第13話 村に着きました

 カルロさんは目を覚ますと、状況が判断できず取り乱した。


「っは!? ここは誰? 私は何処?」


「カルロさーん、落ち着いてくださーい」


「ショウさん! あの私はいったい?」


「あー、ウルフの群れと遭遇して気絶していたんですよ。ああ、その群れは退治したので大丈夫ですよ」


 訳の分からないことを言っているカルロさんに、俺は諭すように言った。しばらく混乱気味だったカルロさんを落ち着かせ、最初の村へと向かって行った。




――――――




 日が傾き、夕焼けで荒野が朱く染まる頃、俺たちは村に着いた。村は牧歌的で落ち着きがあり、人口は百人にも満たないであろう規模であった。そんな小規模の村であるため、宿屋も一つしかなく、俺達は村唯一の宿に泊まることとした。


「いらっしゃい!」


 宿に入ると、金髪のガタイの良い男に出迎えられた。いや、漢という表現の方が正しいか? なんか兄貴とか呼ばれてそうだ。んー、けどやっぱり出迎えは可愛い娘の方がいいなぁ。……と、そんなことを考えながらボーっとしていると、カルロさんが宿に泊まる手続きを終わらせていた。


「はい。これが部屋の鍵です。一人一部屋ありますので、ゆっくり休んでください。明日は昼過ぎにこの村を出発する予定ですので、それまでは自由にして頂いて結構です。」


「分かりました。えっと、宿代はいくらでしたか?」


 俺はカルロさんが立て替えてくれたのであろう宿代を聞いた。するとカルロさんは不思議そうな顔をした。


「ああ、ショウさんは今回が初めての護衛依頼でしたね?」


「そうだけど?」


「そうですか。基本的に長期の護衛依頼、つまり幾つかの町を経由していく場合、その町での宿代は基本的に依頼主が持つこととなっています。なので、ここの宿代は私が持ちますので気にしなくて大丈夫ですよ」


 お下げ髪がフォローを入れると、カルロさんは納得した様子で俺の疑問に答えてくれた。取り敢えず、もうやることは無いので今日は解散となり、明日の正午に村の入り口に集合となった。




――――――



 部屋へ着くと、俺はベッドへ寝転がった。暫くダラダラゴロゴロした後に、自分のステータスを確認した。ゴブリンキングを倒した時に階級が上がっていたので、同じ特級モンスターであるウルフリーダーを倒した今、また階級が上がってるのではと思ったからだ。


 そう思ってステータスを確認したのだが、階級は変わらず第九級神相当となっていた。少し期待していたので残念ではあったが、そう簡単には行かないかと納得もしていた。やはり第十級神から第九級神に上がるのと、第九級神から第八級神に上がるのでは経験値的なものが違うのだろう。


 ここら辺の話をGMこと自称神に聞いたが答えてもらえなかった。曰く、既出の情報と一部の例外的なもの以外は教えられないそうだ。前も似たようなことを言われた気がしたので情報もとは何だと聞くと、公式発表されている情報と、この世界とゲームの違いに関する基本事項が教えられる情報らしい。

 

 公式発表されている情報とは公式サイトと公式ファンブックに掲載されている物である。公式ファンブックとは、「Normalization Online」の世界観を余すところなく記したもので、その世界に住む村人の生活から国法や研究、果ては“世界の真理に近づくには”なんていうことも書いてあり、一冊約千ページのものが上中下巻の三冊組でお値段税抜き五千円という本である。


 これが発売決定となった時は、こんな本誰が買うのかと疑問に思ったものだ。確かにこのゲームは何故か世界展開してるが、登録者数は十万と決して多くは無い。世界展開とかに目をつぶれば少なくは無いが、実質活動しているのは一割にも満たないだろう。その理由は、このゲームの登録解除がやたら面倒であるからだ。何が面倒かというと、退会手続で百問の記述式の質問があり、それに全て答えないといけない。さらに、適当に“あああああ”と入れてもエラーになる始末。ただ、登録しているからといってメールがやたら来るとか、何か面倒なことがあるわけでもないので、登録したまま放置している人がほとんどである。しかし、そんな本でも需要はあったらしい。近くの本屋では発売日当日に数冊平積みにされており、次の日には無くなっていた。店員に聞いたところ全て売り切れで、他の店舗も同様なようであった。


 まあ話を戻すが、現状を考えると一度その本を読んでおくべきだったと後悔している。いや、そもそもこんな状況になるとは普通分からないから、仕方ないといえばそうであるが、やはり欲しいと思ってしまう。ちなみに公式サイトは、ゲームの時と同様に、メニューから見ることが出来るようになっているので、ちょくちょく見ている。


 無いものは仕方がないので、何か困ったらGMコールすればいいかと、その事については考えないことにした。俺は生活魔法で体を清潔にし、ストレージから適当に食事を取り出して食べた後、特にやることもないので寝ることとした。




――――――




 目を覚ますと、外が騒がしかった。眠い目を擦りながら窓の外を見ると、何やら騎士っぽい人を連れた偉そうな人が騒いでいた。俺は生活魔法で顔を洗い、宿の入り口へと向かった。


「おはようございます、ショウさん。随分遅いお目覚めですね?」


「ああ、おはよう。別に昼に間に合えばいいんだからいいだろ。で、外が騒がしいのは何?」


 宿の入り口に行くとお下げ髪に皮肉を言われ出迎えられた。確かに時間は十一時を回っていたが、特に気にするような事でもなかったので、スルーして気になったことを聞いた。


「相変わらずマイペースな人ですね。それで、外の騒ぎですか? 何でもこの辺りを納める領主の使いが来て、税金の取り立てに来たみたいです」


 どうやら、この辺りを統治する領主からの使いが来たらしい。詳しい話をお下げ髪から聞いたところこういうことらしい。


 ・使者は未払いの税を求めてきているらしい。

 ・しかし、それは明らかに異常な額であった。

 ・なので、村長はどうにかならないかと説得している。

 

 まあどっちもどっちだな。税の未払いならその分を加税されても仕方ないし、かといって法外な額を吹っ掛けるのもどうかと思う。そんな風に考えながら外のやり取りを見ていると、その使いと思われる者がこちらへ向かって来た。


「貴様らは行商か? そうであるならこの領地での販売・交通の税を支払ってもらおう」


「ん? いや、俺達は冒険者だから関係ないいんじゃないか?」


「ふん! ならば、魔石を税として渡してもらおう。冒険者であるならば持っているであろう?」


 貴族がこっちに気づくと、こちらにも税を要求してきた。ここでの法律はよく分からないが、行商ではなく冒険者であるので訂正した。しかし、何故か魔石を要求してきた。というか何で税を納めないといけないのかの説明もない。はっきり言って無茶苦茶だ。もちろん払う必要もないため、お下げ髪が法律を持ち出し反論した。


「そんなもの払う必要ありませんよ、ショウさん。そもそも貴方、国家ギルド間不干渉規約をご存知のはずですよね? であるならば、このことが知られればお家取り潰しですよ?」


「そんなカビの生えた法など知ったことではないわ! さっさと出すものださんか! お前ら、あいつらを捕まえろ!」


 貴族は周りの護衛に支持し、俺たちを捕えようとしてきた。護衛の数は四人。恐らくこちらは二人、しかも一人は女ということで油断もしていたのだろう。ゆっくりとこちらへ近づいて来て、俺たちを囲むようにしていた。


 全く、話が通じないというのは面倒である。俺は無詠唱でスタンを四回唱えた。魔法の並列使用が出来ないため何回も唱えるのは面倒である、……まあ唱えてはいないんだが。早く魔法の並列使用が出来るようになりたいものだ。


「なっ?! 貴様! 何をした!」


「いや、何も? というわけでお休み」


 突然の出来事に腰を抜かし慌てふためいている使いの者にスタンを掛けた。取り敢えず全員制圧できたのでストレージから縄を取り出し、五人を縛った。


「ショウさん、、……いえ、もう何も言いません」


 頭を抱えながら、どこか呆れた風にお下げ髪が呟いた。そんなことは気にせず、国家ギルド間不干渉規約とかいうものにより、貴族を処罰するため、五人を衛兵所に付きだした。村長は税の支払いの請求が一時的になくなったことを喜ぶべきか、面倒事を起こしたことを怒るべきか微妙な表情でこちらに礼を言ってきた。


 一悶着あったが気を取り直し、村長に別れを告げ、俺達は村を出発することにした。

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