかというそのくらい――。


(――いや)


 緩慢に流れる視界の中、脳裏に浮かんだ可能性に竜昇の体が瞬時に反応する。

 雷球に向けて差し出していた手、その先に体内の魔力が一気に集まって、同時に意識がほとんど自動的に術式を処理して手の先の魔力に形を与える。


 この魔法を使うのに、もはや時間はほとんどかからなかった。

 【増幅思考シンキングブースト】の効果が切れて、世界の時間が戻るその瞬間、同時に術式が完成して竜昇の手が一つの魔法を撃ち放つ。


「【雷撃ショックボルト】――!!」


 手の先から放たれる電撃の閃光。狙う先は闇の向こう、そこで今まさにボールを投げ放とうとしている野球選手、ではない。

 狙うはもっと手前、というよりも竜昇のすぐ近く。倒れ込みながらも竜昇がすぐそばまで呼び出していた【光芒雷撃レイボルト】の雷球の、そのうちの一発だ。


 自身の魔法に至近距離から電撃を浴びせかけたその瞬間、同じ術者からの電気を受け取った雷球が、その魔力の電気を吸収して一気に膨れ上がる。


「【光芒雷撃レイボルト】――発射ファイア――!!」


 すぐさま雷球に発射を命じる。

 竜昇の手によって電撃を上乗せされた雷球が、強力な極太の光条と化して闇へと走り、選手の前の霧が集中する箇所へと着弾し、そして――。


「行け――!!」


 ――貫通する。

 わずかな減衰の後、細くなった光条が集中していた黒煙を貫いて、その向こうにいた選手の体のその中央を貫いてその五体をバラバラにして消滅させた。


(――やっ、た……?)


 自身も床へと倒れ込み、そこからすぐさま起き上がりながら、竜昇はその間にも自分が行ったことの戦果、自分を狙っていた選手の行く末から目を離さなかった。

 同時に、自分の中に生まれた発想が一気に成長する。

 雷球への電撃の上乗せ。それによる威力の強化。竜昇からの電球を吸収した際の雷球の状態など、今しがた見たばかりの情報が,急速に竜昇の中で一つの形を成していく。

 この闇の中、圧倒的不利を貫く光明の形へと。


「小原さん――!! なりふり構わず、十秒守ってくれッ!!」


 その発想を胸に抱いたその直後には、竜昇は声の限りに一度は離れた静へとそう叫んでいた。


 返事はなかった。


 その代わりに攻撃を強引に突破して静自身がやってきた。

 口に十手の一本をくわえて、もう一本の十手は腰へと戻し、替わりに両手には持てる限りのボールペンと、竜昇が作った【雷撃の呪符】を携えている。

 竜昇のすぐ前へと床を鳴らしながら着地して、立ち上がろうとする竜昇を手で制しながら、闇の中から飛び出してきたボール目がけてボールペンを投げつける。


 どうやらボールペンへの強化も、ほとんど先端部分にだけ【鋼纏】を集中させる形で魔力を節約する術を覚えたらしい。

 あるいはそれは、ぶつけるだけで攻撃を無力化できるが故の、この敵が投げるボールのための工夫だったのか。何はともあれ周囲を黒い煙と選手の敵に囲まれた状態で、すでに静はこの十秒を生き残るための準備をすでに整え終えていた。


 ならば、竜昇の方とてその十秒を一秒たりとも遅れるわけにはいかない。


(【光芒雷撃レイボルト】起動。【魔力充填マナチャージ】開始――。充填チャージ――。充填チャージ――。充填チャージ――……!!)


 周囲に待機させる雷球を六発に戻し、すぐさま竜昇はその場にうずくまったまま手にした魔本に次々と魔力を注ぎ込む。


 次々と投げ込まれる燃える魔球を静のボールペンが相殺する。

 二宮金次郎像の時もそうだったが、この手の攻撃は威力が高い半面、相殺すること自体はそう難しくない。なにしろ何かをぶつければ勝手に爆発してくれるのだ。最悪威力的にこちらの攻撃が釣り合っていなくても、軽く石をぶつけるだけでも距離さえ空いていればどうにかなってしまう。

 むしろ問題なのは、通常の燃える魔球とは別の攻撃手段の存在だ。


「シールド」


 上空から飛来した砲丸を、静は立ち位置を変え、竜昇をかばうようにして立ちながらシールドをぶつけて弾き返す。

 拡大するシールドに行く手を阻まれた砲丸が重い音と共に床へ落下し、次の瞬間には闇の向こうからボールを床に打ち付けながらバスケット選手が現れる。


「【雷撃ショックボルト】」


 呪符による魔法行使を容赦なく発動、こちらへと向かってくる影の選手に正面から電撃を浴びせかけて消滅させると、静はすぐさま咥えていた十手を呪符を手放した右手へと落として振り向きざまになにも無い空間へと振りぬいた。


「【突風斬】」


 いったいどういう直感をしているのか、暴風の魔力を宿した十手が硬い音と共に何かにぶつかる。

 周囲の景色に紛れるように、透明化していた消える魔球が暴風の炸裂によってどこかへと吹き飛んで、闇の煙の中にいた投手へ向けてピッチャー返しで打ち返される。


 短い時間に手札を全部投入し、静自身のセンスを全開にして行われる全力戦闘。

 とは言え、それでもこの場では、その奮闘は敵の命には届かない。

 この体育館に現れる選手たちはいくら倒してもきりがない黒い煙の一部とも言うべき存在だ。この敵本体の核は体育館自体と融合するようにどこかにあって、それを探し出せなければいかに静が圧倒的な戦闘力を発揮しても意味はない。

 ならば、そんな敵の核を探し出し、破壊するのは竜昇の役目だ。

 そして静の奮闘のおかげで、すでに竜昇は自身の魔本に必要な準備をすでに終えている。


「準備オーケーだ、行けッ――!!」


 周囲に展開していた六発の雷球、これまで自身のすぐ近くに温存していたそれを、周囲の敵に撃ちだすことなく上空へと打ち上げる。


 球体のままひと塊になって真上へと到達した六つの雷が、己が果たすべき役割を今か今かと待っている。

これでもう、全ての準備は整った。


充填魔力マナプール――解放ッ!!」


 閉じていた魔本を開く。体内に回復したばかりの魔力を倒れない限界ギリギリの量まで引き出して、魔本のうちの魔力と掛け合わせて上空へと向けた右手にかき集める。

 脳裏に浮かぶ術式が集めた魔力に形を与え、竜昇の持つ最大火力となって現出する。


「――【迅雷撃フィアボルト】」


 撃ちだされる特大の電撃、しかしそれが狙うのは周囲を取り囲む敵でもなければどこかにあるだろう核でもない。

 上空に事前に打ち上げていた六つの雷球。それらへと向けて放たれた巨大電撃が狙い通り雷球に直撃して、そして先ほど地上で一度行った時と同様、雷球がその電気を全て吸収して、上空に【迅雷撃フィアボルト】を六分割したような、巨大な雷球が六つ現れる。


 スキルによってもたらされる知識に、この魔法は存在していない。

 それならば、これより敵を襲うこの魔法の名前は竜昇自身が付けるべきなのだろう。

 瞬間的にそう感じて、竜昇は瞬時に思いついたその名前を、高らかに周囲の敵へと名乗り上げた。


「【六芒迅雷撃ヘキサ・フィアボルト】――!!」


 次の瞬間、空中にあった六つの巨大な雷球が六方向へと向けて一気に光条と化して発射され、周囲にあった黒煙や影の選手たちを諸共一気に焼き払った。

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