第5話 ギルドマスターと戦いました
俺たち二人は木刀を構え向かい合った。
「いつでも来ていいぜ」
ハグルは片手で武器を持っていて、空いていたほうの手で俺を煽ってきた。しかし、ここで一気に行く前に、ハグルのステータスを見ておいた方がいいだろう。
名前:ハグル
性別:男
種族:人族(ランクA+)
HP 1500
MP 130
ATK 1200
VIT 1100
AGI 540
INT 90
MND 150
DEX 120
LUK 90
特殊能力:剣術(上級)、斧術(上級)、体術(中級)、身体強化(中級)、見切り(中級)、威圧(中級)、破魔(中級)、野生の勘
おお、これは恐らく人族としてはかなり強い。一つでも千を超えれば凄いのに、それが複数あるんだから。特殊能力も結構あるな。括弧の中は恐らく熟練度だろう。剣術とか斧術とかは、まあ、そのままの意味だな。この中で気になるのは威圧、破魔、野生の勘か……、調べてみるか。
威圧:自身の存在を示し相手を委縮させる。自分より上位の存在には効きにくい。熟練度により効果が変わる。
破魔:闘気により魔法などを遮断することができる。熟練度により対応できる魔法が変わる。
野生の勘:直感が鋭くなる。戦闘経験や対峙者が強者であることなどで、さらに強化される。
さて、手の内が粗方分かったから攻めていくか。ステータスは全部2000くらいに設定してっと……。
そう考えていると声が聞こえてきた。
「おーい、どうした?」
「それでは、行きますっ!」
ステータスをいじり終えた俺は、間合いを一気に詰めギルマスの顔面目掛けて木刀を叩きつけた。
「うぉっ! くっ!」
しかし、さすがランクAの冒険者。多少体のバランスは崩していたが、しっかりと受け止めていた。
「魔法使いだと思っていたが、身体能力もかなりのものだな」
「それほどでもないですよっと」
ギルマスの木刀を弾き、一旦間合いを空ける。
「なら、これでどうですかっ」
再び間合いを詰め、上下左右あらゆる方向から連続で攻撃を繰り出す。しかし、全て余裕を持って躱された。
「はっ! こんなんじゃいくら速くても当たらねーぜ」
「ちっ」
完全に見切られているようで、当たる気配が全く無い。
「じゃあ今度はこっちから行くぜ!」
俺が袈裟切りをした所を躱され、半身のまま木刀を振るってきた。
「っ! はぁ!」
木刀が顔面に直撃しそうになるも強引に自身の木刀を振り上げ迎撃する。しかし、それは空を切った。どうやらギルマスはバックステップで躱したようだ。
……完全に虚を突かれたが何とか対応することが出来た。
「おお、やるな。じゃあ、次だ!」
間髪入れずに、次々と攻撃が繰り出された。俺とハグルの間には圧倒的な技量の差があり、普通なら一分も持たないだろう。ただ、ステータスの恩恵か、攻撃が来るのを見てからでも受け止めることが出来たのだが、それだけで手一杯だった。
「はっ、なかなかっ、やりますねっ」
「お前も、なっ!」
後出しでも防御が出来てしまう俺と、経験と技術により防御が可能な彼とではいつまでたっても決着がつかなかった。なので、振るわれてきた木刀を思い切り弾き返し、間髪入れずに木刀を振り下ろした。
「はぁぁ!」
「甘い!」
「は!?」
全力で振るった木刀は、本来なら躱すことも受け止めることも出来ずに、彼に届くはずだった。しかし実際は、俺の木刀が切断されていた。そう、折れたのではなく斬られていたのだ。その証拠に切断面が鋭利な刃物で斬られたような滑らか面になっていた。
「勝負あったな」
「……はい」
木刀を首に当てられ、俺は自身の敗北を認めた。決着がついた俺たちは、木刀を片付け部屋に戻った。
――――――
「いやぁ、お前、あんだけ力があるのに、剣の使い方は点で素人だな」
彼はため息交じりにそう言ってきた。まあゲームで疑似体験していたとはいえ、独学ではそうそう武器の使い方が上手くなるわけがない。
「そりゃ、剣なんて習ったことないですし……。というか、最後のは何だったんですか」
「ん? あれは闘気っていうんだが、知らなかったのか?」
「そういうのがあるっていうのは知ってたんですが、実際に見るのは初めてだったんですよ」
実際、ゲームでもそういう設定があるということは、公式サイトなどにも書いてあったが、自分には縁がなかったのであまり気にしたことはなかった。
「ふーん、まあそんなことはいい。あれだけの能力があれば並の相手には負けることはないだろう。だが、もっと上を目指すなら武器も使えるようにしとけ」
「そうなんですけどね……、何処か教えてくれるところってないですか?」
「王都に行けば道楽で道場を開いてるやつはいるとは思うが……。あとはギルドに依頼として出してもいいが、わざわざ商売敵を強くしてやろうなんて奇特なやつもいないだろう」
まあ、実戦で鍛えていくしかないのかなあ、と考えていると扉を叩く音が聞こえた。
「セリーヌです。入ってよろしいですか?」
「おう」
「失礼します」
一礼して入って来た彼女は、俺の方へ来てギルドカードを差し出した。戦い終わった後、彼女にギルドカードを渡してランクの更新をしてもらっていたのだ。
「こちらが新しいギルドカードになります」
受け取ったカードを見てみると、ランクがCになっていた。
「ランクC?」
俺はいきなりのランクアップに戸惑った。
「ああ、あれだけ戦えればBとかAでもいいんだがな。ただ、ランクBからはギルドや国家への貢献が関わってくるから、今上げられる最大ランクだ」
「はぁ」
俺はランクが上がれば何でも良かったのだが、意外にランクが上がったので戦ってよかったと思う。
「ランクFからCに上がるのは本来相応の数の依頼をこなして、適性試験を受けて頂くので、今回はかなり例外なんですよ」
「ははは、ありがとうございます」
「褒めてません」
あまり驚かず適当に返した俺に、彼女は呆れるように注意した。これで要件は済んだので、帰ることにする。
「さて、もう帰ってもいいですか?」
「ああ」
「では、失礼します。セリーヌさんも今日はありがとうございました」
「はい、また依頼の時はよろしくお願いします」
二人に別れを告げギルドを出た。外は完全に日が暮れていて、真っ暗の中、宿に戻った。
――――――
「あ、お帰りなさい!」
宿に戻るとリンちゃんが笑顔で迎えてくれた。今はちょうど夕飯時で、食堂にはたくさんの人がいて、彼女も忙しなく料理を運んだり注文を取ったりしていた。
「リンちゃん、何か部屋で食べられるものある?」
「そうですね、サンドイッチが作れますがどうしますか?」
「じゃあ、それでお願い。」
「わかりました。百二十センになるので料理を受け取る時に渡してください。料理はカウンターで渡します」
「わかった」
俺は食堂のカウンターに向かい、料理ができるのを待つことにした。その間、暇だったので食堂をぼーっと眺めていると、カウンターに座っていた男に声を掛けられた。
「なあ、兄ちゃん。兄ちゃんは冒険者かい?」
「ん? そうだが」
その男は、胡散臭い雰囲気を漂わせていてあまり関わりたくはなかったが、暇つぶしには良さそうだと思い、話に付き合うことにした。
「そうかい。なら、こんな話を知ってるかい? 始まりの森の怪奇現象」
「あー、知らないな」
「いいかい。今日、始まりの森で凄まじい火柱が出現したらしい。その近くにいた冒険者が興味本位でそこへ向かったそうだ。すると、そこには直径五メートルくらいの焼け跡があったんだ。しかも、その周りには同じくらいの規模で、木がズタズタに切り刻まれていたり、一面が氷で覆われていたり、大穴が出来ていたりしていたらしい。」
「へー、そうなんですか」
……物凄い心当たりがある。というか、確実に俺がやったやつだろう。
「何だ、兄ちゃん。あんまり驚かねえな。まあ実際に見なきゃ嘘だと思うか。けど、これはほんとの話なんだぜ。今その原因が色々噂されているが、ランクSの魔物が出たとか、天変地異だとかな。まあ、兄ちゃんも巻き込まれないように気を付けな」
「ははは、ご忠告ありがとうございます」
ちょうど料理が出来たみたいで、俺はお金を払い部屋へと戻った。
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