森神様と少年
地図にも載らない、名もない村を囲む深い深い森。城下街のはずれのはずれ、田舎町のさらに西、田舎の村よりさらに南にひっそり暮らす人々。
森を崇め、木を愛し、自給自足する村人を護る神様はとても愛らしい名前のない女神様。
違う色の瞳に、太陽のように輝く長い髪。乳白色の透きとおった肌。伝えられるその容姿はこの世に2人といない美しい少女だという。
村の外れにある広場に木彫りの像が飾られ毎日花が捧げられている。
不作で餓死にしてしまいそうになると果物や動物を恵んでくれる。
子どもが森で迷うと探してくれる。
嵐に倒れた家を建てる資材を持ってきてくれる。 怪我や病のときも、森神様がかつて知恵を纏めた本が役に立つ。
森神様は頼まなくとも、祈らなくとも何でもしてくれた。確かに存在するのだ。
昔々のそのまた昔からの言い伝えで森神様は畏怖されている。森の奥へは、禁断の岩の向こうには誰も踏み入れない。
竜を宥め、大陸を割き、島を作り、雪崩を起こし、城を破壊、嵐を呼び、数々の罰を人に下したという。
ほとほと人に嫌気がさした神様が森を護ることにして幾百年、小さな村の住人を何故助けるのかは伝承されていない。
村の少年がある時掟を破り、ずんずんずんずん深い所まで踏み込んだ。
猪を追いかけるのに夢中で、ほんの少しならと思っていたら迷子になっていた。
うろうろしているうちに、太陽は沈みはじめた。遠くで狼の遠吠えが響く。
迷っていると、小さな泉のほとりに周りよりもうんと大昔から聳えていそうな古木があった。
その根の上に可憐な少女が座っていた。少年は丸い目をさらに大きく見開き、口を開けた。その美しさに、唇が塞がらない。
「あの人に似て、相変わらずお転婆ね。」
それからにっこりと微笑んで少年の両手をそっと取った。
「ずっと誰かと話がしたかったの。」
そうして少年は少女に出会った。最後の出会い。
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