11:戦力会議
新たに習得した魔法、【
「電撃を潜ませる、というのは、具体的にどういうものなのでしょうか? 私には、どうにもピンと来ないのですが」
「そうだな、具体的には静電気をイメージすると分かりやすいと思う。得になんのへんてつもない物なのに、実際にさわるとバチッっと来るみたいな」
「……なるほど、つまりその魔法をかけた物体に触ると、その触った相手が感電する、といった効果でしょうか」
「その通りだ。ただし威力は静電気の比じゃない」
静電気もあれはあれで結構な電気ではあると聞いたが、しかし実際に人間に及ぼす影響は、それこそ『あイタッ!!』の一言で済ませてしまえるレベルだ。
だが【
「かなり使い勝手のいい魔法だよ、これ」
頭に思い浮かぶその使用法の多さをかんがみて、その応用性の広さに竜昇はそう断言する。
とは言え、スキルによって直接知識を得られた竜昇と違い、静の理解には流石に伝聞情報であるが故の限界がある。
特にこの魔法の場合は、当然のように懸念される事項というものが存在していた。
「一つ確認しておきたいのですが、その魔法を使った物品、私が触ってしまった場合はどうなるのでしょう? それによっては私も戦うなかで気を付けなければいけないことが増えてくるのですが……」
「ああ、それについてはこっちも気になったんで記憶を探っておいた。結論から言うと、やっぱり普通に魔法をかけた状態だと味方が接触しても感電するらしい」
「そうですか」
竜昇の説明に、静は落胆の様子は見せず、ただ事実を受け止めるような反応を示す。実際彼女の方でも、ある程度使い方を考えていたのだろう。竜昇の説明は彼女の中の案を一部否定するものだったわけだが、だからこそ竜昇には次の事実を彼女に告げられるのが嬉しかった。
「けど、一応感電しないようにする方法もある。一つにはこの魔法の特性として、物体に魔法をかけた際にその物体に接触していた対象には、一度その対象から離れない限り発動しない。つまり持ち物を持ったまま魔法の対象として、その後それを持ち続けていれば感電することはないってことだ。
二つ目には魔法をかける際に、発動対象から除外したい人間の魔力を少し貰って発動に使う魔力に混在させておくこと。こうしておけば、術者とその協力者を魔法の発動対象から外すことができる」
「……なるほど、一つ目も有用ではありますが、やはり便利なのは二つ目でしょうか。その方法で武器などを強化すれば……」
「ああ。こっちの武器、例えばこの十手なんかを、一撃に限り電撃の追加効果付きのスタンバトンに変えることができる」
そう言って、竜昇は二人の間に置かれた二つの物品のうち、その片方である【十手】の方へと意識を向ける。
この十手ともう一つは、先ほど僧侶と岡っ引きの敵を倒した際、岡っ引きの方が残していったドロップアイテムだ。
少々想定したいた武器とは違うものではあるが、竜昇がこの二人パーティにまず必要と考えていたものの一つ、念願の近接武器である。
一応初戦での勝利により竹槍と言う近接武器を手に入れていた竜昇だったが、しかしそちらの供出は静自身からハッキリと断られてしまっている。
二度の戦闘の中でも実際にそうだったように、相手の攻撃を見切って回避するスタイルの彼女にとって、長く大きい武器というのは少々相性が悪い。
加えて言うなら所詮は“竹槍”なのだ。最初のもんぺ女の印象が強すぎたため忘れがちだが、その強度は相手の攻撃を防ぎきれるかも定かではなく、ともすれば一撃で叩き斬られてもおかしくない。彼女が竹槍を使わず即席ながらも小さく使いやすい花柄鈍器を選択したのは、合理性の面でも順当だったと言えるだろう。
そしてそう言う考え方をするならば、今回手に入れた十手というのは静が使うのにはまさにもってこいの武器だった。
「確認いたしますが、本当に私が使ってよろしいのですね」
「そりゃもちろん。さっきの戦闘でお手製の武器も使えなくなってしまったし、むしろ小原さんには早急に代わりの武器を装備してもらう必要があるから」
先ほどの戦闘で、彼女が巾着袋に砂利を詰めて作った即席の花柄鈍器は、まさにこの十手を使った技によって斬られて破れ、使い物にならなくなってしまっている。
そもそもが間に合わせの武器であるため、どちらにせよ遠くない将来に避けられない結末ではあったのだが、それでも失った武器の代わりとして十手と言う選択肢は悪くないどころか非常に魅力的だ。
十手と言うと時代劇などにおいて、岡っ引きが持っているイメージが強く、実際先ほどの敵もそのイメージを踏襲したような姿だったわけだが、ではなぜ岡っ引きが十手を持つのかと言えば、それは十手と言う武器が対刀用の武器であったからだ。
刀がまだ一般的だったそんな時代に、そんな刀を制圧するために使われていた武器である。これから先も刀剣の類を使う敵が予想される現状、その有用性は想像に難くない。
そんな武器を静に装備させない理由の方が竜昇には思いつかなかった。
「わかりました。いただけるというなら私にも異存は有りません。しかし、それならもう一つ、こちらのカードの方はどうしますか? それと棚上げになっていましたが、こちらの籠手の方、これも使用者はこのまま私でいいのでしょうか?」
そう言って、静は自身の左腕に着けたままとなっている籠手と、先ほどもう一体の僧侶型の敵からドロップしたもう一つのアイテム、表面に座禅を組んだ人影の絵と共に【護法】と書かれたカードを指し示す。デザインこそ違っているが、そのほかのつくりは竜昇が最初に魔法を習得した際に出現したカードと酷似しており、その点がこのカードの正体が新たなスキルを習得するための【スキルカード】であることを匂わせていた。
カードもそうだが、静が装備する籠手の方も話し合う時間が無く、とり合えずと言うことで暫定的に静かに装備させた代物である。先ほど発覚した籠手そのものの性能と言う点も含め、もう一度どちらが装備すべきかを話し合う必要を感じているのだろう。
「まあ、スキルはともかく、籠手に関してはそのまま持っていてもらってもいいと思う。ああ、でも、その前に一つ試しておいてもいいか?」
言いながら、竜昇はやってみた方が早いと自身のスマホを取り出し、勝手にインストールされていた最後のアプリをタップする。
虫眼鏡のようなアイコンがすぐさま起動し、表示されたカメラの撮影画面のようなアプリにやっぱりと言う感想を抱きながら、竜昇はとりあえず手近なものとして、自身のそばに置いてあった竹槍へとスマホを向けた。
即座に竹槍がスマホに認識され、思っていた通りに情報が表示される。
「……これは」
表示された情報に、隣からスマホの画面をのぞき込んでいた静が驚いたような、感心したような声を上げる。
竜昇としては情報が表示されたところまでは予想通りだったわけだが、しかし表示された情報はわずかながら予想外のものだった。
「【再生育の竹槍】……。特殊効果は『魔力と水を与えることで損傷しても元の形に成長する』、か。まさかこいつも特殊効果持ちのマジックアイテムだったとはな」
「互情さんは、これは要するに……」
「ああ。名前を付けるなら、定めし【鑑定アプリ】ってところなんだろうな」
先ほどは調べる前に敵が来てしまって試せなかったが、しかしこれがそう言うものなのではないかというのは、静とこの長屋で話し合い始めたあたりで推測していた。
その推測が当たっていたと判明した今、今度は先ほどのように余計な横やりが入る前に、考えられる可能性をあらかた試して確認しておきたいところである。
「では、互情さん、こちらを」
静にもその意図は伝わったのだろう。彼女の方もそう言って、自分の左腕につけられた籠手を竜昇の方へと差し出してくる。
「OK、表示された。名前は【武者の結界籠手】。特殊効果はやっぱり魔力を流すことで【守護障壁】を発動させることみたいだ」
「守護障壁、つまりは先ほどのシールドですね」
十中八九解っていた話ではあったが、やはり籠手の持つ能力は予想した通りのものだった。むしろこれによって、この【解析アプリ】の正しさのようなものがある程度証明された形になる。
そのことを確認しつつ、竜昇は今度は気になっていたもう一枚、僧侶からドロップした【護法】なるスキルカードにスマホを向ける。
「よし、こっちも認識した。【スキルカード・護法】、やっぱり【護法スキル】を習得するためのアイテムみたいだ。……あと、習得できるアーツだかマジックだかもさわりだけ書いてあるな。【守護障壁】に【探査波動】……」
「……なるほど、あの僧侶の方が使っていたのも恐らくその二つですね」
静の指摘を受け、僧侶に関する記憶を引っ張り出して竜昇は同意の頷きを返す。
【守護障壁】は言うに及ばず、【探査波動】の方も思い返せばあの僧侶は竜昇たちの目の前で使っていた。というか、隠れていた竜昇たちの居場所を探し当てた魔力そのものをぶつけられたようなあの感覚の正体が、今思えば件の【探査波動】そのものだったのだろう。
「あとは、この十手とナイフですね」
静が畳の上に並べた二つの武器に、竜昇はそれぞれアプリで鑑定士その結果を見聞する。
驚いたことに、ナイフの方はただの【小さなナイフ】と表示されたが、十手の方にはしっかりと魔法効果が付いていた。
「名前は、【磁引の十手】。特殊効果は、魔力を流すことによる金属の誘因性質……、とあるな」
「『磁引』で、金属、ですか。となると磁力を発生させる効果、という考え方でいいのでしょうか」
「多分そうなんだろうな。さっきはそれこそ、小原さんが使っていたのが袋に砂利を入れただけの金属に頼らない武器だったから使いどころはなかったんだろうけど」
十手についての解説を読み、これはこれで使いこなせれば相当に有用なアイテムだと実感する。特にこの効果は、竜昇が新たに習得した魔法とも相性がいい。
「さて、互情さん。とりあえずこの【護法スキル】と手に入れた武装類、私たちはだれがどのように使うべきなのでしょうか」
「……そうだな」
一通り表示される情報を吟味して、しばし竜昇は考える。
竹槍、ナイフ、十手の三つは、当初決めていた通り竜昇が竹槍、他二つは静の装備でいいだろう。残るは【武者の結界籠手】と【護法スキル】だが、こちらも落ち着いて考えればどちらをどちらが持つべき加はおのずと決まって来る。
「小原さん、この籠手とスキルのことなんだけど、【武者の結界籠手】はそのまま装備して、スキルはこっちに譲ってくれないか?」
「一応、理由を聞かせていただいてもいいですか?」
「まず一番の理由として、【
特に難色を示す訳でもなく、本当に理由を聞いておきたいという、そんな表情を見せる静に対し、竜昇も自身の考えを偽ることなく説明する。
「【
これが竜昇の考える二つ目の理由だった。加えて言うなら、自身で使う魔法としての守護障壁と違い、籠手で使うそれが魔力を流すだけで使える即応性の高いものであるというのも大きい。
「あとは、消極的というか消去法的な考え方だけど、メインウェポン的なスキルじゃないから小原さんの今のスタイルの補助にはならないからって言うのもあるかな。少なくとも無理をしてでも小原さんが習得しなきゃいけないスキルじゃない。だったら、先の二つの理由もかんがみて、こっちで譲ってもらいたいんだけど」
「そう……、ですね。私としても合理的な理由があるならそれで構いません。もとより私はすでに装備品を二つ、互情さんから譲っていただいている身ですし」
得に反対する理由もなかったのか、あっさりと静はそう言って、竜昇の方に押し出すように畳の上のカードを差し出してくる。
竜昇もうなずいて自身のスマホをカードに向けると、解析された情報の画面の端にあった『習得』のボタンをタップした。
とたんに、目の前にあったカードが光の粒子となって消え、その光の粒が竜昇の体の中へと消えていく。
「これでスキル習得、ですか。何とも、あっさりしていると考えるべきなのか、それとも超常の光景に驚くべきなのか、そのあたりに迷うところですね」
「まあ、俺みたいなのに言わせれば“らしい”とも言えるんだけどな。どれ……、ん?」
「どうかなさいましたか?」
スキルの習得状況を確認しようとスマホを操作し、現れたステータス画面を見て、思わず竜昇は考え込む。
竜昇の反応に興味を抱いたのか、横から画面をのぞき込む静に己のステータスを見せるが、静の方は竜昇が何に疑問を持ったのかわからなかったようだ。
ただ、それでも別にわからない部分はあったらしい。
「見たところ習得されてますね、【護法スキル】。そういえば、この横のは何の数字なんです?」
「……多分、レベルなんだと思う。思うんだが……」
静の質問に、竜昇はそこに表示される数字に若干の違和感を覚える。
レベルと考えるのは少々奇妙なことに、習得したばかりであるはずの【護法スキル】の隣には、しかし習得したばかりと言うには少々奇妙なことに、最初からいくつかレベルの上がった『4』という数字が記載されていた。
互情竜昇
スキル
魔法スキル・雷:8
護法スキル:4(New)
守護障壁(New)
探査波動(New)
装備
再生育の竹槍
小原静
スキル
投擲スキル:3(↑)
投擲の心得
装備
磁引の十手
武者の結界籠手
小さなナイフ
保有アイテム
雷の魔導書
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