49:骨振るい駆ける人体模型

 時は若干遡る。

 夜中の校舎、大量の鬼火が爆発した直後の二階の廊下で、しかし小原静はどうにかその爆発を掻い潜り、生存してのけていた。


(……まったく、我ながら随分と酷い姿になったものです)


痛む体を押してフラフラと立ち上がり、どうにか鬼火の爆発から生き延びた我が身の状態を確認して、思わず静は内心でそんな自嘲を漏らす。


 実際彼女が思う通り、今の彼女の格好は傍から見ても酷い格好だった。

 特に爆発から逃れる際に爆炎をもろに受けることとなった制服の左側半分が酷いありさまで、袖は肩から肘にかけての、籠手をはめていなかった部分が完全に燃えてなくなってしまっているし、制服の背中側やわき腹、スカート一部、履いていた靴下など、服のあちこちが焼け焦げて肌が露出し、ところによりアザや火傷、飛んできた破片で切ったのか血がにじんだようなところが散見している。


(……大丈夫、骨は折れていないようですね。音が聞こえて三半規管にも異常なし……、耳の鼓膜はも無事と見ていいでしょう。とりあえず、動きに支障が出そうな怪我をしなかっただけでも良しとするべきでしょうか)


 全身の各所に感じる痛みに呻くこともせず、手早く自分の怪我の状態を確認して、そうして静はとりあえず自分が動けるという事実に安堵する。


 あの瞬間、廊下一帯を埋め尽くす鬼火のさなかで、生き残るべく静がとった手段は実にシンプルだった。

 左手にはめた【武者の結界籠手】の力で全力のシールドを展開し、鬼火の群れをシールドがあるうちに強引に突破して、それでも逃げきれない爆炎からは顔を腕で守って身を丸め、熱と爆風をもろに浴びる部位に【甲纏】を集中させてどうにかダメージを最小限にとどめていたのである。


(こうなると、事前にあのトイレで水道管の水を頭から浴びていたのが幸いしましたね。それでも体を守るのが精いっぱいで服はあちこち焦げてしまったわけですが……)


 あちこち肌が露出して、どう考えてもあられもない格好になってしまった自分の体を一瞥してから、すぐさま静は握ったままになっていた小太刀と十手の様子も確認し、構えを取る。


 見れば、鬼火が全て爆発し、安全になったことが確認できたからなのか、両手に骨の棍棒を携えた人体模型が教室の中から歩み出てきている。


 爆風になぶられたせいか、受けたダメージのせいで体が思うように動かせないのがもどかしい。武器は一応無事だったようだが、あの人体模型を相手にこの状態で何処まで戦えるかは正直言って未知数だ。


 一応下の階から派手な戦闘の音が聞こえてくるところを見ると竜昇も生きて戦ってはいるようだが、逆に言えば竜昇の方も苦戦している以上、この場での助けはあまり期待できないようだった。


「まったく、か弱い乙女相手に本当に容赦のないものです」


 言った次の瞬間、身軽な人体模型が猛烈な勢いで静目がけて疾走し始め、静自身もその全身に、いつの間にか消えてしまっていた赤いオーラを纏いなおして迎撃の態勢を整える。


 振るわれる二本の骨棍棒、飛び掛かるようにして襲い掛かるその攻撃を身をひるがえし、屈むことで二本とも躱して、すぐさま静は右手の十手を相手の胴体目がけて打ちつける。


「――!!」


 だがその瞬間、人体模型が素早く戻した骨棍棒が十手と敵の胴体の間に割り込んで、直後に静の体がはるか後方へと吹き飛ばされる。

 ただでさえボロボロの静の全身を強烈な暴風が蹂躙し、ふらついていた少女の体がなす術もなく背後へと飛んでいく。


(――本当に、防御されてもダメとは厄介ですね)


 接触の瞬間、呪符の効力で十手にかけなおして、しかしその後接触がなかったために発動し損ねていた【静雷撃】が発動したらしく、相手もまた追撃できずにその場で動きを止めていたが、しかし互いに痛み分けに終わったからと言ってそれが状況を良くすることには間違ってもならない。

 現状ダメージの大きいのは明らかに静の方だ。実際今回は弱った体では受け身を取り切れず、床にたたきつけられて少なくないダメージを我が身にもらってしまっている。


(まったく、どうにもこの学校に出てからいいところが無いですね、私……)


 素早く体勢を立て直して立ち上がりながら、静はなんとか状況を打開しようと思考を巡らせる。

 やたらと動きの素早いこの敵が相手では、恐らく呪符を使う猶予はない。投げるだけの投擲武器ならばあるいはとも考えたが、先ほどまで使っていた投げ銭は鬼火にぶつけて相殺してしまったり、使った後回収する猶予が無かったりですでにそのすべてを紛失してしまっている。残る静の武装は事実上今持っている十手と小太刀、右手にはめている籠手と、後は初期装備の投擲用ナイフくらいのものである。


(さて、本当にどうしましょうか。もう武器にかけていた【静雷撃】はどちらも使い切ってしまいましたし……。あと残っているのは投げナイフの電撃くらいでしょうか? それにしたとて武器に接触させたとたんにこちらが吹き飛ばされてしまう以上、決定打にはなり得ませんし……)


 やはりと言うべきか、一番厄介なのはあの武器の暴風だ。それをどうにか攻略しないことには、この敵にはいくら攻撃を仕掛けてもあまり意味がない。


(――ッ、考える時間もくれませんか)


 そんな静の懊悩など歯牙にもかけず、電撃のダメージから回復し、我が身の自由を取り戻した人体模型が廊下を駆ける。

 今度こそ静の頭蓋を砕こうと、己が右手に持つ骨の棍棒を大上段から振り下ろす。


「――フッ」


 吐息を一つ、同時に静は半歩横にずれることで、その一撃を的確に回避する。

 どのみち今の静は満身創痍。ならば余計な動きは極力排除して、いつも以上に無駄のない動きで相手の動きに対処する。

 続く左手、もう一本の棍棒による横薙ぎの一撃はしゃがんで回避。続けて放たれる右手の棍棒による薙ぎ払いは、背後に跳んで回避する。

 敵の体が空中で回る。両手の棍棒を同じ方向に振りぬいた人体模型が、その勢いに逆らわず、自身も空中に跳んで空中で素早くスピンする。


 遠心力を加えて、再び放たれる右手棍棒による薙ぎ払い。それが終われば左の棍棒による突きが放たれる。

 二本の棍棒を巧みに操り、時に体を回転させながら放たれる連撃の嵐。それらを静はどうにか回避していたものの、しかし途切れることの無い攻撃の連続は静を確実に追い詰め始めていた。

 とは言え、追いつめられて、そのままあっさりととらえられるほど、静という少女も弱くはない。


(――そこッ!!)


 敵が静のみぞおち目がけて棍棒を突き出したその瞬間、すかさず静がシールドを起動させて、突き出される棍棒の、その先端に障壁の拡大を叩きつける。

 即座に吹き抜ける、人一人を吹き飛ばす強力な暴風。

 だが攻撃であるはずのその風を静はシールドでうまく受け止めて、そのまま体勢を崩さずに吹き飛ばされることで、静は人体模型からうまく距離を取った。

 対して、突き出した棍棒を思わぬ形で押し返された人体模型の方は一瞬とは言えバランスを崩し、直前まで静もいたその場でたたらを踏んでいる。


(攻めるなら、今――!!)


 思い、次の瞬間には静の身はすでに動き出していた。飛ばされた先で着地するのを待たず、すぐさま静は自分の腰、そこにあるウェストポーチの中に十手を突っ込み、磁引の力を発動させて中にある最後の武器を吸着する。

 静がこのビルの中で最初に選んだ、小さなナイフ。それを十手の先にくっつけたまま右手を振りぬき、その勢いをでもって人体模型へと投擲する。


『――ォ、ジュォ……!!』


 恐らくはとっさの対応だったのだろう。飛んでくるナイフを骨棍棒で叩き落とした人体模型の体がガクリと脱力する。

 なにしろ【静雷撃】が仕込まれたナイフに骨とは言え武器で触れてしまったのだ。当然一瞬とは言えその全身を包んでいた黒い霧が霧散して、その無機物の体を動かす力が失われて相手の動きが僅かに鈍る。


(今――!!)


 その一瞬の隙をつくべく、すぐさま静は相手との距離を詰めていた。暴風に吹き飛ばされ、放された距離を瞬く間に走破して、敵の左半身、心臓の真下に他の臓器に紛れるようにハマる赤い核目がけて左手の小太刀で刺突を繰り出す。

 相手へのトドメまであと一歩。

 相手の全身のを包む黒い霧、その密度の薄さゆえに、相手は動けないものと静が勝利を確信しかけたその瞬間、人体模型の左手首、“なぜかそこだけ濃密な霧を纏っていた”その箇所が勢い良く動いて、握っていた棍棒を手首のスナップだけで人体模型自身の胸板目がけて叩き付けた。


「――ッ!!」


 その行動に静が息をのんだ次の瞬間、棍棒が纏っていた風の魔力が炸裂し、その暴風をもろに受けた人体模型が静の刺突から逃れて背後へと吹っ飛んでいく。

 逃げられたと、すぐさまそう気づいた静だったが、それでこの相手を諦め、取り逃がすような真似をこの少女はしなかった。

 すぐさま武器を構え直し、床を蹴りつけてふっ飛ぶ敵目がけて追撃をかける。


(さっきの左手の動き、全身への霧の復旧を諦めて、左手だけ優先的に霧を巡らせて動かしたのでしょうが、それならまだ体は満足に動かないはず――!!)


 時間を与えれば全身に霧が巡って再び動けるようになってしまうのだろうが、今ならばまだ追撃をかければトドメをさせる。

 見れば人体模型は吹き飛びながらもこちらを威嚇するように動く左手を一閃させているが、生憎とその動きで動いているのはまだ左手だけだ。

 行ける、と、静がそう確認して、床へと倒れ込む人体模型目がけ、今度こそ一気にトドメの一撃を撃ち込もうとして――。


「――ッ!!」


 ――その寸前、背筋に寒気を感じて、反射的に静はその場で足を止めていた。


 直後、その判断の正しさを物語るように、急制動をかけた静の体の、その胸元が斜めに裂けて、静の意識が鋭い痛みを同じ個所に確かに感じ取る。


 斬られた、という、その実感がまず意識に浮上する。


 痛みを感じる箇所は左の鎖骨から右わき腹までの斜めの一直線。傷の深さまでは一瞬では把握できなかったが、痛みを感じたその位置では着ていた制服が斜めに裂けて、その中にある自身の体から血液が飛んでいるのが確かにわかる。


「――ぅ、ッ――!!」


 寸前に止めた足で床を蹴り背後に飛び退きながら、静は自分が斬り付けられたと思しき、空中にあるその位置へと目を凝らす。

 当初こそ何が起きたのか、その正体がすぐにはわからなかったが、静自身の体から飛び散った血液が斜めに飛び散り、自身の胸を切り裂いたラインに色を付けたことで、どうにか静にもそこにあった攻撃の正体が理解できた。


(気流の、刃……!?)


 見れば、静の胸元が斬られたその位置で、薄く鋭い空気の流れが、まるで丸鋸のように円を描いて、その場に近づくものを斬りつけようと回っている。

 持続時間はそれほど長い物ではなかったのか、視認した直後にはその刃は空気の中に解けるように消えたが、しかしなぜその位置に刃があったのか、その答えは静自身すぐに理解できた。


(迂闊でした、さっきの一閃――)


 先ほど人体模型が背後に吹っ飛ぶ際、威嚇するように一度だけ振るっていた棍棒の一閃。恐らくそれが、この気流の刃を、まるで静を迎え撃つための罠のごとく設置するための行動だったのだ。

 武器を振るったその位置に設置され、近づくものを斬りつける気流の刃。

 追撃を封じ、あまつさえ追撃者を迎え撃つそんな攻撃に、見事に静はハマってしまったのだ。


(それだけではありません。機を逸してしまった――)


 胸に走る痛みを意識の隅に追いやって、静はすぐさま着地し、目の前の相手へと身構える。

 先ほどやっとの思いで作った隙は、すでにもう目の前の敵には残っていない。


 人体模型はすでに全身に黒い霧を巡らせて体の自由を取り戻し、すぐにでもこちらに撃ちかかろうと態勢を整えている。

 そして最後の電撃仕込の武器であるナイフを失った今、もはや静にあれほど明確な隙を生み出す、そんな武器はもう残っていない。


(これは、まずいですね――!!)


 顔へと突き込まれる棍棒を何とか回避するが、しかし蓄積したダメージ故か静の動きが僅かに鈍る。

 その隙をこの敵が見逃してくれるはずもなく、目の前の人体模型は明らかなほど激しい魔力を込めて、左手の棍棒を静目がけて打ち込んできた。

 そしてその攻撃に対して、今の静では避けきるだけの余力は残っていない。


「――くッ!!」


 とっさに左手、【甲纏】のオーラを纏わせた小太刀を振り上げて、静は己の武器をその攻撃への盾とする。

 直後に響く激突音。赤いオーラで身体能力を上昇させ、それ相応の筋力を得ていた静でも痺れるほどの衝撃が左手を襲い、そして同時に静はさらに危険な現実を目の当たりにする。


(【甲纏】の、オーラを――!!)


 敵の攻撃を受け止めたその瞬間、まるで相手の攻撃に吹き飛ばされるかのように、小太刀にかけたばかりの黄色いオーラが消滅し、それに包まれていた刀身がむき出しの状態になっていた。

 そして同時に、敵の次の動きを目の当たりにして、ようやく静はこの人体模型の目的を理解する。

 痺れる左手がなす術もなく右へと流され、まるでその刀の刀身を相手へと差し出すような態勢を取らされて――。


 次の瞬間、振り下ろされた棍棒がむき出しの刀身へと激突し、衝撃にバランスを崩す静の目の前で、彼女の武器たる【加重の小太刀】の、その刀身が粉々になって砕け散った。


(――武器破壊の――、技――!!)


 目の前で振り下ろされた棍棒、それが纏う魔力を視認して、静がそうと気づいた時にはもう遅かった。

 すでに持っていた小太刀の刀身は木端微塵に砕け散り、今静の目の前でその破片が宙を舞っている。


 数瞬後には、その破片が地面へとこぼれ落ちて、そして続く棍棒の連撃によって静の人生は終わりを告げるだろう。

 己の身を守るための武器を破壊され、そのショックも冷めやらぬままに殺される。小原静という少女もほどなくして失った武器の後を追うように、武器とまったく同じ末路をたどることになる。


 そのはずだった。もしも小原静という少女が、普通の感性を持ったまっとうな人間だったならば。


「――磁引!!」


 武器を砕かれたと、そうと認識した次の瞬間、もう静は右手の十手に魔力を流し込み、そのまま砕けた刃の刀身、その破片の群れの中へと己の武器を振りぬいていた。


 十手が帯びる磁力によって空中に飛び散る破片を瞬時に回収。返す一振りの瞬間にその磁力を解除して、目の前で小太刀を砕いた直後の、無防備な人体模型の全身へとその刀身の破片を投げつける。


『ウジュ――、ォ――!!』


 さしもの人体模型も、静のこの対処は完全に予想外だったらしい。

 武器を破壊される、その瞬間を目にしても、まったくそれにショックを受けない鋼のメンタル。武器に愛着を抱かず、徹底してただの道具としか見ていなかった静の判断が、大量の破片の攻撃となって人体模型の体に突き刺さる。


 両者の体が背後へと投げ出される。


 敵の攻撃に際して、それぞれが危機を脱するべく床を蹴ったその結果として、両者の間にわずかではあるが距離が生まれて、そしてそれが静という少女に、容赦なく絶望を突きつけるだけの猶予となっていた。


(急所を、外した……)


 床の上で片膝をつき、相手のダメージを確認した静は、しかし相手の核がいまだ健在で、人体模型がいまだに動いている事実を目の当たりにすることとなった。


 静が撃ち込んだ破片は、確かに敵である人体模型の、その全身へと突き刺さっていた。肩や脇腹以外にも、眼球や心臓付近にも破片が食い込んでいて、これが人間だったならば間違いなく相手は行動不能になるか、致命傷を負っていたような、そんな破壊が現に目の前では起きている。

 だがそれでも、相手の内臓の隙間、そこに収まる核にだけは、撃ち込んだ小太刀の破片は届いていない。


(とっさに腕で、自分の核だけは守った、ということでしょうか)


 左手に持っていた刀の残骸を手放し、切り付けられた胸に手を当てて、流れ出る血が手の平を濡らすのを感じながら、静は自分が相手を仕留め損ねた理由をそんな風に分析する。


 相手がいくら人体を模していようとも、作り物の人形である以上、核を破壊できなければ意味がない。たとえどれだけの傷を負おうとも、核以外に内蔵のような重要器官を持たず、一滴の血も流れない人体模型には痛くもかゆくもないのだ。

 その点、今のこの状況は、生身の、肉体的にはか弱い少女である静との差が如実に表れた結果とも言える。


(やれやれ、いよいよ、厳しい状況ですね……)


 そう思いつつも、それでも静はふらつく体で立ちあがる。

 胸の傷をはじめ、全身に受けたダメージのせいなのか思考が鈍い。胸の傷も致命傷とまでは言えないもののようだが、決して浅くないその傷が熱を持ち、出血という形で静の体力をじわじわと奪っている。


 武器はもはや右手に握る十手のみ。一応呪符は残っているが、この距離ではやはり素早いこの相手に使うのは難しいだろう。思い切り距離を取れるなら話は別だが、やはりここは残る十手一本でこの状況を打破するしかない。

 と、受けたダメージ故にぼんやりとした思考で、それでも折れることなく静が武器を構えた、その直後。



『お……い、せっか…………あげ……て言……に、存……ら忘れ……んてひどい……な……ね』



 ふと、自分の背後、ほとんど耳元に近い位置で、途切れ途切れの奇妙な声が、しかし確かに耳へと届いた。


(――え?)


 敵がいる目の前で、静が反射的に振り向かずに済んだのはある種の奇跡と言ってもよかった。

 突然背後から声をかけられた。そんな感覚を確かに覚えて、しかし静がいかに背後に意識を向けても、そこに誰かがいるような気配は全く感じない。


 今のはいったい何なのかと、静が声の正体を探ろうと周囲の気配に神経を研ぎ澄まして、そうしたことで静は、声とは別にもう一つ、周囲の状況に変化が起きていることに気が付いた。


(音が――)


 足元、正確にはその下の階で、先ほどまでそこから聞こえていたはずの爆音の連続がいつの間にか止んでいる。

 それが意味する戦闘の決着を予想して、ではいったいどちらが生き残ったのかと、そんな思考に意識がたどり着いたちょうどそのとき、まるでその答えを示すように暗い廊下に光明が輝いた。


「起動――【光芒雷撃レイボルト】」


 聞き覚えのある声と共に、静のいる二階の廊下をまばゆい光が照らし出す。


 まるで電撃を固めて照明にしたような雷光の輝き。

 空中に浮かぶ六つの光源に照らされて、見覚えのある姿が階段のそばに、息を切らせ、汗を滴らせた少年が一人立っている。

 その両手に武器はなく、あるのは彼のスマートフォンと、そして見覚えのある一冊の小さな魔本。


「互情、さん――」


 静のいる位置からは見えるはずもなかったが、その少年、互情竜昇の握るスマートフォンには、つい今しがた通知されたばかりのメッセージが、二つ並んで表示されていた。



『【魔本スキル】を習得しました』

魔法マジック・【光芒雷撃レイボルト】を習得しました』

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