第16話 飛竜と話しました
俺は地面に座り後ろに手をついて、スーッと吹き抜ける風の草花の香りを堪能していた。日も沈みかけており、山頂から見る景色は綺麗な朱色に染め上げられている。こういうものを実際に見ていると、郷愁にかられるのもわかる気がする。そんな風に少し切なさを感じる風景に浸っていると、横から声を掛けられた。
「あの、宜しいでしょうか?」
「ん? ああ、もう大丈夫か?」
今、俺の横には一匹の竜が佇んでいる。俺が叩きのめした飛竜である。俺の治癒魔法と竜族の自己回復力によりかなり回復していて、ステータス的には一割を切っていたHPが八割程まで回復していた。そんな飛竜が俺に頭を下げてきた。
「先程は無礼を働き申し訳ありませんでした。貴方様が竜王様と同じ神格者だと、知らなかった事とはいえ許されることではありません。如何様な罰も受けましょう」
先程とは打って変わって低姿勢である。竜族ってのは力が全ての脳筋族なのか? まあいいか。それよりも、何か変なことを言ってたな。
「神格者? どういうことだ?」
「はい? 貴方様は神格をお持ちなのですよね? 普通なら竜王様の御加護により竜族は魔法を受け付けないのに、貴方様の魔法はしっかりと効きました。そんなことが出来るのは、神格を持つ者だけです」
恐らく人外とか神力とかのことだろう。ということは神力を使えば大抵の防御は抜けるのか。いや、でも特級モンスター達には効いてなかった気がするな。まあ、他にも要因はあるんだろう。
「ふーん。というか竜王ってのも神力を使えんの?」
「はい。竜王様はその御力で竜の里を守られています。詳しいことは分かりませんが、同じ力を持つ方には分かるそうです」
「ん? 同じ力を持つ方? 他にもいるのか?」
俺は少し動揺した。俺以外にも神力が使えるのは、魔王とかの魔族関係だけだと考えていたからだ。この感じだと神格者って結構いるのだろうか。そんな疑問を飛竜にぶつけてみた。
「そうですね、実際に見たことがあるのは、竜の里に訪れた魔王の使者ぐらいです。ただ、他にも人族では剣聖や大魔道士、後は……、精霊族の王も神格者です。恐らく彼ら以外にも神格者はいると思いますが、私が知っているのは一般的に知られている彼らだけです」
神格者は意外と多いようだ。ただ、どいつも恐らく化け物じみた強さを持っているのだろうから、敵対したくはない。それに、中には俺よりも階級が上なのもいそうだし。
「ふーん。そいつらの強さって分かる?」
「とんでもない強さということは分かりますが、実際のところ、よく存じ上げません。何分、竜王様や他の神格者の方々の戦いなんて見る機会はありませんので……。ただ、噂では、剣聖はその一太刀で大地を切り裂き、大魔道士は誰も見たことのない魔法で大陸を消滅させるなどと言われております」
「はあ、それが事実だったらとんでもないな」
俺は出来ても自分の周囲をある程度更地にするのが限度だろう。階級が上がれば可能になるかもしれないが。だとしたら、剣聖とかは俺よりも格上ってことか。見つけたらなるべく関わらないようにしよう。
「まあ、それはいいや。後は……、竜の里ってどんな所?」
俺がそう聞くと、飛竜は慌てふためいた。
「そそそ、それはどういうことですか!? 竜の里を攻めに来るんですか!?」
「いやいや、そんなことしないって。ただ、もし竜の里に行くことになったら、何かお勧めの物は何かなと。食事とか、名所とか」
飛竜はホッと胸を撫で下ろし、落ち着いて説明してきた。
「そういうことですか。それでしたら、ハイパーキャトルを使った料理が有名ですね。ハイパーキャトルはどの部位も最高級品質の肉です。肉にはこれでもかと言うくらいサシが入り、色艶も綺麗で、締まり具合がかなり良く、きめも細かいです。柔らかな肉質でジューシーな舌触り、それでいて脂っこくなく、旨みをギュッと凝縮した繊細で芳醇な味わいです。」
ふむ。要するにA5ランクの肉なんだろう。日本では、そんないい肉なんて食べたことないから、こっちではぜひ食べてみたい。
「そうか。まあ、いつか行った時に食べるとするか」
「その時は歓迎いたします」
そんな感じに話していると、辺りが既に暗くなってきていた。そろそろ帰ろうかと思い、飛竜に別れを告げた。
「じゃあ、そろそろ帰るから。なんか悪かったな」
「いえいえ、こちらに非がありますのでお気になさらないでください。竜の里へいらっしゃった時には歓迎いたします」
そう言って、俺は飛竜と別れ王都へと戻っていった。ちなみに、帰り際にアズマさんたちの方を確認したところ、すでに終わっていたようで誰もいなかった。
――――――
王都へ戻った俺は真っ直ぐギルドへと向かった。ギルドの一階は酒場も併設されており、夜の時間帯である今はたくさんの冒険者で賑わっていた。ギルドの受付は深夜までやっている為、オークの魔石と素材を換金してもらうことにする。
「すいません。オークの魔石と素材の換金をお願いしたいのですが?」
「はい。では、こちらに出して下さい」
俺は言われたとおりに、魔石と素材を取り出した。その数およそ100体。さらに、オークソルジャーなどの上位種のものもあった。もうすぐランクBにもなるし、特に自重する気は無かった。
「なっ! す、すいません。只今査定しますので暫くお待ちください」
受付嬢はその量に大声を上げるも、直ぐに気を取り直し、それらを持って受付の奥に入っていった。ギルドに居た他の人達も彼女の声を聞きこちらをチラチラ見てきていた。そんなざわつきの中には、何だあいつとか、餓鬼がこんな時間に何の用だとか聞こえてきた。
そんな騒めきを保留音として聞き流して待っていると、先程の受付嬢がパンパンに膨れた袋を持って戻って来た。
「お待たせしました。これが報酬の十一万三千センです。内訳はオーク八十七体が各五百セン、オークソルジャー等の上位種十三体が各千五百セン、オークキング一体五万セン……です」
何と全部十一万三千センであった。ゴブリンルーラー程ではないが、オークキングもかなり高額だ。これでまた魔道具とか仕入れるか。
そんな風に考えながら外へ出ようと出入り口に向かうと、後ろから肩を掴まれた。振り返ってみると目の前に顔を真っ赤にしたゴツイ男がいた。
「おい、テメェ。お前みたいなのがオークキングの討伐なんて出来るわけねぇだろ。一体どんなイカサマしやがった」
どうやら酔っ払いに絡まれたようだ。受付嬢の方をを見てみると、困った顔で首を振っていた。ギルドは基本的に冒険者同士のトラブルにはノータッチである。ただ、酒場としてこういうのはほっといていいのか疑問である。まあ、こっち世界にはこっちのやり方があるのだろう。
「はぁ、何にもイカサマなんてやってないんで、失礼します」
「あ? テメェ、待ちやがれ!」
相手にする気も起きなかったので、適当にあしらって帰ろうとするといきなり殴りかかって来た。周りからは、危ないだとか、やっちまえとか色んな声が飛び交っていた。うん、酒の肴として楽しんでいるんだろう。
「はあ、お休み」
「がっ!?」
特殊能力の武術によるものなのか、後ろを見ずに軽く避けることが出来た。そのまま足をかけ酔っ払いを転ばした後、例のごとくスタンを発動し気絶させた。倒れた酔っ払いの処理は酒場の人に任せるとしよう。
そんなあっという間の出来事に周りは呆然としていたが、気にせず宿へと戻って行った。
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