24:実力差
竜昇からその怪物的な才覚を評価され、実際その才覚によってさまざまな敵を跳ね除けて来た静ではあるが、しかしかと言ってあらゆる能力で竜昇を凌駕しているのかと言われれば実はそんなことはない。
身体能力一つ見ても、【纏力スキル】を使わない、純粋な筋力では男である竜昇には一歩劣るし、体重の軽さなども相まって、先ほどのゴーレムに対してそうだったように、高い威力を出さなければいけない局面ではそれ相応にスキルやアイテムを組み合わせて無理をしなければならなかったくらいだ。
刀を手に入れはしたものの、それを扱う知識や技術はないためスキルによってそれを補っている状態だし、それを言うならばそもそも戦闘に用いられるような、武術的な下地を静は一切持っていない。
ではいったい、彼女の強さの根底にある、強さの秘密とも言うべき能力は何なのかと問われれば、『彼女は相手の攻撃を見切って躱す』という、そのための能力が総じて高いのである。
主だったものを上げるならば、テニスで鍛えた動体視力と、瞬間的に物事を判断する判断力、そしてその判断に従い、体を動かす運動センスと言ったところだろうか。
これらは元々、こうして不問ビルに入る前からテニスなどでも力を発揮していた能力で、だからこそ彼女はテニスに限らず様々なスポーツに置いて頭角を現すことのできた選手だったのだが、逆に言えば静がこのビルの中で発揮している才能というのは、そうしたスポーツの中で彼女が発揮していたものを転用しているだけだとも言ってしまえる。
まるで飛んでくるボールを打ち返すような感覚で、静は自分に迫る攻撃を的確に見切って、判断し、対処できてしまう。
攻撃に脅えて反射的に目を閉じてしまうようなこともまるでなく。とっさに手足を盾にして、犠牲にしてしまうような愚も犯さずに、今日初めて手にしたばかりの武器でもってして、迫りくる攻撃の数々に冷静に、的確に対処する。
あるいは、自身の命を脅かす攻撃を、飛んでくるテニスボールと同列に考えられてしまう静のメンタリティこそが、彼女の高い能力を根底で支える最大の武器と考えればいいのか。
「――フゥッ」
だからこの時、静目がけて飛んできた羽の刃、それに対して静がとった対処法も、至ってシンプルなものだった。
三つの金属音が連続で響き、静の足元に音と同じ数だけの、鋼の刃がまき散らされる。
視線の先、金属でできたカラスのような召喚獣、それが飛ばしてきた羽の刃を、静の十手と小太刀があっさりと叩き落して見せたのだ。
怯むことも恐れることもなく。あまりにも簡単そうなあっさりとした態度で。
(さて――)
眼前の敵を見据えて、すぐさま静は革靴で床を踏みしめ、並ぶ三体の敵の内の本命目がけて武器を構えて走り出す。
狙うは一体、中央で呪符を構えたままなぜか先ほどから動かない陰陽師のみ。
他二体がこの陰陽師によって生み出されている以上は当然の判断だが、当然他の二体がそれを座して見守るはずもない。
静が一歩目を踏み出したその瞬間、陰陽師の前に蜘蛛が割り込むように立ちはだかり、自身の前足を茨の鞭とし、静目がけて叩き付ける。
両側から斜めに打ちつけられる茨の鞭。直撃すれば皮膚を引き裂き、無残な傷跡を刻むだろう攻撃を、静はやはり恐れることなく迎え撃つ。
右手の鞭の下をくぐるようにしてそのまま走り、途中で軌道を変えてしつこく追いすがる左の鞭を左手の刀で叩き落とす。
「――ふむ」
手に返る手応えに、しかし静は思わずそう声を漏らした。
刀で迎撃する以上はこんな茨など切り落としてしまうべきだと思っていたのに、しかし実際には茨を叩き落とすだけに留まり、切り落とすには至らなかったのだ。
(……なるほど、やはりこれは難しい)
いかに優れたセンスを持っているとは言っても、日常のスポーツの延長で武器を振るっている静にとって、刀の扱いというのはさすがに未知の領域だ。
硬くて細長いラケットで、鋭いボールを叩き落とせてしまう静ではあるが、しかしそれだけではなく、刀をラケットの一種ではなく刃物として使おうと思うならば、やはりと言うべきかそれ相応の練習か慣れがいる。
だからというべきなのか。
叩き落とした茨が再び地面から跳ね上がり、同時に先ほど躱したもう一本も今度こそ静を捕らえんと襲い掛かって来るそんな状況で静が抱いたのは、いっそのんきと言ってもいいそんな感想だった。
(……ちょうどいい)
心の中で独り言ち、静は十手と刀で立て続けに襲い来る鞭を叩き落とす。
蜘蛛の方も本気になったのか、攻撃に回す足の数を二本から四本に増やしてきたが、しかしそれでも静の余裕を突き崩すには至らなかった。
続けざまに襲い来る三本目の茨をステップ一つで回避して、続く四本目に刀を合わせて今度こそ切り落とそうと試みる。
結果は失敗。ただし、今回は単純に叩いたのとは少々違う、茨の半ばまで確かに刃を入れる、ちゃんと斬りつけたような手ごたえがあった。
(……なるほど)
次々と襲い来る茨に対して、静は刀の扱いを試すようにしてそれらを次々に迎撃する。
試して、斬りつけて、迎撃する。刀が間に合わない場合は十手で叩き落とし、危険を感じればステップ一つで一度その場を退避して、そうして攻撃からうまく逃れながら、時折走らせる刀による一閃で何とか茨を切断せんと試みる。
途中で何度か、翻ったスカートを茨がかすめたがあまり気にならなかった。ただ茨に武器を絡めとられないようにだけ注意して、静は敵の攻撃を相手に手にした武器の扱いを試し続ける。
そして、それに成功するまでにはそれほど時間はかからなかった。
振りぬいた刀が確かな手ごたえと共に伸びて来た茨をあっさりと切断し、切り落とされた先端部分が背後の床に落下して動きを止める。
(……少し、コツがつかめてきましたね)
難しいと言われる刀の扱いを短時間の間に瞬く間に学習しながら、しかし静はそんなことを誇ることもなく、自分が切断した茨とその大元である蜘蛛の前足を観察する。
案の定、切断された茨の前足はすぐさま再生された。自由に伸ばせるのならば切り落としてもあまり意味はないのではないかとそう思って注意を向けてみたのだが、どうやらそうした懸念は完全に的中してしまったらしい。
(やはりあの蜘蛛はむやみに相手をするだけ無駄なようですね)
そう分析し、静はまあいいと変わらぬ状況をそう判断する。
とりあえずコツはつかめた。後はもうむやみに練習などせず、一気に勝負を決めにかかるべきだろう。
そう考えて、しかし静は次の瞬間には思い直して直前までいたその場所から飛び退いた。
直後、静が直前までいたその場所に先ほどと同じカラスの羽が突き刺さり、最後に飛来した一本を静が変わらず十手を用いて叩き落とす。
金属が床を跳ねる音がして、床に転がった羽の刃が黒く鋭い光を反射する。
(――これは)
視線をやれば、陰陽師のそばで羽ばたくカラスが、自身から散った羽をまるで集めるようにして、自身の目の前に一本の杭を生成している。どうやら羽の一本一本をナイフとして飛ばすのではなく、先ほどのようにそれらを一本の杭へと変えてこちらに撃ちこんで来るつもりらしい。
数が減るということは当然対処も容易になるように思えるが、しかし一本に集約されることによるメリットも当然のように存在している。
(あれを止めるのはさすがに無理でしょうか)
竜昇のシールドを貫通し、手傷を負わせたその事実を思い出し、静はとっさにその場を飛びのいて打ち込まれる金属杭を回避する。
直前に立て続けに攻撃を受けてヒビが入っていたといは言え、シールドを貫通せしめたことから考えても杭の貫通力は恐らく相当に高いのだろう。しかし面ではなく一点への攻撃、しかも一直線に飛んでくるため回避そのものはそう難しくない。少なくとも静にとっては、軌道が読みやすい攻撃というのは十分に対処できる範囲のものだ。
ただし、それはあくまで相手がこのカラスが一体だったならばの話だ。
杭を回避し、飛び込んだその空間には、すでに蜘蛛の手足から伸びる茨が静を絡め取ろうと待ち構えている。
(そう来ますか)
思いながらすぐさま十手と小太刀で伸びる茨を迎撃、四本の鞭の内二本を十手で弾き飛ばし、三本目を刀で斬り落として四本目も切り落とそうと刃を振るう。
だが刃を返すのが一瞬遅く、三本目を切り落とした直後の刀に四本目の茨が絡みつき、静の武器とその動きを一瞬ではあるが確かに静止させていた。
同時に、茨を振るう蜘蛛が動きを止め、替わりにカラスが静目がけて羽の刃を射出する。
(――これは)
その様子に一つ得心し、静は十手と小太刀、両手の武器に同時にありったけの魔力を注ぎ込む。
直後に左手の刀を手放し、右手の十手を迫りくる刃の群れの、ちょうど真ん中を通り抜けるように一閃させた。
「――なっ!?」
背後から竜昇の驚く声が、そして至近からは重いのもが落ち、金属同士がぶつかる連続の音が耳へと届く。
左手、【加重の小太刀】は与えられた魔力によってその重量を増大させ、その落下によって自身を絡めとろうとしていた茨の先端を押しつぶし、逆に床へと押さえつけていた。
そして【右手の磁引の十手】。こちらでは静を狙って放たれたはずの四本の羽が、刃としての性質を保ったままぴったりとその側面に張り付いていた。
まるで磁石に吸い付く鉄くぎのように。
十手一本で撃ち落とすことなど不可能なはずの四本もの刃を、十手の特殊効果によって生まれた強烈な磁力によって一網打尽にし、静は追撃の鉄杭を発射せんとするカラスにチラリと一度視線を向ける。
「いいのですか――?」
否、視線を向け、声をかけた相手は、そのカラスの“向うにいる”陰陽師の方か。
「―-今操作するのがそちらのカラスの方で?」
言ったその瞬間、飛んできた鋼の杭を、静は難なく躱して蜘蛛の方へと手にした十手を振りかぶる。
対して、突然矛先を向けられた蜘蛛は瞬時には動けない。蜘蛛を背後で“直接操作しているだろう”陰陽師がカラスによる攻撃を優先してしまったがゆえに、その攻撃を避けられてしまった今、茨の蜘蛛は無防備なただの的だ。
(――磁力解放)
振りぬく瞬間に十手に流す魔力を途絶させ、十手の磁力から解放された刃が突然自由を得て蜘蛛の元へと飛んでいく。
投擲スキルの恩恵によって真っ直ぐに放たれた四本の刃が、狙いたがわず蜘蛛の頭や胴に次々と突き刺さり、そのうちの一本が体内にあった呪符を貫いて、核を失った茨の蜘蛛がまるで枯れて朽ち果てるようにして空気に溶けるように消えていく。
「おかしいとは思っていたのです。先ほどから三体がかかりで攻めようと思えばできたはずなのに、あなた方は蜘蛛にばかり戦いを任せて、ほとんど攻撃を仕掛けてきませんでしたから」
足元の小太刀を蹴り上げて己の手に戻しながら、静は冷静に相手の召喚術の限界を読み図る。
「同時に動かせるのはせいぜいに二体、しかも細かく操作したり狙いを付けたりするとなれば一体に集中せざるを得ない、と言ったところでしょうか。そう考えるとこの召喚魔法というもの、指示に従う別の生き物を増やすというよりも、自分で動かせる新しい体を用意する魔法と考えた方がいいのかもしれませんね」
どこかにいる配下の生物を呼び出すのではなく、自分で操る新しい体をその場で作る召喚魔法。いや、そう考えればもはやこれは召喚と呼ぶのも少し違うのかもしれない。そんなことで少し悩んだが、静はすぐにそんな思考を不毛なものだと切り捨てた。今は考えるより先にやることが山のようにある。
「さて、残る貴方の手駒はカラス一体、いえ――」
言っているそばから、陰陽師が床に呪符を投げ放ち、その呪符が大量の水に包まれて流水でできた大蛇に変わる。
前兆十メートルにも上ろうかという巨大な蛇身が鎌首をもたげ、空中のカラスと並んで陰陽師を守るように立ちふさがる。
「もう一体、今度は水の蛇ですか。もしかすると五行思想というものに対応しているのでしょうか?」
うろ覚えの知識でそう問いかける静の言葉など意に介さず、鎌首をもたげた大蛇が素早く地を這うようにして少女目がけて襲い掛かる。
(嫌な動きを――)
うねる蛇の動きにそう思いつつ、それでも静はその動きを的確に見切って飛び掛かる蛇身を横っ飛びに回避する。
確かに見切りにくい動きだが、それでも冷静でいられれば対処しきれない相手ではない。そして冷静さを保つという行為は、静にとっては性(さが)にも等しい特技の一つだ。飛び掛かる蛇の頭部が真横を通り過ぎるのを横目に見ながら、静は冷静そのものの判断で左の刀を振るい、そこにある蛇の胴体を斬りつける。
だが。
(――なるほど。体は水でできているから、斬りつけても無駄ですか)
振るった刃が水流の体を通り抜け、何事もなかったように蛇がこちらに頭部を向けなおすのを観察して、静はこの相手に対する対処法の、その方針を一度改める。
見れば、先ほど回避した際に後ろにあったものを飲み込んだのか、透明な大蛇の体の中には順路案内の立て看板が浮かんでいた。看板はしばしの間蛇身の中でもてあそばれるようにくるくると回っていたが、やがて蛇に邪魔だと判断されたのか胴体の真横から放り出されるように外へと排出された。
(――つまりはこの蛇の役割は私への攻撃ではなく捕縛、水の中に私を飲み込んで捕まえて、無防備になったところをカラスが狙う算段でしょうか)
相手の意図をそう予測して、静は左手の刀を口へとくわえて、空いた手でウェストポーチの中身を探る。すぐに取り出せるように整理された中身を瞬時に取り出すと、再び襲い来る大蛇を回避して振り返り、左手に取り出していた古銭を勢いよく投げつけた。
狙いはこの敵たちの本命である陰陽師。電撃を込めた投げ銭は茨の蜘蛛にこそ効果は薄かったが、陰陽師本体ならば当てればそれ相応のダメージが期待できる。
対する陰陽師は、静のその対応を半ば程度には予想していたのだろう。すぐさま本体へと意識を戻すと、その場を飛び退いて自身を狙う投げ銭を、その場から飛び退くようにしてどうにか回避した。
ただし静にとっても、その対応はきっちりと予想済みだ。
「水の体というのは確かに厄介ですけど――」
言いつつ、敵の注意が大蛇から陰陽師本体へと戻った一瞬の隙を突き、静は走って、同時に左手に取り出しておいたもう一つの武装を投擲する。
狙いは大蛇の尾、そこに確かに存在する一枚の呪符。
静からの攻撃を警戒して離れた位置に配置していたようだが、召喚獣の制御を切り替える一瞬の隙を突かれては流石に対応しきれない。
「――その体、弱点が丸見えですよ」
核となる呪符をナイフによって貫かれ、慌てて襲い掛かろうとしていた大蛇の体が蒸発するように消えていく。
立ち込める蒸気の壁を突き抜けて、静は容赦なく次の獲物、空中に浮いて陰陽師の直接操作を待つばかりとなっていたカラスの元へと肉薄する。
慌ててカラスも杭の射出による迎撃を試みるが、静を相手取るにはその対応でもすべてが遅い。
射出された杭を余裕を持って回避して、静は替わりとばかりに一気に懐へと潜り込んで右手の十手に魔力を込める。
「―-磁引」
突きつけた十手が磁力を伴い、それによって金属でできたカラスの体が抵抗虚しく十手の元へと引き寄せられる。
金属がぶつかる音と共に十手がカラスの自由を奪い、その体を十手にくっつけたまま、静は最後の獲物へと攻撃の狙いを定めて己の武装を振りかぶる。
狙われたカラスを回避不能と切り捨てて、ならば諸共魔法によって一掃しようとその手に火球を準備する、最後に残った陰陽師の本体へと。
「――磁力解放」
【剛纏】によって強化された腕力に任せ、まるでテニスのラケットでスマッシュでも打つように、静は十手を振り下ろしてそこにくっついていたカラスの体を強引に投げ放つ。
狙いはもちろん陰陽師、ではなく、その右腕から今まさに放たれようとしていた火球の方だった。
カラスの体が陰陽師の手の先、そこに形成されていた火球に激突し、それによって陰陽師の至近距離で魔法が暴発してカラスの体と主の右腕を木端微塵に吹き飛ばす。
「シールド」
左手の籠手から展開されたシールドにカラスの残骸が激突するのを感じながら、静は構わず走って一気に陰陽師のものへと走り寄る。
左手に取った刀腰だめに構え、どうにか立ち上がろうともがく陰陽師に狙いを定めて、その顔面の核へと目がけて手にした刃を突き入れる。
「そう言えば、火の担当だけは貴方自身がされているのですね」
ふと、どうでもいい疑問が頭をよぎって、静は試しに本人へとその是非を問いかける。
「炎だけ召喚獣でないのは、炎だと
当然投げかけられた問いに対して、陰陽師は何も答えない。
答えなど返せるはずもなく、核を貫かれた陰陽師はこれまでの敵たち同様、その体を煙と変えて、やはりこれまで同様そのままなす術もなく消滅した。
(……ふぅ。少しおしゃべりしすぎたでしょうか)
敵の消失を確認し、静はすぐさま刀と十手を腰へと戻す。
なんだかずいぶんと気分が乗っていると、充実感を感じている自分を自覚して複雑な気分になったが、しかし現状はいつまでも一人感傷に浸ってはいられない。
とりあえず敵を倒すことに専念し、それに成功した静だったが、背後ではまだ竜昇が腕の手当てを待っているのである。自分で手当てできているならばそれに越したことはないが、怪我した個所が片腕ではそれも難しいだろう。
そう判断し、速いところ彼の手当てをせねばとすぐさま静は振り返る。
視線一つで竜昇の姿を探し当て、すぐさま壁際に下がっていた彼の姿を探し当てて――。
「――え?」
そして見た。思っても見なかった、しかし彼女の場合に限っては、最も恐れていなければいけなかったそんな光景を。
いつの間にか、ずいぶんと自分に都合のいい、酷い思い違いをしていたらしい。
目の当たりにしたその光景に竜昇は嫌というほどに、そのことを実感させられていた。
いつの間にか、自分が強くなったように思い込んでいた。
不問ビルの中で命を脅かす敵を幾度も破り、魔法を覚え、武器を手にし、なにより、小原静という圧倒的に強い存在とコンビを組めたことで、いつの間にか竜昇は、それによって自分までもが強くなれたような、そんなあまりにも都合のいい思い込みに陥ってしまっていた。
目の前の少女が、あまりにも簡単そうに敵の攻撃を掻い潜っているものだから、自分にもそれができるのではないかと、そんな風に錯覚してしまっていた。
実際には、それがどんなに難しい話であるか、頭ではわかっていたはずなのに。
それこそまるで、鵜の真似をする鴉のように。
ならばこそ、彼女の真似をして怪我をするのは、言ってしまえば当然の帰結だったのだ。
なにしろ竜昇には、彼女のようなセンスも能力も、そして度胸もありはしないのだから。
(ああ、本当に、俺って奴は……!!)
そうしてようやく竜昇は、自身の凡庸さを実感として理解する。
自分の不甲斐なさを思い知り、打ちひしがれる竜昇は、だからこそ自分に向けられる、一つの視線に気づかない。
まるで冷や水を浴びて凍り付いたような、表情を変えぬままに固まる静の視線に。
彼我の実力差を目の当たりにして、それにショックを受けていたのは、なにも竜昇一人に限った話ではなかったのだという、そんな事実に。
互情竜昇
スキル
魔法スキル・雷:13
護法スキル:8
守護障壁
探査波動
装備
再生育の竹槍
小原静
スキル
投擲スキル:8
投擲の心得
纏力スキル:7
二の型・剛纏
四の型・甲纏
装備
磁引の十手
武者の結界籠手
小さなナイフ
永楽通宝×10
加重の小太刀
保有アイテム
雷の魔導書
黒色火薬
集水の竹水筒
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