第12話 襲撃を受けました

 ウルフとは、動物である狼が魔素により変異したものである。このように動物が過剰に魔素を体内に取り込んで変異したものを魔物という。このような変化は動物に限ったことではなく、人であれば魔人、竜であれば魔竜となる。また、この世界では魔物とモンスターは別の物で、魔物は元となる存在がこの世界の生態系に準ずるものであるが、モンスターは魔素のある場所で当然発生するものであり、心臓などは無く魔石を核として動いている。ただ、結局のところ人に害をなすものを纏めて魔物と言うのが普通である。


 そして鑑定の結果では、今回の敵であるウルフとハイウルフは魔物であり、ウルフリーダーはモンスターとなっていた。ウルフはゴブリン並、ハイウルフはゴブリン兵並のステータスであったが、ウルフリーダーはゴブリンルーラー並の能力は無かったが、普通の冒険者ではまともに戦えないくらいの能力ではあった。


 名前:ウルフ

 性別:男

 種族:魔狼(ランクE)

 HP 20

 MP 5

 ATK 18

 VIT 21

 AGI 40

 INT 3

 MND 6

 DEX 25

 LUK 8

 特殊能力:咆哮


 名前:ハイウルフ

 性別:男

 種族:魔狼(ランクE)

 HP 100

 MP 10

 ATK 70

 VIT 60

 AGI 120

 INT 10

 MND 12

 DEX 80

 LUK 10

 特殊能力:咆哮


 名前:ウルフリーダー

 性別:男

 種族:ウルフリーダー(特級モンスター)

 HP 5900

 MP 320

 ATK 1500

 VIT 2100

 AGI 9300

 INT 300

 MND 800

 DEX 6200

 LUK 800

 特殊能力:統率者、咆哮、威圧(中級)


 咆哮:凄まじい雄たけびを上げ相手を怯ませる。自分より弱い相手程効きやすい。


 統率者:集団を率いる者。率いている相手の能力に自身の能力の十分の一を付加する。


 ウルフリーダーに咆哮されたら俺以外はちょっと厳しいか……。統率者はまあ、そこまで脅威ではないだろう。たかが百や千上がったところで大差は無い。


 能力の確認を終えた俺は、確認したことを、神力で得た情報は隠して、伝えることにした。


「ここから十キロメートル東から、大量の何かがかなりのスピードで向かってきてます」


 すると、お下げ髪が驚きつつも呆れたといった表情でこっちを見てきた。


「えっ! 十キロメートル先って……、相変わらずショウさんは規格外ですね」


「ショウ、回避できそうか?」


 アズマさんが真剣な表情で尋ねてきた。


「えーと、対象はこの馬車目掛けて来てますし、あと5分くらいでぶつかることになるので恐らく無理だと思います」


「そうか……、敵の数は?」


「ざっと見て百はいると思います」


 その言葉を聞いたカルロさんは大声を上げ、馬車を止めた。


「百!? ちょっと大丈夫なんですか!?」


 カルロさんの動揺っぷりを見て、アズマさんは腕を組み少し考え込むようにして答えた。


「何とかなると思います。これでも私たちは全員ランクCの冒険者ですから。それに約一名は規格外ですので」


「……、分かりました。よろしくお願いします」


 アズマさんの言葉にちょっと聞き捨てならない言葉があった気がするが、時間が無いので大人な俺はスルーした。カルロさんの方はまだ動揺していたが、俺たちに頼る他無いと悟ったのか、少し落ち着いた様子であった。


「で、どうします? 俺が魔法で蹴りつけましょうか?」


「そうだな……、牽制としてはまずショウの魔法に頼るが、それでも殲滅しきれないだろう? だから、魔法を放った後、俺が前衛でショウは魔法で後方から援護してくれ。ユネハはカルロさんと馬車の守りを頼む」


 出来なくもなさそうだったので一応提案してみた所、アズマさんがしっかりと役割を振ってくれた。まあ、百体もいれば撃ち漏らしもあるだろうし、咄嗟の対応のためにもある程度の役割分担は必要だろう。それに即席のチームなんだから連携も何もあったもんじゃないし、細かいことは決めても仕方ない。


 そうこうしているうちに、ウルフの群れが視認できるだけの距離まで近づいていた。群れはまだ遠く、そこまでよく見えないが、それらが起こしている土煙などからかなりの数が予想され、俺以外は驚愕の表情を浮かべていた。


 さて、ウルフの群れが見えてきたので、そろそろ最初に使う魔法を決めなければならない。しかし、初級魔法の最大射程距離は一キロメートルであり、そこまで近づけるのは危険である。INTも上がったが、それはあくまでも魔法の威力が上がるだけで射程距離は伸びない。どうしようかと考えていたが、時間もないし、気が進まないが中級魔法を使うことにした。なぜ気がが進まないのかというと、威力がどれくらいになるか見当が付かず、検証もしていないためである。


 では、どんな魔法を使うかであるが、火属性と風属性の属性を持つファイアストームを使うことにした。これは、一応二人の目の前で見せているのが火属性と風属性だからというのもあるが、なるべく広範囲な魔法でウルフの苦手な火属性のものから選んだ結果である。


ファイアストームとはその名の通り炎を纏った嵐を起こす魔法で、その威力は使用者のINTに依存する。普通は指定した場所へ炎を纏った竜巻が出現するものである。ただINTが二万とか神力とかの影響でどうなるかは知ったこっちゃない。


 兎も角、中級魔法は視認できる場所であれば何処にでも撃てる。視認できなくても十キロメートルまでは射程圏内ではあるが……。なので当然、数キロ離れたウルフの群れの集団のど真ん中にぶち込むことも可能である。


「それじゃあ、行きますよ。……、ファイアストーム!」


 俺は集団の中心に目掛けて魔法を放った。すると、当目から見てもわかるくらいに激しい炎の嵐が起きていた。炎を纏った複数の竜巻は天にも届くであろう高さまであり、激しく燃え盛り、暴風が吹き荒れ、集団の周囲一キロメートルは巻き込んでいるであろうというくらい地面を抉り巻き上げていた。


「はぁ、相変わらず凄まじいな」


 俺が疲れたようにぼやくと、後ろから五月蝿い声が聞こえた。


「ショウさん! もう突っ込みませんよ! 絶対突っ込みませんからね! 何で複合属性が使えるのかとか、ファイアストームがなんかおかしいのとか、そもそもあんな遠くに早くて正確に使えるのかとか、絶対に言いませんからね!」


「うん。じゃあ、そうしてくれ」


「なっ! うぅ……、はぁ、ショウさんはそういう人でしたね」


 恐らく、もう突っ込んでんじゃん、とか何とか言って、その後に質問をするとかいう流れだったのかもしれないが、そんなことは知らん。


 そんなファイアストームが荒れ狂う中から、群れの中の一匹が物凄い勢いでこちらへ向かってきた。調べてみたところ、それはウルフリーダーであることが分かった。流石は特級モンスターといったところか、多少焼け焦げたあとがあるが、ほぼ無傷である。


向かってきたウルフリーダーに対し、アズマさんが前に出て迎え撃つ。ウルフリーダーは走ってきた勢いのままアズマさんに飛び掛かった。しかし、それをアズマさんは半身になって受け流しつつ、ウルフリーダーの胴体を剣で斬り裂いた。だが、多少バランスは崩したものの、ウルフリーダーの勢いは止まらず、そのまま俺を目掛けて突進してきた。


ウルフリーダーが目の前に迫って来た。


 以前の俺であれば、ただムラマサを振り下ろすだけであった。しかし、武術の能力を手に入れたことによって、効率のいい体捌きが頭の中に流れ込んできた。俺はそれに従い、体を傾け突進してきたウルフリーダーを受け流した。そして体を回転させ、その勢いのままウルフリーダーの胴体に剣を振り下ろした。流石はムラマサというべきか、難なく一刀両断してしまった。そして、ウルフリーダーは光の粒子となって消えていくのだが、余りこれを他人に見られるのはよくないみたいだ。お下げ髪とアズマさんには見られているからいいが、カルロさんもいるのでカモフラージュすることにした。


 俺は、剣を振り下ろすと同時にファイアを無詠唱で唱えておいた。無詠唱のやり方はサーチの検証の時にわかったことである。無詠唱とは、使う魔法が起こす現象をイメージして、頭の中でその魔法を唱えれば発動するみたいであった。なので、使ったことのない魔法は出来ない。試しに使ったことのない初級魔法でやってみたが、発動しなかったので、この仮説は恐らく正しいだろう。


 まあ、これで魔物も倒し終わり一段落だ。俺は、振り返ってカルロさんの方を見た。するとカルロさんは口を大きく開けたまま固まっていた。どうやら気絶しているらしい。カルロさんがいないと馬車が動かせないので、暫く休憩することになった。その間に倒した魔物の取り分やらを決めたのだが、殆ど俺が倒したせいか、受け取りを拒否した。ただ、それでも何か悪いと思い、俺はウルフとハイウルフの素材は三等して押し付けた。


 その後、お下げ髪からやたら五月蝿く絡まれたが、適当に流してカルロさんが起きるのを待っていた。カルロさんが起きたのはそれから小一時間ほど経った後である。


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