第10話 一件落着しました
視線の先にいた魔物は、今まで見た中で別格だと本能的に悟った。恐らくこいつがゴブリンキングなのだろうが、一応確認しておく。
「あれがゴブリンキングか?」
「えっ……、はい、恐らくは。ただ、通常はゴブリンの三倍ほどの大きさで、ランクBからAの魔物ですが……、あれは別格です」
怯えながらも俺の質問にしっかりと答えてくれた。普通より大きさが大きいとなると、変異種みたいなものが存在するのだろうか。一応、気を緩めずに相手のステータスをチェックする。
名前:ゴブリンルーラー
性別:男
種族:ゴブリンルーラー(特級モンスター)
HP 20000(+1000)
MP 50(+1000)
ATK 5200(+1000)
VIT 6000(+1000)
AGI 300(+1000)
INT 200(+1000)
MND 500(+1000)
DEX 200(+1000)
LUK 1(+1000)
特殊能力:王の資質、剛力、威圧(中級)
いやいやいや、おかしいだろ。能力高すぎ、しかもHPなんか俺以上だし、何か変な能力もあるし。というかゴブリンキングじゃないんかい!
王の資質:部下の数だけ能力が上昇する。また、部下が殺されても能力が上昇する。最大1000まで加算される。
剛力:ATK、VITの成長を促進させる
んー、能力が上がるのは厄介だが、変な能力が無いのが救いか……
「っと!」
「ショウ! ぼーっとするな!」
ステータスを見ていた無防備な俺に、ゴブリンルーラーは容赦なく棍棒を叩きつけてきていた。今回は流石に駄目かと思ったが、アズマさんが何かしたようで、棍棒の軌道が逸れて避けることが出来た。
「すいません、アズマさん!」
「いいから、集中しろ!」
気を取り直し、改めてゴブリンルーラーを見る。大きさもさることながら、その右手に持った一メートルは超えるているであろう棍棒に、飾り気は無いが俺の魔法を受けても傷一つない鎧はかなりの脅威だと思われる。恐らくムラマサでなら切り伏せられるだろうが、どうやってそこまで持っていくかが問題だ。アズマさんに協力をして貰うとしても、どうやって信じてもらうか。……ん? 足止めって言ったらあれでいいんじゃないか?
「よし、やるか。……バーグ!」
魔法を使うと予想通り、ゴブリンルーラーの足元に泥沼が形成され、どんどん引きずり込み身動きを奪っている。この魔法は土属性の初級魔法で、相手の足元に泥沼を形成し身動きをとりづらくするものであり、俺の場合は底なし沼を形成する。足掻けば足掻くほど沈んでいく為、今も暴れて脱出をしようとしてさらに沈んでいる。
動きは止めたので奴を斬りに行きたいが、棍棒を振り回している為近づけない。どうしようか考えていると、アズマさんが声を掛けてきた。
「俺があの棍棒を押さえるから、奴を仕留めろ」
「えっと、大丈夫なんですか?」
この申し出は有難いが、五倍近く能力に差があるのに大丈夫かと心配そうに見ると、さも当然のように答えてきた。
「あれくらいなら問題ない」
恐らく能力差を埋める何らかの技術があるのだろう。
「では、お願いしますね」
「ああ」
そう言って彼はゴブリンルーラーへと駆けていった。俺は背後から回り込むようにして位置を移動し、隙を伺っていた。目の前ではアズマさんが身動きの取れないゴブリンルーラーの攻撃を往なしていた。彼への心配は杞憂だったようで、余裕を持って受け流していた。そうやって一撃、また一撃対処していき、痺れを切らしたゴブリンルーラーは大きく棍棒を振り上げた。
「今だ!」
アズマさんの掛け声と同時に、ゴブリンルーラーの棍棒は振り下ろされた。彼はギリギリのタイミングでそれを躱し、大振りの攻撃を外したゴブリンルーラーは次の動作に入るまでに隙が出来た。ここを見逃すわけもなく、俺は全力でゴブリンルーラーへ斬りかかった。
「はぁぁぁあ!」
硬直状態になっていたゴブリンルーラーは当然反応できず、俺は胴体を真っ二つに斬り払った。そして、上半身は地に落ちゴブリンルーラーは光の粒子となって消えていった。
「ふぅ、終わったか」
俺は左手で額を拭いながら、辺りを見回した。
「取りあえず、もういませんよね?」
「ああ」
「ふぅ」
ゴブリンルーラーの脅威を切り抜け、人心地が着いた俺はその場に座り込んだ。すると、せっかく落ち着いたというのに、横から五月蝿い声が聞こえてきた。
「ショウさん! 聞きたいことは山程あるんですが、どうせはぐらかすんでしょう? でもこれだけは答えてください! 倒したモンスターは何処に行ったんですか!?」
んー、正直に言っていいものか……。確かに倒したモンスターが消えるってゲームなら当たり前だけど、普通はおかしいわな。まあ、俺の能力ってことでいいか。
「と言うわけで、俺の能力の一部ってことで。……ああ、素材やら魔石やらは俺のストレージに入ってるから、後で分配するから」
「だから何が、と言うわけで、なんですか! って、えっ! ストレージって、ショウさん! 空間魔法が使えるんですか!?」
「あ……、まあ、そんなとこ」
せっかく隠してたのに、言ってしまった。けど、いきなり剣を出してるところとか見られてるし、まあいいか。しかし、さっきからギャーギャー隣で騒いでる人、戦闘に参加して無かったよね? さっきみたいにもう少し大人しく出来ないもんかね?
「はぁ……、そんじゃ、ま、帰りますか」
「ちょっとショウさん! まだ話は終わってませんよ!」
そんな彼女を無視しつつ、俺は帰路に就いた。そんな俺達を見ていたアズマさんは苦笑しつつ、彼女を宥めながら俺の後をついてきた。
――――――
「――というのが、今回の真相だと思われます」
俺達三人はギルドマスターの部屋で今回の依頼の報告を行っていた。部屋には俺たち以外にはハグルとセリーヌさんがいる。俺の報告を聞いていた二人は、事前に知らせてあったとはいえ衝撃的な内容であったのか、聞いた直後は少し固まっていた。
「それで、その魔物の魔石を見せていただいて宜しいですか?」
「はい、これです」
その魔石は大きさ直径二十センチメートルほどの球体である。それを見たセリーヌさん平静を装っていたが、若干の動揺が見られた。
「これはっ!? ……今鑑定しますので、少しお待ち下さい」
彼女はルーペ型魔道具で魔石を隈なく調べていった。すると彼女は信じられないといった表情でこちらを見てきた。
「この魔物を貴方方三人で本当に倒したんですか? それに何でこんなのがあの森に……」
「ん? どうしたんだ?」
セリーヌさんの動揺っぷりに、ハグルは不思議そうに尋ねた。
「ギルドマスター、これはゴブリンキングの上位腫でゴブリンルーラーの魔石です。討伐ランクはランクSオーバーの魔物です」
「は!?」
それを聞き、ハグルは目を見開いてこっちを見てきた。
「お前らどうやって、……ていうのはさっきの報告で聞いたか。まあ、よく無事に帰ってきてくれた」
どこか疲れた表情のハグルであったが、優しい笑みで俺達を労った。
「しかし、こうなるとお前らもランク昇格できるかもな」
「ん? どういうことですか?」
「ああ、ゴブリンルーラーってのはな、ゴブリンキングよりも厄介で、危険腫指定されてるんだ。ゴブリンキングの軍隊が町単位に脅威となるなら、ゴブリンルーラーの軍隊は国単位の脅威となるんだ。それを討伐したってんなら、国に報告すればランクも上げて貰えるだろう」
「へぇ、そうなんですか」
「反応薄いですね、ショウさん! ランク昇格ですよ! もっと喜びましょう!」
相変わらず、何処からそんな元気が出るのだろうか。アズマさんは少し驚いてはいたが、すぐにいつもの生真面目な表情に戻っていた。
しかし、危険腫か。危険腫って確か、ドラゴンとかそういう普通なら手に負えない相手で、天災とも言われてる存在だったよな。そんなのがあれか……。
「ま、そんなわけだ。取りあえず、ご苦労さん。今日のところはゆっくり休んでくれ。王都への報告書はあとで作成するから、明日また来てくれ。で、その報告書を持って、三人で王都に行ってくれ」
「それは行かないと駄目ですか?」
何やら面倒事の匂いを感じ取り、拒絶を試みる。
「駄目ってことは無いが、お前さんが主戦力だったんだから、行かないと話が進まないと思うぞ」
「そーですよ、ショウさん! 面倒臭がらずに行きましょう!」
チラッとアズマさんの方を見ると、諦めろと言わんばかりに頷いていた。どうやら、行かないと駄目らしい。
「なんだかなぁ」
こっちに来てから、他人 (主にお下げ髪の奴)に振り回されてる気がする。仕方なく王都へ行くことにして、その場はお開きになった。そして俺は月明かりが静かに照らす街の中、宿屋へと向かった。
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