第3話 チートを確認しました

 依頼は始まりの森にいるゴブリンの討伐。報酬はゴブリン討伐数×五十センで、討伐証明にはゴブリンの魔石を提出する。魔物にはそれぞれ魔石が体内にあり、討伐依頼は魔石が討伐証明となる。ただ今回は依頼よりもチート特典の確認が目的である。


「さて、この辺りでいいかな。しかし、あんまり疲れなかったな」


 始まり街から始まりの森に歩いてきた。どうでもいいが、名前ぐらいつけておいてほしいと思う。それはいいとして、森に来るまでに五キロメートル程歩いたのだが、全く疲れなかった。ゲームの時は森に着くまでに軽く息が上がっていたのだが。


「うーん、やっぱりステータスが関係してるのかな」


 ゲーム中はあまりにも変化がなかったので気にも留めてなかったが、今は前の百倍近くステータスが上がっていたので、その可能性が高かった。


 ちなみに各ステータスについてゲームでは、HPは体力、MPは魔力値、STRは物理的な攻撃力、VITは物理耐久性や疲れやすさ、AGIは移動速度や俊敏性、INTは魔法による攻撃力、MNDは魔法や状態異常への耐性、DEXは器用さ、LUKは運の良さを示していた。疲れないのは恐らくVITによるものだろう。


「さて、まずは装備の確認からかな」


 神衣カムイは白と黒を基調とした狩衣のような感じで、下は袴のようでそれぞれの足を通す形になっている。全体的に元になっているものよりも簡略化され、動きやすさを追求されたものとなっていた。


 アクセサリー類については、パナケアネックレスSはシルバーのチェーンに瑠璃色の宝石のようなものが付いて、エレメントリングSは白色の金属製の腕輪、リストアリングSは黒色の金属製の腕輪、テレポブーツSは見た目は黒色の浅沓 (あさぐつ)であるが、木製ではなくゴムのような伸縮性のある素材で出来ているため足にぴったりで、さらに足音がしない仕様になっていた。


 そして、右手ではアマノムラクモを持ち、ゴブリンを探すために森の中を探索することにする。二刀流というのも考えたが、両手に剣を持っても使いこなせないので、剣は一本ずつ調べていく。


「さぁて、ゴブリンはどこかなー……っと、発見!」


 歩いていた十メートル先くらいにゴブリンを発見した。俺はゴブリンに向かって、両足に力を込めて全力で駆けだした。


「おぉー! っと、うわ!」


「グギャ!」


 全力で駆けだした俺は、そのスピードに耐えきれず勢い余ってゴブリンにぶつかってしまった。そしてぶつかったゴブリンは吹き飛んで、木に叩きつけられていた。


「っ痛……? そんな痛くない?」


 かなりの勢いでぶつかったはずだが、全く痛みを感じなかった。自分のステータスを見てもHPの減少は見られなかった。これもステータスの恩恵だと考えると、ステータスの凄さが分かる。


「はあ、あとで力加減の練習をしないとなぁ。ま、とりあえずゴブリンをサクッと倒しますか」


 ゴブリンはいまだに気を失っていたので、これ幸いとゴブリンに近づきアマノムラクモを振り下ろす。すると、ゴブリンは光の粒子に……


「あれ? 斬れない? というより、すり抜けてる?」


 何回もゴブリンを斬り付けているのだが、斬れないどころか掠り傷一つ付かない。そして、ゴブリンにゆっくり刃を当ててみると、なんと刃がゴブリンの体をすり抜けていた。


「うーん、これは後で検証かな。取り敢えずムラマサを試すか」


 俺はアマノムラクモをアイテムストレージに仕舞い、ムラマサを出しゴブリンを斬り付けた。すると、全く抵抗なくゴブリンは切断され、光の粒子となった。


「こっちは大丈夫そうか。しかし、斬り付けたのに空中で剣を振ったのかってくらい、何も感じ無かったな」


 ムラマサの方は高性能のようで、安心した。武器はいったん置いといて、次に神力の検証をすることにした。


「神力で出来ることは、恐らく第十級神の権限なのかな」


 第十級神の権限は、自身のステータス設定各一万まで、中級レベルの魔法・法力の無詠唱使用、自分より下位の存在のステータス確認である。ステータスはすでに全て一万になっているのでいじることはしない。なので確認するのは、中級レベルの魔法・法力の無詠唱使用、自分より下位の存在のステータス確認である。


 魔法や法力というのは人族が使うもので、魔物が使うのは魔術と言われている。魔法や法力は基本的に詠唱が必要で、詠唱さえすれば個人差なく一定魔力で発動できる。熟練者になると初級くらいであれば詠唱を省略出来るようになる。


 また、その規模によって初級、中級、上級と分けられている。初級は個人、中級は五から十人、上級は五十から百人規模を相手に出来る。一方、魔術の場合、基本的に詠唱は必要無く、完全に魔力依存で威力や規模が決まる。消費魔力は魔法や法力の方が少ないが、大規模の物になると魔術の方が圧倒的に効率がいいというのが定説である。


「さて、またゴブリン探さなくちゃかぁ。さっきステータス確認すればよかった」


 そう愚痴りながら、俺はさらに森を進んでいく。しばらく歩いていると、前方から複数の足音が聞こえてきた。


「ん? 敵かな?」


 今の俺はたとえ何体ゴブリンが出てこようが負ける気がしない。なので余裕が出てきているのだが、始まりの森といえど、結構深くまで来たのでゴブリン以外が出てきてもおかしくない。俺は剣を構えて足音の主が来るのを待ち受ける。すると、見慣れぬゴブリンが四体現れた。


「何だ? ゴブリンなんだろうけど、装備がなんかしっかりしてるな」


 現れたのは鎧を身に付け剣を持っているのが一体、ローブのようなものを着ているのが二体、服を着てナイフを持っているのが一体だった。せっかくなので、それぞれのステータスを見ることにする。



 名前:ゴブリンナイト

 性別:男

 種族:ゴブリン兵(中級モンスター)

 HP 130

 MP 10

 ATK 120

 VIT 110

 AGI 80

 INT 10

 MND 10

 DEX 10

 LUK 1


 名前:ゴブリンメイジ

 性別:男

 種族:ゴブリン兵(中級モンスター)

 HP 90

 MP 100

 ATK 15

 VIT 10

 AGI 30

 INT 120

 MND 100

 DEX 10

 LUK 1

 特殊能力:魔術(火)


 名前:ゴブリンヒーラー

 性別:女

 種族:ゴブリン兵(中級モンスター)

 HP 50

 MP 120

 ATK 10

 VIT 20

 AGI 20

 INT 100

 MND 120

 DEX 10

 LUK 1

 特殊能力:魔術(回復)


 名前:ゴブリンシーフ

 性別:男

 種族:ゴブリン兵(中級モンスター)

 HP 100

 MP 30

 ATK 80

 VIT 70

 AGI 150

 INT 20

 MND 20

 DEX 80

 LUK 20

 特殊能力:投擲、罠設置



 鎧を身に付け剣を持っているのがゴブリンナイト、ローブのようなものを着ているのがゴブリンメイジとゴブリンヒーラー、服を着てナイフを持っているのがゴブリンシーフらしい。ゲーム中にこんなのと遭遇していたら間違いなく瞬殺されていただろう。何せステータスが平均10だったのだから。でも今は違う。チートにより強化された俺はゴブリン達の百倍以上の能力がある。故に恐れるに足りない。


「さて、じゃあ魔法でも試しますか」


 いざ魔法を使おうとするが、無詠唱でのやり方がよく分からない。取り敢えず、詠唱破棄形式で魔法を唱えてみる。


「ファイア」


 ファイアとは火属性の初級魔法だ。指定した相手に炎を纏わり付かせ、相手を燃やす魔法である。本来はそうであるのだが、目の前には全く別の光景が広がっていた。


「うわぁ、……何だこれ」


 ファイアと唱えた後、ゴブリンナイトの体に炎が纏わり始めた。ここまでは良かったのだがしかし、この後が問題だった。その纏わり付いていた炎はゴブリンナイトを包み込み、次第に大きくなっていった。そしてみるみるうちに、直径五メートル程の天まで届くのではなかろうかという火柱が出来ていた。当然、周囲にいた他のゴブリン三体も巻き込んでいた。


「いやぁ、何だろう。もう初級じゃないよなこれ」


 その非常識な光景に呆然としていた俺は、その原因を考えた。考えられるものとしては、INTが高いことか、魔法も神力の力と考えるとエレメントリングSの効果もあるのかもしれない。いずれにしても、初級魔法が中級魔法以上の威力とか普通じゃない。そして、こんなことを考えている間も火柱は轟々とそびえ立っていた。


「しかし、いつ消えるんだこれ?」


 いつまでたっても消えない火柱に疑問を感じた。普通魔法は使ってから魔力を供給しなければそこまで長く続かないはずである。まして一応初級魔法であるので、普通なら十秒も持たないはずである。上級魔法になると魔法の保有魔力も大きくなるので魔力供給をしなくても維持時間は結構長い。なので、すぐに消したい場合は消えるように念じると消えるらしい。


 俺はそれに習って消えろと念じることにした。すると、火柱は一瞬で消えて無くなり、火柱があった場所には何も無い更地と化していた。


「なんだか力の制御がかなり面倒臭そうだ」


 その圧倒的な力に俺は呆れていた。初級でこの威力じゃ中級なんてどれだけ威力があるかわかったもんじゃない。下手すると、始まりの森くらい更地に出来るんじゃないか。ステータスの事といい、アマノムラクモのことといい、魔法のことといい、やらないといけないことが多すぎる。


 そんなことを考えながら色々調整しつつ、しばらくゴブリン狩りを続けて、日が傾き始めた頃に街へ戻って行った。

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