第34話 ワタシハナニモノ?

シドニアは忌み子だ。誕生した瞬間、教会の司祭様から宣告された。


腕が良いと評判の医者である父と、教師の母の両親。わたしが生まれた事を喜んでくれたのは、二人だけ。


原因は髪と目だ。ただ、それだけ。聖ヌミノス教会に残る教えに『異なる髪の色、目の色は災いを招く』。そんな一文があった。何故、そんな一文が残っているのか、誰も知らないらしい。


わたしの髪は頭頂部から肩辺りまでは、燃えるような赤髪だが、その下にいくほど、色が薄くなり、栗色へと変化している。両目も色違い。右目は紫色。左目は黄土色。夜だと、猫の目のように光るらしい。自分では分からない。


世界は最初から、わたしにとても厳しかった。痛いほど辛かった。両親は、それぞれの特徴を受け継いでくれて嬉しいと言った。

けれど、周囲の人間は違った。父や母の親兄弟、友人、仕事仲間、親戚は容赦なく責め立て、追い立てた。父や母や反論した。抵抗した。それでも、仕事を失い、家を失い、居場所すら失った。


それでも両親はシドニアといる事を選んだ。各地を転々とした。父や母は行く先々で信頼された。慕われた。わたしは嫌われた。疎まれた。殺されかけた。

時々、立ち寄った町や村で、人々がここで暮らしてほしいと嘆願する事があった。でも、両親は受け入れなかった。理由は知っている。わたしのいないところで、わたしを捨てて欲しいと要求されたからだ。


両親には居て欲しい。でも、忌み子のわたしはいらない。


その度に、両親は悲しみ、私と共に旅立つのだ。変わらず、わたしを愛してくれる。それが、わたしには重くなり始めていた。


何年もの放浪生活の末、清洲にある春日町に辿り着いた。この町では、医者を必要としていた。わたしは相変わらず疎まれたが、父の医者の腕は買われ、しばらくここで住むことになった。

居心地がいいとはいえなかったが、疎まれるだけで済んだ。運が良かった。


ある日。同い年の女の子と出会った。綺麗な金髪と翡翠の瞳。とても羨ましい髪と瞳をしていた。女の子はエルメールと名乗り、友達になった。生まれて初めての友達。嬉しかった。


エルメールは春日町の住民ではなく、警備の仕事で訪れた傭兵の一人娘。お父さんは有名な傭兵らしく、自慢げに色々と話してくれた。妹が欲しかったと、お姉さんの様に遊んでくれて、一緒にいてくれた。


本当のお姉さんだったら、よかったのにな。


町が襲われたのは、しばらく経ってからの事だった。訳が分からないまま、色んな人達が殺された。耳を引き裂くような気が狂ったような悲鳴が、あちこちから響き渡った。

この日に限って、父と母は留守にしていた。数日前に、隣の村で病人が出たと出かけることになったのだ。本当なら、母が残るはずだったが、人手がいることもあり、エルメールも一緒にいてくれると言ったため、寂しかったけど、二人を送り出した。


町が炎に包まれる。膝を抱えて、隠れていた時、聞き覚えのある声が聞こえた。エルメールだった。小屋の中で、男の人に襲われていた。


その時、わたしは何も考えてなかった。ただ、友達を、エルメールを助けたかった。何とか、エルメールを助けたら、今度は自分が襲われた。酷い目に遭わされそうになっていた。

恐怖で顔が引きつった。服を破られ、手が肌に触れた時、強烈な嫌悪感が走った。


泣き出したかった。そんな時、声が聞こえた。人を探している声だった。男の人は、わたしを押さえつけ、息を潜める。声の主は誰もいないと思ったのか、足音が遠ざかっていく。


わたしは抵抗した。男の人は油断しており、近くの薪を転がして音を立てた。声の主の足音が止まる。今度は、緊張感に満ちた声で、こっちに向かって呼びかけた。


男の人は、わたしを締め上げるように持ち上げ、刀を顔に突きつけながら、小屋を出た。


大和人らしい男の人が、剣を構えていた。二人の男の人が叫び合った。助けようとしてくれている男の人は、嫌悪感に顔を歪ませている。


このままじゃ、駄目だ。わたしは最後の力を振り絞り、男の人の腕に噛み付いた。悲鳴を上げ、わたしを締め上げていた腕が緩み、這うように逃げ出した。


けど、駄目だった。強烈な足蹴りがお腹にめり込み、わたしは思い切り地面を転がり、思い切り、吐いた。


そこら先は、あまり覚えていない。ただ、わたしを襲った男の人が、わたしを殺そうとして、助けようとしてくれていた男の人が、その人を殺していて。

そして、悲痛な叫びを上げていたことを。覚えている。


薄れていく意識の中、私はぼんやりと思う。エルメールがヒドイ目にったのも、町が襲われたのも、助けてくれた人が苦しみを抱えることになったのも、わたしのせいなんだ。


------やっぱり、わたしは忌み子なんだ。忌み子でしか、ないんだ............。

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