第17話 王都を散策しました

さて、謁見まであと六日。昨日はオーク狩りが捗った為、散財した分は取り戻した。なので今日から2、3日は王都の店を巡って、何か面白そうな物が無いか見ていくことにする。


「さて、朝食はどうするか」


宿で食べてもいいのだが、せっかくだし今日は三食とも、何処かで食べようかと思う。そう思い、俺は町へと繰り出した。




――――――





「何処にしようか」


 今いるのは、王都の東に位置する東通り。


 王都の構成は城を中心として、方角ごとに北通り、西通り、南通り、東通りがある。南通りは正門と王城を結ぶ通りである。門から王城まで一直線の道になっており、その通りを中央通りと呼ぶこともある。この通りには様々な店が構えられ、ここに店を出せれば店に箔が付き、王都に近ければ近いほど一流の店と呼ばれる。ちなみにギルドはこの通りの一番門の近くにある。北通りは王城の裏にあり、裏門と王城を結ぶ通りである。西通りは日用雑貨から武具、魔道具まで道具各種を取り扱う店が集中している。東通りは食材を扱う店や飲食店が集中し、王都の台所と呼ばれ、様々な土地から集まって来た食材、野菜や果実、肉に魚、さらには調味料の類いまで食に関する多種多様な店が出店している。また、食材だけでなく飲食店や出店などがあるため、王都に住む人たちから観光や旅の途中の人達などで、賑わっている。


 また、通りで区切られた場所ごとに北西区、南西区、北東区、北西区と呼ばれる。北西区は北通りと西通りの間の区画で、兵士の宿舎や訓練場等の軍の施設が集中している。南西区は南通りと西通りの間の区画。酒場や娼館があり、夜の街と呼ばれる。また、行商人はこの区画で出店できる。北東区は北通りと東通りの間の区画で、貴族街となっており、この区画はそれ相応の身分であるか、貴族からの紹介がないと立ち入ることは出来ない。南東区は南通りと東通りの間の区画。ここは居住区や宿屋などが集中している。


 今は朝の時間で人は少ない方であるが、それでもちゃんと前を見ないとぶつかる位の人混みではあった。


「喫茶クリーム、食事処満漢全席、カフェアミーゴ、……何なんだろうな、この感じ」


 通りを歩きながらキョロキョロと店を見渡していたのだが、相変わらずの手抜きっぷりの店名にちょっとウンザリした。中には何処かで聞いたことのある名前もあったが、ゲームでも同じ名前だったら完全にアウトだろう。


「何か無いかなー。……ん? 東屋?」


 中々惹かれるものがなく、もう適当なところでいいかと思っていたところに気になる店を発見した。東通りにあるからこの名前なのか、それとも俺の想像している通りなのか。それを確認すべく、この店で食べることにした。


「いらっしゃいませ」


 店に入って出迎えてくれたのは、七十歳くらいの爺さんだった。彼は皺くちゃの顔であるが、何処か精悍な感じがあり年を感じさせない立ち振る舞いで俺を席へ誘導した。


「ご注文が決まりましたら、お呼び下さい」


 そう言って爺さんは一礼し厨房の方へと歩いて行った。そんな爺さんへ既視感を覚えながらも、取りあえずお腹も空いていたので、店の厨房の方に吊り下げられているメニューを見た。


「アジのフライ定食、唐揚げ定食、生姜焼き定食、……普通の定食屋だな」


 メニューは十種類ほどあり、それらは和食を中心とした定食屋のメニューそのものであった。流石に朝からそんなガッツリ食べる気は起きずどうしようかと考えていると、別のテーブルから気になる声が聞こえた。


「お待たせしました。モーニングセットです」


 そちらの方へチラッと顔を向けると、そこにはお粥っぽいものと半分に切った魚の乗った蕎麦らしきもの、あと温泉卵や漬物のようなものがあった。


 俺はそれが気になったので、店の人に聞いてみることにした。


「すいませーん!」


「はい。ただいま伺います」


 俺が呼ぶと店員の男性がやって来たので、気になったメニューを指さしながら聞いた。


「すいません。あれは何ですか? メニューには無いと思うんですが……」


「あれはニシン蕎麦と朝粥セットです。朝限定のメニューのため、メニュー表には書かれていないのです」


「ふーん。じゃあ、あれをお願いします」


「かしこまりました」


 簡単な説明を聞いて、俺はそれを注文することにした。なんか京都の方でそんなのを食べたと友人に聞いたことがある。彼曰く、味は悪くなかったがニシン自体が嫌いだから微妙とのことだ。じゃあ、何で食べたんだよと突っ込んで、名物だからと言われた記憶がある。


 そんな地球での記憶に耽っていると、料理が運ばれてきた。


「お待たせしました。ニシン蕎麦と朝粥セットです」


「はい」


 俺は代金を店員に渡し、料理に取り掛かった。まず蕎麦の入っている汁を飲む。汁は透き通っており、出汁の味がしっかりして上品な口当たりであった。ニシンの味が混ざっていなかったので、恐らくニシンは最後に乗せたのだろう。蕎麦を食べると、コシがあり少ししっとりしていた。粥や温泉卵は出汁の味が効いており、余分なものが無く優しい味であった。一通り味を見た後、ニシンを食べてみることにする。味は甘辛く甘露煮のようであった。少し魚臭い気がして、魚嫌いな人はちょっと駄目かもしれないが、個人的には嫌いではなかった。


 料理が来た時はちょっと多いかと思ったが、意外と食べやすくペロリと食べきることが出来た。そうして、俺は満足して店を出ていった。結局、俺の予想は違ったようだった。




――――――




 食事を終えた俺が次に向かったのは西通り。何か使える魔道具は無いか物色するためである。ざっとマップで見た感じでは、魔道具の店で気になるのは二店だけであった。一つは日用品と魔道具を扱っている店で、もう一つは戦闘用魔道具専門の店であった。マップの魔法は自分の周辺の地図を示す以外にも都市ごとに何処にどんな店があるか等を調べることも出来て、非常に便利である。まずは前者の店に行くことにした。


“ショップネセシティ-”


 俺は店の看板を見つけ、店の中に入っていった。中は白い内装で清潔感があり、木製のコップや皿などが陳列されていた。魔道具はカウンター近くにカタログがあり、気になるものを店員に言って持ってきてもらう形式らしい。


「火を起こす魔道具、水を出す魔道具、光を出す魔道具、……んー、あんまり無いかなー」


 カタログには日常で使う魔道具が書かれていたのだが、やはり基本的なものが多く、必要なものは始まりの街で買っており、特に必要なものは無かった。なので、次の店に向かうことにした。




――――――




「……、入るか」


 次の店、魔道具店マジカルへ足を踏み入れた。入るのにかなり抵抗があったが何とか入る決心が付いた。その理由は店の外装にあった。見た目がかなりファンシーで女児向け魔法少女アニメに出てきそうなものであった。しかし、店の前にある看板には“戦闘用魔道具専門店”と書かれていた。


 まあ、そんな感じで、中は違うと信じていた。……うん、そんな時期もありました。中もかなりファンシーであった。中はこじんまりといていたが、所狭しとぬいぐるみが飾られており、申し訳程度に魔道具が数点飾られてあるだけであった。


 カウンターには誰もおらず、踵を返し店を出ようとすると、後ろから幼い少女の声が聞こえた。


「冷やかし?」


 俺は驚き振り返ると、先程まで誰もいなかったカウンターには、無表情で佇む少女がいた。彼女はおかっぱの黒髪で、座敷童っぽいと思った。


「ああ、何か思っていたのと違ったみたいなので」


「ん? 戦闘用の魔道具ならちゃんと扱っている」


「そこにある数点だけですよね? なら、やはり無いので」


「ん? ……そう。また必要になったら来るといい」


「え? ああ、その時は是非」


 この店に今後買いに来ることは無いと思うが、一応、社交辞令的なことを言い店を出た。ただ、彼女の言葉が何処か確信めいていたのは少し気にかかったが、気のせいだろう。俺は気を取り直し、南西区の露店を見に行くことにした。

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