第4話 ギルドマスターに遭いました

 始まりの街に戻った俺は、依頼を達成する為にギルドへ向かった。


「依頼達成の受理をお願いしたいのですが?」


 いつもの受付で、俺はゴブリンの魔石をバックから取り出した。


 この世界では、アイテムストレージなど普通の人は使えるわけもなく、その代わりとなる空間魔法は存在するが、使える人はほとんどいない。なので、バックから出したようにして、魔石をアイテムストレージから五つ出した。実際にはその十倍くらい持っていたのだが、バックの容量的にそれが限度だった。


「はい。それでは確認しますので少々お待ち下さい」


 そう言ってセリーヌさんはルーペのようなものを持って魔石を鑑定し始めた。彼女の使っているものは魔石や素材などを鑑定する魔道具で、受付の人全員に支給されている。


「ゴブリンの魔石5個ですね? 確かにお受け取りしました。こちらが報酬二百五十センです」


 そう言ってカウンターに置かれたお金を受け取った。そして、報告としてゴブリンナイト達の魔石を取り出した。


「これは何ですか?」


 セリーヌさんは不思議そうな顔をして、首を傾げた。


「これは、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンヒーラー、ゴブリンシーフの魔石です」


「えっ!?」


 俺の言葉に彼女は眼を見開いた。


「はい。始まりの森でゴブリンを狩っていたら出てきたので、倒しました」


「倒しましたって、ランクFのあなたが? んー、……はぁ、本当に始まりの森に居たのね?」


 冒険者ランクは下からF、E、D、C、B、A、Sとなっていて、ゴブリンを狩ったことしかない俺は当然Fランクだった。ちなみに、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンヒーラー、ゴブリンシーフを単体ならランクE、四体同時ならランクCで四人以上のパーティーでの討伐が推奨されている。


「そうです」


 俺が答えると彼女はルーペで魔石を調べ始めた。そして、手を顎に当て思案顔で考え込んでいた。


「では、詳しい話をお聞きしますので、一緒にギルドマスターの所に来てもらってもよろしいですか?」


「わかりました」


 俺は彼女について行き、ギルドの二階へと向かった。




――――――




 二階に行くと、部屋の扉の前に着いた。扉の向こうからは何か得体のしれない空気を感じ、冷や汗が出てきた。


「ギルドマスター、緊急案件です。少しよろしいですか?」


「おう! 入っていいぞ!」


 どうやらギルドマスターはこの部屋にいるらしい。というか、緊急案件って何?


「失礼します」


「何があった、……ん? そいつは誰だ?」


 部屋に入るとそこは応接室のような場所であった。奥には作業机であろう物があり、そこにギルドマスターと呼ばれた人物がいた。ギルドマスターは禿頭で筋骨隆々のおっさんで、大工の親方や鉱山の現場主任みたいだった。そんなことを考えていると、おっさんがこっちを睨んで来た気がした。


「こちらは、今回の案件の情報提供者で、冒険者のショウさんです」


「ショウです。よろしくお願いします」


「ああ。俺はこの街でギルドマスターをやってるハグルってんだ。まあ、そこの椅子にでも座ってくれや」


 俺とセリーヌさんは彼の向かいにあった椅子に座った。


「じゃあ、説明してもらおうか」


 俺たちが席に着いたのを確認すると、彼はセリーヌさんに話の続きを促した。


「はい。まずはこちらをご覧ください」


 彼女は机の上に魔石を四つ置いた。


「これは?」


「これはゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンヒーラー、ゴブリンシーフの魔石です。これらの魔石はこちらの彼が始まりの森で狩ってきたそうです」


「それはお前が直接聞いたのか?」


「はい」


 彼は、ふむ、と頷いて俺の方を見た。


「そいつらとは森のどの辺りで遭遇したんだ?」


「えーと、森に入って三十分位歩いたところです」


「そうか……。森に入ってからやたらゴブリンに遭遇したりしなかったか?」


「いつもより奥に行っていたので、普段はあまり分かりませんが、戦闘が終わるとすぐ次のゴブリンに遭遇するくらいはいました」


 いつもは入り口で狩りをしていたし、ゴブリンを一匹ずつ倒していたので、それに比べると明らかに多いとは感じていた。


「やはりか。よし、もういいぞ」


 彼がそう言うとセリーヌさんは立ち上がり俺を扉の方へと促した。これで話は終わりのようだったので、気になっていたことを聞くことにした。


「あの……、今さらですが、何で俺の言うことをすぐに信じたんですか?」


 こんなFランクの冒険者が、いきなりCランクパーティーじゃないと倒せないようなモンスターを狩ってきた、と言われて信じるのはどうなんだろうと考えていた。この魔石が実はただの拾いものだったとか、買ってきたものだとかいう可能性もあるのだが。


 そう考えていると、彼はフッと笑い、


「なに、簡単なことだ。セリーヌは真偽眼を持ってるし、俺も似たような力を持ってるから、相手の言葉が嘘かどうかを見分けるのは造作もない」


「そうですか」


 この世界には、そんなものがあるのか。ギルドでありがちなのは嘘発見器の魔道具何だが、恐らくそう言ったものもあるのだろうが、この人たちがいるから不要なんだろう。


「では、失礼します」


 これで、用事は済んだので席を立ち帰ろうとすると、後ろから呼び止める声が聞こえた。


「あっ、ちょっと待て」


「……? 何ですか?」


 もう用は無いはずなのだが、と疑問を浮かべて振り返った。


「ちょっと俺と戦え」


「はぁ?」


 突然のことで目を細め、ハグルの方を見た。するとセリーヌさんは呆れた表情を浮かべ、溜息をついた。


「ハグルさん、強そうと感じた人に誰かれ構わず戦いを吹っ掛けるのはやめてください」


「はっはっはっ! 何を人のことを戦闘狂みたいに」


「というか、戦うことに生きがいを感じるのでしたら、そうでしょう?」


「ちげーねぇ! でも今回はちゃんと理由があるんだぜ?」


 俺は全く状況がつかめなかった。ギルドマスターという人種はバトルジャンキーなのだろうか。俺はそれに巻き込まれたのか。


「理由と言いますと?」


 そんなことを考えていたら、セリーヌさんが絶対零度の視線をハグルに向けていた。というか怖いです、セリーヌさん。


「お、おう。いや、な、こいつはランクFでゴブリン兵のパーティーをソロで討伐したんだ。なら、実力を見て相応のランクに昇格させるべきだろ? だから、戦うんだ!」


「そうですか。……では試験官にランクCの職員に頼むとしましょう。それでいいですか?」


「いや、待て待て! こいつは余裕で討伐してきたんだろ? だから、ランクCの奴じゃ役不足だ。で、今このギルドにいる職員でランクB以上は俺とお前しかいない。なら、俺がやるしかないだろ?」


 彼は、どうだ、と言わんばかりに胸を張っていた。


「はぁ、まあ一理ありますね。……いいでしょう。ということでショウさん、どうでしょう?」


「え? うーん」


 神力なんかを使っているため、あまり実力を曝したくないのだ。しかし手っ取り早くランクが上がるのなら、それに越したことは無い。


 ランクは各ランクで一定以上の依頼を達成して、その上で昇格試験を受けなければならない。一部例外はあるが、基本的にランクはコツコツ上げて行くしかないのだ。


 また、ランクが上がることで危険指定地域に入れたり、受けられる依頼で割のいいものが受けられたりする。しかし、ランクC以上になると緊急依頼への強制参加など面倒事もある。


 まあ、冒険者としてやっていくのなら、ランクは上げておいた方が無難かな。


 俺はそう決めると、彼女に返事をした。


「じゃあ、お願いします」


「わかりました。それでは訓練場の方へ行くので付いて来て下さい」


「はい」


 俺は彼女に付いて行き、訓練場へと向かった。




――――――




 訓練場はギルドの裏手にあり、野球場位の大きさであった。辺りを見回していると、ハグルに声を掛けられた。


「ショウ、魔法は使えるのか?」


「はい。ですが、威力が強すぎるので今回は使いません」


「あ? お前、俺を舐めてんのか?」


 俺の言葉を聞き、ハグルは俺を睨んできた。ただ、いくらハグルが強いと言っても、あの魔法を耐えられるとは考えにくい。仮に耐えられるとしても、あれを人に向かって使いたくはない。


「いえ、そういうわけではありません。そうですね……、何か訓練用の的はありますか?」


 実際に魔法の威力を見せるために、セリーヌさんに丸太のような物を用意してもらった。


「これでいいですか?」


「はい、大丈夫です。……では、いきます。ファイア」


 そう唱えると、的である丸太のようなものに火が纏わり付き、例のごとく火柱となった。


「なっ!?」

「えっ!?」


 二人は俺の放った魔法を見て唖然としていた。やはりこれは異常なようだ。ハグルの方が我に返えるのが早かったらしく、俺に矢継ぎ早に質問をしてきた。


「何だ、今のは! 本当にファイアか? だったら何であんな火柱が出来るんだ? 実は違う魔法なのか? いや、しっかりファイアって言ってたな。というか、詠唱破棄出来るのか?」


「えっと、少し落ち着いてください」


「いや、だからお前の魔法はどうなってるんだ? がはっ」


 全く収まる気配の無かった彼の後頭部をセリーヌさんが殴っていた。どうやらいつの間にか彼女も復帰したようだ。


「少し落ち着いてください。ショウさん、失礼しました。しかし先ほどのは一体何だったのですか?」


「それはまあ、秘密ということで」


 神力のことが知られるのは困るというのもあるが、何でこんな魔法になるかなんて知らないし、こっちが聞きたいくらいだ。


「そうですか、不躾な質問をしてしまい申し訳ありませんでした。」


 なんか勘違いしてくれたらしく、質問は回避したようだ。


「では、気を取り直して、ランク昇格試験を行います。ハグルさん、起きてください」


 そう言うと彼女は魔法で水を出現させ、ハグルの顔に掛けた。


「ぶはっ、何だ!」


「ショウさんの試験をお願いします、ギルドマスター?」


「っ!? ああ、よしやるぞ、ショウ!」


「はい。お願いします」


 ハグルの様子を見て、セリーヌさんを怒らせることはしないように心に決めた。

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