第11話 旅立ちました

 カラカラと音を立てながら揺れる馬車の中から、俺はボーっと外を眺めて今の気持ちを表現するように鼻歌を歌っていた。


「ふふ、ふふ、ふーんー、ふーふー、ふふふん、ふーんーふー」


「何ですか、ショウさん。その、そこはかとなく悲しげ歌は?」


「ん? これは故郷で歌われていた民謡で、牧場から市場へ売られていく子牛を歌ったものだけど?」


「私たちは売られた子牛ですか!?」


 相変わらず賑やかな奴だ。現在俺はこの五月蝿いお下げ髪とアズマさんの三人で王都方面へ向かう馬車に乗っている。因みにアズマさんは外を見て周囲の警戒をしている。


 ゴブリンルーラーを倒した翌日、俺達は再びハグルの元へ行くと、報告書とともに依頼書を渡された。何で依頼書なのか疑問に感じたが、その内容を見て納得した。その依頼というのが現在乗っているこの馬車の護衛である。冒険者なのでこういった依頼を受けて移動するべき、だそうだ。


 まあついでだし、始まりの街から王都へは開けた道がほとんどで危険は少なく、あるとしてもウルフなどのランクFからEのモンスターだけなので、特に心配する必要もない。


 そんなこんなで、王都方面へ行く馬車に護衛として同乗し、途中いくつかの町で乗り換えて王都へ向かって行くこととなった。




――――――




 ゴブリンルーラーを倒した後、一週間ほど始まりの森の調査が行われた。その調査の結果、森の奥深くにゴブリンの集落らしきものが発見されたのだが、すでにそこはもぬけの空であった。その集落はゴブリンが五百体ほどは居たであろう広さで、集落が全く荒れておらず、倉庫のような場所も空であったことから生き残ったゴブリンたちは何処かへ移って行ったと予想される。その為、暫くは警戒しつつ、引き続き調査を行っていくことになった。取り敢えずひと段落したため、王都へ行くまではさらに一週間あったので、色々と準備をすることにした。


 まず、ゴブリンルーラーを倒したことで第九級神相当の力が使えるようになったので、その確認を行うことにした。称号は相変わらず人外だが……。それはともかく、新しく得た力として能力の上限が二万になり、使える特殊能力が増えた。特殊能力は特殊魔法の一般魔法・探索魔法の中級まで、習熟能力の武術(中級)が使えるようになった。


 一般魔法:クリーンやライトなどの生活に使う魔法の総称。


 探索魔法:サーチやアプレイジルなどの様々なことを調べるための魔法の総称


 武術:武器全般、体術を含めた総合的な戦闘技術。


 魔法の分類は火や水といった属性による分類以外にも分け方があり、特殊魔法と言うのは魔法の使用用途によって分類された物である。分類としては直接相手を攻撃するものを単に魔法といい、回復・補助魔法は法力、状態異常・能力異常を与えるものは呪法、調査・錬金など非戦闘用の魔法は特殊魔法と分類されている。習熟能力というのは後天的に得られる技術で剣術や槍術などがあり、その練度で初級、中級、上級が決まる。


 一般魔法があれば日常生活が比較的便利になる。この世界には石鹸も風呂も高級品で、基本的に体は水を流すくらいしかしないので、クリーンを使えれば匂いなども除去でき、洗濯も簡単になる。探索魔法は前回の戦いでも欲しいと思っていたので、ちょうどよかった。武術の中級だが、実際に剣を振ってみたところ、何となくどうすればいいか位はわかるようになった。ちなみに、能力が二万になって魔法の威力がさらにおかしくなったのは言うまでもない……。


 さて、新しい力の確認が終わった後、次に旅支度をするため買い物をした。始まりの街から王都まではおよそ一週間かかり、途中で町にも寄るが野宿もあるので野営道具をそろえる必要があった。ゴブリンルーラー討伐時に手に入れたゴブリン兵達の魔石でかなり懐は温まっていたのでかなり散在してしまった。ストレージで腐らないことを良い事に食べ物を一カ月分くらいの量を買い、マイクのような使うかも分からない魔道具まで買ってしまった。また、魔石を動力とする展開式コテージを買ったのだが、必要であるとはいえ十万センも掛かったのを後で冷静に考えると、普通のテントでも良かったと思う。普通のテントは千センである。


 そうして一週間、能力の確認やら買い物やらをして過ごした。ちなみにお下げとアズマさんは調査依頼をこなしていたらしい。俺は初めの調査で探索魔法の実験ついでに調べて異常なしと判断したのでその後の調査には参加しなかった。決して面倒であったからではない。まあその為、お下げには絡まれずにゆったりと過ごすことが出来た。


 で、その後はカルロさんとの顔合わせをして、王都へ旅立つこととなった




――――――




 そして、現在に至るわけである。


「あー、この歌には解釈がいくつかあって、その中にこれから辛いことになるっていう意味があるんだけど……」


「王都へ行くのがそんなにイヤですか!?」


「ん? 主にアンタと一緒なのが?」


「ひどいっ! って、いつもいつも何で疑問形で答えるんですか!」


「はっはっはっ、仲が良いですなぁ」


 彼女がギャーギャー騒いでいると、馬車の前の方から声が聞こえた。彼は、今回護衛することになった商人であるカルロさん、笑顔が絶えない恰幅の良い男である。


「あ、すいません、五月蝿くしてしまって。どうも彼女は騒がずにはいられない質みたいで……」


「ショウさん! 人を落ち着きがないみたいに言わないでください!」


 彼女は顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。


「え? アンタはいつも叫んでる気がするんだが?」


「だーかーらー、それはショウさんがいつもふざけたことを言うからですよ! ……はぁ」


 何とも疲れた表情で肩を落とす彼女は放っておいて、ストレージから宿屋で買っておいたサンドイッチを取り出した。


「まったく、ショウさんは何でこう自分勝手なんですかねぇ」


 ジト目で見てきたが気にせずサンドイッチを頬張る。サンドイッチはハーブ香りが付いた燻製肉のスライスがぎっしり挟んであり、まるでスモークミートサンドのようであった。これでマスタードがあれば完璧だったのだが、無いものねだりをしても仕方ないので、その辺りは今後に期待しておくことにする。


「なんか美味しそうなもの食べてますね?」


 鼻をこちらに向けクンクンとしながら尋ねてきた。


「ん? 欲しいのか?」


「え! いただけるんですか!」


 買いすぎているのであげるのは別にかまわなかったのだが、ガバッと身を乗り出してきた彼女の反応には驚いた。


「お、おう。じゃあ、ほら。アズマさんとカルロさんもどうですか?」


 俺はストレージからサンドイッチを取り出し彼女に渡した。


「ん。貰おう」


「頂けるんですか? しかし、悪いですよ」


「はい、アズマさん、どうぞ。まあ、カルロさんも余ってるので遠慮せずにどうぞ」


 アズマさんにサンドイッチを渡し、申し訳なさそうなカルロさんにもサッと渡した。


「まあまあ、腹が減っては戦は出来ぬといいますし」


「そうですか。では、遠慮なく頂きます」


 そして、サンドイッチを食べて一息つくと、こちらに向かって大量の何かが近づいてくるのが分かった。これに気づいたのは探索魔法のサーチによるもので、これは覚えてから常時発動するようにしていた。サーチの効果は一キロメートルの範囲にあるものを察知するというのが通常の効果であるが、俺のは百キロメートルの範囲を察知でき、神力の効果なのか、範囲内にあるものを調べることが出来る。


 これにより、何かが襲撃してくるということが分かったのである。俺はその正体を確かめるべく神力を行使した。すると、およそ百体のウルフとその上位種のハイウルフが十体おり、さらに驚くべきことに、それらを率いている個体がなんとウルフリーダーという特級モンスターであった。


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