18:纏力スキル

 前の二体、浪人と農夫のドロップアイテムがたいして使えないアイテムだったのに対して、幸いなことに巨大大名からドロップしたアイテムはだいぶ戦力として使えそうなものだった。


 スキルカード、それも恐らくは相当に有用なスキルである。


 表示される名前は【纏力スキル】。力を纏うとそう書かれたスキルの絵柄は、人間がオーラを纏っているような、先ほどの大名との戦闘時に最も厄介だった能力を彷彿とさせる代物だった。

 そしてもう一つ。それどころではなかったため確認していなかったが、足軽の消滅した後にも、一つアイテムと思しき袋が残っていた。


「とりあえず適当なジオラマの中で話し合いましょう。またどこかから狙撃でもされたら面倒です」


 静の提案に従って近くの蕎麦屋の家屋の中へと入り込み、扉を閉めてとりあえずの隠れ場所を確保する。一応家探ししてみたが、どうやらこの家屋、蕎麦屋とは言っても完全にただの見かけだけのジオラマらしく、中に当時の人間のマネキンが置いてあったくらいで食料品となりそうなものは見つけられなかった。

 気を取り直して奥の座敷へと上がり込み、そこで問題のドロップアイテムにスマホを向けて、とりあえず解析アプリを起動する。


「袋の方のアイテム名は【黒色火薬ガンパウダー】。どうやら中身は文字通り鉄砲に使う火薬のようですね」


「また扱いに困るものがドロップしたな……」


 普通に爆薬と考えるならば武器の一種ではあるのだろうが、かといってこんな火薬だけを渡されても少々扱いに難儀する。

 なにしろ火薬というのはただの材料であって、このままぶつけて爆弾として使えるわけではないのだ。そもそも爆発物の扱いに心得などない竜昇たちにとって、こんな物だけがドロップしても使いにくいことこの上ない。


「黒色火薬の威力というのはどのくらいの物なのでしょう? 一度火をつけて試してみるという手もありますが……」


「それ、間違いなく危険だよな。よい子はマネしちゃいけない事案のトップに来る事柄だよ」


 少々危ないことを検討する静かに、竜昇はそう言って一度この事案を棚上げにする。

 なにしろ今扱いを検討しなければいけないドロップアイテムは火薬だけではないのだ。


「んで、こっちの【纏力スキル】か……。えっと、使用できるようになる初期アビリティは、【二の型・剛纏】と、【四の型・甲纏】……?」


 まずはわかりやすい方から対応しようと解析アプリを使用して、表示された二つの技表記に、竜昇と静はそろって首をかしげる。


「二の型と四の型……。なんで一と二ではなくこんな半端な数字なのでしょう?」


「……わからない、けど……、この二つのアビリティ、たぶんさっきの大名が使ってたオーラみたいな能力のことだよな……?」


 技名から考えて、【二の型・剛纏】が怪力を発揮するための赤いオーラ、【四の型・甲纏】が駕籠にかけられていた黄色いオーラのことなのだろう。アプリには名前しか表示されていないため効果は推測するしかないが、幸い先ほど大名が使っているのを見ているため名前だけでもある程度推測はできる。


「となると、やっぱりこのスキルは小原さんが習得するべきかな」


「私でよろしいのですか? まあ、確かに怪力と頑丈、そんな要素を自分に追加できる力ならば、か弱い乙女をか弱くなくすることもできますが……」


 冗談めかした口調でそう語りながら、静は竜昇から差し出されたカードを眺めてしばし思案する。

 竜昇としてはあれだけの立ち回りをしてのけた静が、自身のことをか弱いと評するのにはそれなりの違和感を覚えたが、しかし実のところ、静についてはか弱いという表現もあながち冗談とばかりも言いきれない。

 確かにこれまで天才的な判断と戦闘センスを見せつけて来た静ではあるが、しかし彼女も身体能力に関していえば常人のそれと変わらない。

 テニスをやっていたということだから、それなりのレベルではあるのだろうが、それでもあくまで常識の内での話だ。単純な身体能力、特に筋力やパワーという意味では、恐らく竜昇の方がまだ高いくらいなのではないだろうか。


(まあ、それであれだけ強いって言うのは、やっぱり信じがたい話ではあるんだけど……)


 もちろん、未だ静が何らかの訓練を積んだゆえのあの強さであるという可能性は残っている。

 先ほどの大名との戦闘で、あんな相手への対応は格闘技の訓練ではできないと、そう判断した竜昇だったわけだが、冷静に考えるなら格闘技以外の、それこそスタントマン染みた訓練でも行っていればあんな動きも可能かもしれないのだ。

 だが、そんな冷静な視点も、今の竜昇にはすでに彼女の才能を認めないための、疑わしい言い訳のようにしか思えない。

 理屈の上ではまだ否定の要素はあるのかもしれないが、しかし竜昇はもう彼女の異常な才能を理屈を超えた実感として認めてしまっていた。


「わかりました。ではこの【纏力スキル】は私の方で習得させていただきます」


 そんな竜昇の内心などつゆ知らず、静はわずかな時間考え込んだだけで、すぐさま竜昇に対して了承の返事を返してくる。

 竜昇が手にしていたカードを受け取り、すぐさま自分のスマホをカードに向けると、解析アプリに認識されたカードが光の粒子へと変わり、目の前にある静の体へと吸収され始めた。

 ある種幻想的な光景はほんの数秒、それの終わりまでをしっかりと見届けて、竜昇はすぐさまその結果を静に対して問いかける。


「どうだろう。無事習得できたのか?」


「ええ。確かに習得できています。【纏力スキル】レベルは5で、習得している能力アビリティは【二の型・剛纏】と【四の型・甲纏】、ですね」


「そこは事前情報通りか。それにしても、やっぱりレベルは1からじゃないんだな……」


 先ほどの僧侶からドロップした【護法スキル】も、レベルは最初から4で技も【探査波動】と【護法結界】の二つが同時に初期スキルとして設定されていた。

 またも存在する不可解なレベルからのスタート。しかも今回は、習得した技すら一と三の型をすっ飛ばした、半ばつまみ食いの様な習得の仕方である。一度は情報不足で考察できなかった問題だが、やはりこうして改めて突きつけられると気にもなる。


「一応確認だけど、習得した技はやっぱりさっきのオーラ系二つってことでいいのかな?」


「……ええ、そのようですね。やはりと言いますか、【剛纏】が身体強化、【甲纏】は……、なんと言えばいいのでしょう、破壊耐性とでも言えばいいのでしょうか。単純な硬質化とは少し違うようですが……」


「となると、やっぱりこのレベル、さっきの大名が習得していたときのレベルを引き継いだってことなのかな……。ああ、そうだ。スキルというなら小原さん、他のスキルはどのくらいレベル上がってた?」


 スキルシステムについての思考していて確認しておかなければいけないことをもう一つ思い出し、慌てて竜昇は静にそう問いかける。

 実のところ、竜昇たちが最後に自分たちのレベルを確認したのは、長屋を出発するその前が最後である。竜昇としては先ほどの農夫と浪人を倒した段階で確認しておきたかったのだが、そうする前に足軽による狙撃を受けてしまって見られないままになってしまっていたのだ。


「私の投擲スキルはレベル6です。先ほど確認したときが3でしたから、レベルは三つも上がったことになりますね」


「……レベルは三上昇か。倒した敵は計四体、いや、小原さんの場合足軽退治には参加してないから三体か。一致すると言えばこれについては一応一致してるんだよな……」


 静の場合遭遇した敵の数こそ浪人、農夫、足軽、大名の四体だが、足軽についてだけは大名の足止めに回った関係で討伐に参加していないため、実際に倒すのに参加した敵の数は三体ということになる。もっとも、その三体に関しては全て静がとどめを刺しているし、それ以前にも静は岡っ引きと黒武者の二体に止めを刺している。実際に倒した敵の数が五体で、上昇したレベルの数も五となれば、そこに何らかの因果関係が見いだせそうなものなのだが。

 しかしそれは実のところ、問題を静の投擲スキルに限ればの話だ。

 当然、スキルを保有しているのは静だけではなく、レベルが上がっているスキルも投擲スキルだけではない。


「そう言う互情さんはどうだったのですか……?」


「それが……」


 静の質問に、しかし竜昇はすぐに答えを返せず口ごもる。

 別に隠さなくてはならない理由はないのだが、しかしこの事実を他でもない静に告げるのはどうにも決まりが悪かったのだ。

 とは言え、流石にこの事実をいつまでも隠し続ける訳にもいかない。

 観念し、竜昇は先ほども確認した自身のステータス画面を呼び出して、静の方に向けて判断を仰ぐ。


「魔法スキル・雷がレベル13……、護法スキルが、レベル7……、ですか?えっと、確か先ほど魔法スキルのレベルが8でしたから……、五つもレベルが上がったのですか?」


「……そう、なんだよな」


 しかももう一つの護法スキルにしたところで、レベル4からの上昇なので静の投擲スキルと同じく三つのレベル上昇である。

 もちろんレベルが上がったこと自体は喜ばしい事なのだが、しかし一方でこれらの事実によってスキルレベルの上昇理由が余計にわかりにくくなってしまっているというのも事実である。加えて言うなら戦闘の大部分を静に依存し、大して活躍して来たとも思えない竜昇が静よりレベル上昇が大きいというのも少し決まりが悪い。

 あまり勝利に貢献できていない竜昇としては、危険だけを押し付けて報酬だけをかっさらって言ったかのようで、申し訳ないような気分を禁じ得なかったのである。


「それにしても、二つのスキルがある互情さんの中でも、スキルによってレベルの上昇速度が違うのですね……。やはりこれは、単純に使用した回数や倒した相手の数とは関係が無いということなのでしょうか……」


 とは言え、そんな竜昇のレベル上昇に対しても、特に静は思うところは無かったらしい。

 特に不満のようなものを口にすることもなく、ただ淡々とスキルシステムの規則性についてを分析し続けている。


「ダメですね。倒した敵の数、スキルの使用回数、他にも思い出せる限り思い出しては見ましたけど、どうにも規則性のようなものは見つけられません。あるいはそれぞれがそれぞれ、別々の条件で数字が変わっているのかもしれません」


「……確かに、ゲームによってはそう言うシステムもあるんだよな……」


 実際そう言うゲームを竜昇はやったことがある。成長の条件が違っていたり、あるいはレベルアップのために必要な経験値に差があったりというのは、『スキル』という呼び名にこだわらなければいくつも思いつくパターンだ。

 結局、竜昇はまたもこの問題を棚上げにすることにして、最後に残ったドロップアイテムの問題へと着手する。


「後の問題は、この【黒色火薬】の方だけど……」


 そう言って、竜昇は手元に残ったもう一つのアイテム、【黒色火薬】の活用法を吟味する。


 先ほどもドロップしたアイテムの内、【清酒】と【反乱の鍬】という二つのアイテムをその場に放棄してきた竜昇たちだったわけだが、しかしあの二つに関しては明確に使えないと断ずるだけの根拠が有った。だからこそ捨てていくことにも大きな葛藤は覚えなかったわけだが、しかしそういう意味ではこの【黒色火薬】というアイテムは少々厄介でもある。


 なんとか活用できればかなり有用な武器なのだが、しかし扱うだけの知識がある訳でもない。当然武器に変える材料などもなく、活用が難しいアイテムならば捨てた方がいいかとも思ったのだが。


「ひとつ提案が有ります、互情さん」


 捨てる決断を下しかけた竜昇に対して、静がそんな言葉を投げかけて来た。


「その火薬の使用法ですが、先ほどあった展示の中に使えそうなプランが有りました。まだ一つ材料が必要にはなりますが、そろったら作ってみるのも悪くないかと」


「……え? 展示って……、この状況で博物館の展示にまで目を通してたの?」


「ええ。どうせ来たのなら見ていくのも悪くはないかと」


 竜昇の反応に、まるで当然とでもいうように静がそんな反応を返してくる。

 肝が太いにもほどがある。その精神性は頼もしすぎて、そして少し怖かった。





互情竜昇

スキル

 魔法スキル・雷:13(↑)

  雷撃ショックボルト

  静雷撃サイレントボルト

 護法スキル:7(↑)

  守護障壁

  探査波動

装備

 再生育の竹槍



小原静

スキル

 投擲スキル:6(↑)

  投擲の心得

 纏力スキル:5(New)

  二の型・剛纏(New)

  四の型・甲纏(New)

装備

 磁引の十手

 武者の結界籠手

 小さなナイフ



保有アイテム

 雷の魔導書

 黒色火薬(New)

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